第12話 閑話
《ラクシャリーの思い》
行ってしまった。
ラクシャリーはそう思いながらヒムロの背中を見送り続けた。
初めて会ったあのとき、ラクシャリーは……いや、その場にいた全員、ヒムロの容姿と雰囲気に驚いた。
伝説の『魔王』が降臨したのかと思ったのだ。
くすんだ緋色の髪に鳶色の瞳の美しい容姿。
そして、誰にもハッキリと解る、圧倒的強者の雰囲気。
魔剣ゼロエロが事あるごとに彼を魔王呼ばわりしていたが、皆が内心同意していた。
ラクシャリーは最初、「貴方は魔王様ですか?」と尋ねてしまったくらいだ。
彼のような人間が普通にいる『地球』という世界は、さぞかし危険だろう。
さてドークリーは生きているのかな、とラクシャリーは冷ややかに考えた。
端的に言って、ラクシャリーはドークリーが嫌いだ。
ヒムロは魔法が使えないにもかかわらず皆から頼られるのに対し、ドークリーは魔法を使って事故を起こし周りを巻き込み仕事を増やす、しかもわざとなのかと言いたくなるくらいラクシャリーのいるところでやらかす。
ラクシャリーにとっては害悪を通り越して天敵だった。
そういう意味では、ヒムロと同じくドークリーも魔法が使えないくくりだ。
使った結果が伴わなければ魔法を使う意味など無い。
そして、同じ魔法が使えない者ならば、ヒムロの方が比べるまでもなく頼りになる。彼は、魔法は使えないが自分で出来るからだ。
最初は驚いた。魔法を使わずに手でカップに水を注ぐのだから。
「こんなん魔法を使わなくてもできるだろ」と言う。
確かにそうだ。小さい頃は使わなかった。
でも、大人になったら皆がやる。
何しろ、この魔法は基礎中の基礎。魔法を習うときに魔法の制御として行うからだ。
これがドークリーなら、魔法を使って水をまき散らしカップをひっくり返して大惨事を引き起こし、ラクシャリーが後処理に奔走させられる。
「こんな基礎魔法を失敗するのならば、もう一度学生に戻ってやり直せ!」
と、怒鳴りつけたい気持ちをいつも必死で抑えている。
こんな有り様でどうして卒業出来たのだ親の力かならばいっそ魔法が使えないということにして付添人を雇え……! と呪詛を吐きそうになる。
ヒムロがこのままドークリーと入れ替わったままでいてほしいと願っているのは、ラクシャリーだけでなくビーネとブランドーもだ。
魔剣を携え魔法が使えるようになったヒムロは、役に立つどころの騒ぎではない。
期待の新人、まさしく助っ人、古代遺跡物の運搬に魔獣の討伐を任せられる希望の星だ。
ドークリーにヒムロの代わりは勤まらないし、もっと言うなら「いないほうが局のため」とすら思っている。
――そう考えているメンバーがほとんどの中、唯一マーナガルだけは複雑な気持ちでヒムロを見送っていた。
そう、マーナガルだけがドークリーの安否を心配していた。




