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緊急事態発生

あの日から二週間が経過したが、いまだに俺と氷の視界には《攻略対象》の文字が。しかも消滅するどころか、表示項目を増やしているのだから非常にマズい。


現在、俺の視界左上には《雪原 氷を攻略せよ》の文字に加えて《現在時刻》《今日の天気》《現在の気温》という項目が追加された。なんか普通に便利だ。

氷に関しても俺と同じようで、なぜか便利な方向へアップデートされた視界左上に戸惑いつつも、ちょっと快適さを感じてしまっているらしかった。


今日はしとしとと雪の降る金曜日だ。視界左上によると《今日の天気 雪》《現在の気温 三度》との情報が。こんなに寒くなるなんて思ってもいなかったので、去年の今頃は持ち歩いていたお気に入りの上着を家に置いてきてしまった。昼食前の地獄ともいえる時間帯の四限を切り抜けるには、あまりに寒すぎる。おまけに窓側の席に座っている俺にとっては、なおさら辛い。

しかし、四限もあと......十分ほど。

このまま耐え抜けば、昼食というオアシス到達である。


「ねえ」


背後から声が掛かった。

今は現代文の清水の授業中であることを分かっての行動なのだろうか。

教員の中でもとりわけ厳しい清水の授業では、眠ることはおろか思考をあらぬ方向へ傾けることさえも許されない。『今日は何食べようかな』とか授業に関係ないことを考えてゆめうつつになろうものなら、清水によって何故かすぐに思考を読まれる。どういう能力だよ。


「ねえってば、綾瀬君や」

「何だ? 俺は訳あって振り返ることができない」

「お。何かかっこいいこと言ってる」


うるさいな山田 百々ももせ。お前は俺の背中に隠れていられるだろうが、俺の前の巨大な剣道部の高島は風邪引いて今日休みなんだ。教師の目を欺く壁がないんだよこれ以上話しかけないでくれ。


「悪いが問三の答えなら教えられないぞ。何故なら俺も解けていないからだ」

「私はもう解いてるからいらないよ。それより、綾瀬君と氷ちゃんって付き合ってるの?」

「付き合ってないと何度言えばいいんだ」


この山田 百々ももせ。何故かは分からないが、俺と氷の関係をやけに気にする。


「ええ〜。本当に? じゃあ何で毎日一緒にご飯食べてるのさ」

「前も言ったじゃないか俺と氷は幼馴染で......」


と、そこまで小声で話したところで、俺の視界左上に変化が生じた。


《雪原 氷を攻略せよ》の文字が、先ほどまでの緑色から黄色に変化している。何だこれは。

こんな変化は、この一週間の中で一度も起こらなかった。


「何だ......?」


小さく呟いて、俺はすぐ下の表示へ目線を動かす。


《好感度 135》


こちらはほとんど変化していないようだ。先日、氷が放課後に『お腹空いたぁ』とか言うんで、ポケットに入っていたクッキーを渡した時にやや上昇したあの日から、多分変わってない。

じゃあ、この黄色に変わった表示は何なんだ?

俺の思考などつゆも知らず、山田は俺の背中をこんこんとつつく。ちょ、ちょっと待て山田 百々瀬。今はこの黄色に関する推測をだな。

と、そこで俺の携帯が短く振動した。机の下で、ズボンのポケットから引っ張り出した携帯の画面をチラリと見る。

ーーー氷からだ。


《マズい。マズすぎます。授業終わったらすぐ屋上!》


こんな文章が送付されていた。

氷がメッセージ飛ばしてくる時は、こんな長文(これで長い判定なのは意味不明かもしれないが)が送られてくることはない。氷の送信してくる文はせいぜい《おけ》とか《はよ》みたいに二文字で構成されているものばかりだ。

ーーーもしかすると、さっきの左上の表示が関係しているのか?

何だか嫌な予感を感じたが、ひとまずは授業に集中......


「せんせーっ! せんせーっ!」

「なっ......」


突然、後ろの山田が現代文の清水へ向かって叫び、手を掲げた。コイツまさか......

山田に反応した清水が、こちらへ振り向く。


「ん? 何だ山田。分からんところでもあったか」

「せんせー! 何か綾瀬君が......」

「!?」


コイツは、先ほどの俺のぞんざいな対応にしびれを切らし、仕返しとして俺を清水に売ろうとしている(多分)。今それをされると、昼休みが全部清水のお説教で埋め尽くされ、氷からの緊急呼び出しを無視することとなってしまう。氷からのメッセージが示した焦りようはかなりのものだったし、俺自身も氷と話して視界左上の変化についてを調べたい。だから今、山田に邪魔される訳にはいかんのだ! 山田買収作戦開始。


「山田。昼飯奢り。どうだ?」

「......」


くそコイツ頷かねえ!


「どうした山田ー? 綾瀬も何か質問があるのか?」


ひぃー!

くそ。かくなる上は!


「山田。昼飯二回奢りだ」

「もうひと押し」


マジかこいつ!


「分かった三回で!」

「いいでしょう......せんせー! 綾瀬君が分からない部分があるらしくて」

「は?」


うわ助かったけど絶妙に嫌。


「おおそうか綾瀬。でもすまない、教えてやりたいのは山々なんだが、もう授業が終わってしまうので放課後でもいいか?」


さようなら、俺の放課後と三回分の飯代。でもひとまず昼休みの消滅は回避だ。

にしても、何でこんなに山田は俺たちのことを気にするんだ? 特に氷と山田はほとんど関わりもないはず......

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