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8、御者は心臓に悪い

 思わず御者の仕事を受けてから、パン屋に帰る途中、言い表しがたい罪悪感が足から()い上がってきた。シルさんには申し訳ないが、理解してもらうしかない。アップルパイを買って帰れば大丈夫だろうか。


「シルさん。」


「早かったわね。」


「その...。」


「あら、何かあったの?」


「実は━━」


私が詳細を思い出しつつ話すのを、うんうんと頷きながら聞いてくれた。きっと焦れったかっただろうに。最後の方は少し目元が光っていたような気がした。


「分かったわ、いってらっしゃい。」


「良いんですか?」


「ええ。サンディ村長には私から行っておくわ。行きなさい、急ぎの用なんでしょ。」


「じゃあ、これ。」忘れる前に手渡さなければ、何か渡さなければいけない気がした。


「これは?」


「さっき買ったアップルパイ、何か買って帰った方が良いかなと思って。」


「ハルヒさんらしいわね。ありがたくいただくわ。」


「はい、私だと思って大切に食べてくださいね。」


「そんなこと言われると、一生食べられなくなるわ。」


「では、いってきます。」


「ええ、待ってるわ。」


最後にシルさんの笑顔が見れて良かった。本当はサンディさんに挨拶したかったが、私の依頼主は急いでいたようだったので、必要な荷物をまとめて行くことにした。荷物は結構軽かった。まあ、私が元々何も持っていなかったということもあるのだろうが。




 戻るときにチラッと見えた馬車の方に歩いていくと、ザ・現場みたいな雰囲気が漂っていた。筋肉ムキムキの男の人が荷物を積み込み、私がさっき話したおじさんは発破を掛けていた。


「あの...。」


「ああ、あなたですか。待っていたんですよ。」


「荷物は?」


「積み荷と分けて、荷台に入れておきます。では、これを。」そう言うと、何やらおはじきが入っているような巾着袋を私の手の上に載せた。


「これは?」


「仕事の前金です。」


「え?」この世界は前金があるのか、私が持ち逃げするとかは考えないのだろうか。


「いえ、もちろん半分ですよ。運送が終わり次第、もう半分も。」


「あ、はい、分かりました。」


「では、出発できますか?」


「やってみます。」


パン屋への未練、初めての御者、高そうな積み荷、色々と気になることはあったが、仕事をするならまずは集中だ。馬に鞭を打つと、ゆっくりと走り出した。後ろ髪を引かれるのを我慢しつつ、背筋をピンと張っていれば、私が初めて御者をやっているとは気付かれないだろう。




 止まることなく、私たちの馬車を進んでいった。途中で休憩しないかと聞かれたが、丁重にお断りした。何せ、馬車の停め方なんて知らないのだから。


「本当に休憩しなくても?」


「ええ、大丈夫です。体力と集中力には自信があるので。」


「ここは平原なので遠慮なさらなくても。」


「いえ、予定が遅れているのでしょう?」


「やはり、あなたはスゴいですね。」


「いえ、それほどでも。」私の視線は馬車の進行方向に釘付けされていた。後ろを向いた瞬間に、何かにぶつかりそうな気がした。


「では、私は一眠りするので、日が暮れる前に起こしていただければ幸いです。」


「分かりました、頑張ります。」


馬車は陽気な日差しで照らす太陽の下を走っていた。このままだと寝てしまいそうだ。もしそんなことをしたら...。鞭を持つ手の動きが硬くなってきた。変なことを考えて緊張したからだ。




 私が御者になって初めて起きた問題は2つ。馬車の停め方とこの馬車の行く先だ。私にはこの馬車がどこに向かっているのかも、どこに向かえば良いのかも分からない。いや、本当に困った。取引相手との約束をすっぽかしたのと同じくらいマズい。


(あ、日が暮れてきた。)


「あの、止まってくれない?」


「馬さん、止まってもらえると。」


ヒーン


「馬さん、止まって欲しいのですが。」


「お馬さん、止まってください。お願いします。」


ヒヒーン


「ありがとうございます。」


私の思いが通じたのか、馬が、いえお馬さんが止まってくれた。私のジョブ・御者Aランクのおかげと考えるのは、身も蓋もない気がした。サッと手綱(たづな)を傍の木に括り付けて、御者のそれらしくどっと構えていることにした。


「あの、日が暮れそうですよ。」


「ああ、もうそんな時間か。さすが、良い馬車(さば)きだったよ。」


「今日はここで野宿なんですか?」


「まあ、そうだね。予定だったら、ここは緑の草原だから安全なはずだ。」さっと手帳を開いて見てから言った。いつもそうなら、今回も大丈夫だろう。ここが緑の草原だったらの話だが。


「見張りはどうしましょう?」


「ん、そんなの要らないよ。じゃあ、夕食を食べたら寝るということでよろしいかな?」


「はい、夕食は私に任せてください。」


「ふむ。」


夕食を食べ終えると、長い長い夜が始まった。ここが緑の草原であるという確証は無いので、起きたら私たちに魔物が群がっているということも十分ありえるのだ。私は絶対に魔物なんかに食べられたくない。『人生hardmode(ハードモード)』にしたつもりは無かったんだけどなぁ。

さて、御者の仕事を無事にこなせるのでしょうか?


まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。

もし面白いなと思っていただけたなら、ポイントやリアクションもお願いします。

今後とも八咫烏をよろしくお願いします。

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