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5、パン屋はまだ繁盛

 帰って来たシルさんは人生が終わったかのような顔をしていた。まったく何があったというのだろうか。シルさんには悪いが、私の好奇心が理性に勝ったようである。でも、いつかは聞く必要があることかもしれないから、考えようによっては仕方ない。


「シルさん、どうしたんですか?」


「...。」私の顔を一瞥(いちべつ)したまま俯いてしまった。こうなってしまうと、私からとやかく言いづらい。


「...。」


「その...。」


「実はパン屋ができたんですよ、この先の所に。それも都市部からの支店で、もうどうすれば良いのか...。」


「別のパン屋ですか?」


「そうよ。あっちは都市部の支店だから、より安く作れるし、材料にもお金をかけられるから、より美味しいのが作れるのよ。」


「つまり、商売敵ということですか?」


「商売敵だったら、どうにかなるんだけど、強さが桁外れだから。」頭にかぶっていたコック帽を手に抱えて、銅像のように押し黙ってしまった。




 こういう時に私が何かをする必要があるのではないか。せっかくパン屋になったのに、2日目で終わりなんて寂しすぎる。安くても美味しいパンが思い付けば良いのだが。


「新しいパンが作れれば、また違うんだけどね。」


(新しいパンか。)


「はぁー。」


「そうですよ、新しいパンですよ。一緒に作りましょう、世界でここにしか売っていないようなパンを。」ふと名案が浮かんだ。このパン屋のパンを見れば、私たちが何を作れば良いのかくらい簡単だ。


「そんなこと言っても...。」


「良いから、行きますよ。」


「分かったわ。何か考えがあるんでしょう?この際、乗ってあげるわ。」期待しているのか失望しているのかは分からないが、私は自分にできることをするだけである。


「パンの生地を作って貰えますか?」


「任せな。」


みるみる材料が混ざっていき、きれいなクリーム色一色に染まり上がった。どんな時にでも良いものを作れるから、プロなのであろう。こればかりは私がどうあがいても追い付かないが、知識なら別である。よく考えてみれば、私は異世界から来たのである。


「私の真似をしてくださいね。」


「分かったわ。」




 まずは、定番から作ることにした。そう、私が好きなアンパンである。これなら、私たちでもどうにか作れそうな気がした。シルさんも生地をこね始めたら、スイッチが入ったようなので、新しいパン作り開始である。


「まずは、生地を球状に分けてください。」


「分かったわ。」私が目を離した隙に、ほとんど同じくらいの大きさの球が出来上がっていた。


「生地を手に乗っけて、こうです。」


「こう?」


「違います。生地の周りだけを押さえてください。そうしたら、これをこうです。」


「それは、まさか...。」


「はい、あんこです。」やっと気が付いたか。想像していたのより反応が薄いが、まだお客さんが残っている。


「それを入れて良いんだな?」


「はい!」


「分かった。」


何か汚いものか、爆弾を触るような手つきで、アンパンを作り始めた。まったく、ただのパンだし爆発もしないよ。さあ、次はジャムを中に入れようかな。それとも、ソーセージにしようか。あえて塩パンを作るのも悪くない。




 結果だけ言うと、パン作りは大成功だった。私が家で簡単なパンを作っていたということもあるが、一番はシルさんの腕前だろう。始めの方はあんなだったのに、慣れてくると目についたもの全てを入れようとしていた。さすが、パンへの好奇心は私以上だった。


「ハルヒさん、始めますよ。」


「はい。」


「では、いきますよ。」手術をしている時のように、真面目な顔で真面目な口調で話していた。


「どうぞ。」


始めは少しだけパクとして、それからはパクッパクッとし始めた。


「これ、いけます!」


「ありがとうございます。」


「では、これも......美味しい!」


それからはバイキングが始まった。私もシルさんも我先にとパンを頬張り始めた。さすが、いつどれくらい食べてもパンは美味しい。それに、このジャムたちも中々美味しいものが揃っていた。


「シルさん...もぐもぐ...これならいけそうですか?」


「そうですね...もぐもぐ...これなら...いけますよ。商売繁盛間違いなしです。」口にパンを詰め込んだまま、私に向かって親指を立ててきた。


「お役に立てて良かったです。」


「今日は売上を見て、ごちそうにしないとね。」


「はい!」


やっぱり仕事は何かを達成した時の気持ちが最高だ。まさか、私が家で手伝わされていたパン作りが役に立つ日が来るとは。何となく微妙な気持ちである。




 翌日、希望を抱いてパンを並べた私たちに問題が降ってきた。予想だにしていなかった出来事である。どうすれば良いのだろうか。私はこんなのを前世で習った記憶はちょっとも無かった。


「ハルヒさん、そっちをお願い。」


「分かりました。」


「一列に並んでください。」


「お願いします。しっかり全員分ありますから。」


「ああ、もう...。」シルさんは干からびたミミズのような声を上げていた。ああ、もうどうすれば。


(ああ、お客さんが多すぎるよ...。)


シルさんは半分死にそうだったし、私もお客さんという魚の渦に取り残されたようで、何だか息苦しくなってきた。誰だよ、こんなことにしたのは!

さて、パン屋の仕事をこなすことができるのでしょうか?


まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。

もし面白いなと思っていただけたなら、ポイントやリアクションもお願いします。

今後とも八咫烏をよろしくお願いします。

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