表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

3、農家はもう終わり

 サンディさんのお手伝いとして、野菜の世話を始めてから4日経った。4日間ですべきことを大体掴んだ。朝起きたら、まずは収穫だ。朝日が山越しに昇って来るのを見ながら、トマトやピーマンを(かご)に丁寧かつ素早く採っていった。


「ハルノさん、調子はどうだい?」


「上々です。」こんなに爽快な空気の中で、気分が落ち込む訳が無い。息をすればする程、体の中の悪い物が出ていくようであった。


「そうかい、それなら良かった。」


「こんなに野菜が採れましたよ。」


「もう慣れたんだねぇ。覚えるのが早くて助かるよ。」


「今日の朝食も一緒にどうですか?」


「もちろんだよ。今日は何が食べられるのか楽しみにしてるよ。」いつも通り、ハハハハッと肩を揺らしながら、家の方へ歩いて行った。


「ご期待に添えるように頑張りますよ。」


毎朝の食事は私が作ることになっている。料理と手伝いで宿代を帳消しにできているのだから、サンディさんには感謝しかない。ちょっと木に止まっていた小鳥を眺めていたら、もうサンディさんはいなくなっていた。本当に元気な人だ。




 私が宿に戻ると、サンディさんは仕事を始めていた。彼女がお客さんと話している間に、朝食を作り終えねば。いつも通り、トーストや目玉焼きを作ることにした。これが一番無難であろう。失敗するのは絶対に避けないといけない。


「できたかい?」サンディさんがひょっこりとキッチン覗いてきた。興味津々そうに私の料理を見回し始めた。


「もう少しですよ。スープが温まれば完成ですよ。」


「待ち切れないねぇ。朝の楽しみが増えて、私は幸せ者だね。」


「おだてても早く完成しませんよ。」早く食べたいという気持ちを抑えて、しっかり具材が柔らかく、味がほんのりと染み込むまで煮るのがコツだ。


「もう、できたんじゃないかい?」


「あと2分くらいですかね。先に他のものを食べましょうか?」


「それが良い。飲み物はいつも通りで良いね?」


「はい、お願いします。」あれはいつどんな時に飲んでも美味しい。食べ物を隠さずに、それでいて合わさることも無く、絶妙のラインを保っている。


「じゃあ、食べようか。」


(いただきます。)


いただきますと言うのは、心の中で留めておくことにした。目立つのは嫌いじゃないが、変な人だと思われるのは正直言ってあまり嬉しくない。


「さすがだねぇ。いつ食べても美味しいよ。」


「ありがとうございます。」


「ハルノさんをただの農家にしておくのは惜しいね。」うんうんと首を頷かせながら言い始めた。サンディさんがすると、中々様になっているのが不思議だ。


「褒めすぎですよ。」


「それで、ちょっと重要な話を言いかい?」


「はい、どうぞ。」




 私の気持ちが緩むのを待っていたのか、急にサンディさんが仕事をする時と同じ、真面目な顔になった。さっきまで私を褒めていたことを考えると、何か私関連で問題が起こったに違いない。思わず、スプーンとフォークを机の上にピタッと揃えて置いてしまった。


「何でしょうか?」


「実はね、私の息子が出稼ぎから戻って来るらしいんだよ。」


「つまり...。」私の頭が高速で働きだした気がした。でも、すぐに空回りし始めた。


「私の仕事を助けてもらう必要は無くなったんだよ。」サンディさんの視線が少し下に落ちた気がした。


「全然、私は大丈夫ですよ。他の仕事を探せば良いですから。」


「済まないねぇ。仕事はもう見付けてあるから、明日から仕事を変えてもらえるかい?」


「はい、分かりました。」


もうちょっとサンディさんの手伝いをしたかったが、自分の生活をいつまでも彼女に頼っている訳にはいかない。私は人に借りを作るのがイヤだったはずだ。私の次の仕事は何だろうかと、目を細めて遠くを見た。そうしないといけない気がした。


「でも、ハルノさんだったら、どんな仕事にでも対応できると思うよ。このサンディ村長が言ってるんだから、間違っている訳が無いさ。」


「はい。」


「じゃあ、私は先に仕事に行くよ。」


「はい。」


「最後なんだから、きっちり締めておくれよ。」


(最後...私は何をすれば...。)


「じゃあ。」彼女いつもの笑い声も、私の頭と同じで空回りしていた。何だか、この部屋に虚しく響き渡っている気がした。




 この世界に来て、初めて悩んだ気がした。野菜の世話なら、やったことがあるから困ることは無かった。でも、最後に何をしようか。ただ水をあげるだけじゃ、何だか私の感謝の気持ちが水くらい薄そうに思われてしまうそうだ。


(水やりだけじゃ...。)


(何か他のものも。)


「そうだ!何か肥料でもあげれば良いんだ。」


でも、私はサンディさんが肥料をあげているのを見たことがない。というか、彼女の家にも、畑の近くにもそんなものは見なかった。つまり、この世界に肥料は無いか、とても高級であるということだろうか。でも、肥料を作るのは簡単だ。


「サンディさん、要らない小枝とか枯れ葉とかありますか?」


「小枝と枯れ葉かい?」私がついに気が狂ってしまったとでも思われたかもしれないが、彼女なら笑いながらくれるはずである。


「あそこに積もっているよ。」


「ありがとうございます。」


「あんなもので良ければ、いくらでもあげるさ。」


私の仕事は最終日とて減るわけでは無いので、肥料を作る分だけ急がねば。サクッと、さっきもらった小枝と枯れ葉を燃やして、灰を作った。それをまだ収穫していない野菜の畑の土に混ぜ込んだら完成だ。収穫する時のサンディさんの顔を思い浮かべただけで、思わず笑みがこぼれてしまった。

さて、どんな次の仕事が待ち受けているのでしょうか?


まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。

もし面白いなと思っていただけたなら、ポイントやリアクションもお願いします。

今後とも八咫烏をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ