1、異世界は自然豊か
ピピッピピッピピッ
無機質な目覚まし時計の騒ぎ声に起こされて、私の1日は始まる。目覚まし時計の頭をさすって騒ぐのを止めてもらってから、私は布団から這い出る。そして、色々してから病院に働きに行く。私が医者になることになったのは3年前のことである。
「就職先は決めたの?」
「まだだよ、母さん。」
「そんなに愚図々々していると、就職のビッグウェーブに乗り遅れるわよ。もう医師免許を取ったんだから、医者で良いでしょ?」
「イヤだよ。私は色んな仕事をしたいの。」
「あんまり仕事をなめるんじゃないわよ。お父さんも何か言ってくださいよ。」私の母さんは、何かに困る度に父さんにどうにかしてもらっている。父さんもそれを先読みしているから、余計に始末が悪い。
「まあ、落ち着け。もう就職先は決まってるんだから、今更騒ぐことじゃない。駅前に病院があったろ、えーと...。」
「中央病院?」
「そう、それだよ。」
「まさか、そこに...。」
「ああ、すでに申し込み済みだし、しっかり採用してもらえたぞ。そうそう、明後日の月曜日から仕事だから、初日から遅れるんじゃないぞ。」
「ちょっ、何勝手に━━」
「あら、さすがお父さん、頼りになるわねぇ。今日はお祝いで、お父さんの大好きな天ぷらを買ってくるわ。」
足をついて崩れ落ちる私とは裏腹に、母さんは飛び上がらんばかりに喜んでいた。この2人がまとめた意見に口出しできないことは疾うの昔から知っている。でも、自分の人生の分岐点で、遠慮してしまう自分がイヤになった。色んな事から興味が無くなったのは、この時からな気がする。
私の朝ご飯はお雑煮と相場が決まっている。材料を全部鍋に放り込んで、その間に着替えを済ませる。時々、冷蔵庫が「電気代のムダだ!」と言ってピピピピッと騒ぎ始めるのにも、もう慣れっこだ。あとは病院まで走るだけだ。バスを待つ時間があったら、いち早く病院に行って仕事を片付けたい。
「先生、今日はテキパキ頼みますよ。」
「そんなに多いの?」
「はい、今日は70人程です。」
「そう。」
「急いで始めてください。もう待合室に患者が入ってますよ。」
モニターを見てキーボードを打ちながら、受付の看護師が独り言を呟くように言った。他にもうちょっと言葉が欲しいと思うのは欲張りだろうか。いや、そんなはずは無いと信じたい。患者との会話も単調で何も面白く無い。
「先生、ちょっと喉が痛くて。」
「熱や鼻水などは出ていますか?」
「ちょっと熱がありました。」
「では、風邪薬を出しますね。」
「今日は頭痛がひどくて。」
「では、頭痛薬を出しますね。」
「子どもが咳き込んでいて、どうして良いのか...。」
「毎食後にこの薬をあげてください。」
仕事での唯一の楽しみである昼休みがやって来ると、私の世界にもちょっと色が付き始める。白黒印刷から、白黒赤青印刷になったくらいの違いだが。しかし、今日はいつもとは少し違っていた。何だか、身体が言うことを聞かないのである。
「先生?」
「...。」
「先生!」声が少し遠くから聞こえる気がした。何かこう、頭に直接入ってこない感じだ。
「...あ、ごめん。何か用かしら?」
「いえ、いつもなら昼休みになると、一目散に病院を飛び出して行くのに、今日は違ったので。」
「そうだったね。」
(今日はいつもより『人生hardmode』みたいだ。)
足に力をグッと入れて立ち上がろうとすると、グラッと視界が崩れた。私の魂が夢の世界へ誘われるような感じがした。私の名前を呼ぶ声が頭の中に木霊していたが、少しずつ遠くへと去っていった。
《終わりではない、始まりですよ。さあ、自由に生きるのです。》
体を内側から暖めてくれるような日差し、心までふんわりさせてくれるような白い雲、風景に変化をもたらしてくれる緑、私を祝ってくれるかのようにさえずる小鳥、良い雰囲気の人たち、さっきまでが嘘のようだった。ここがどこか、そんなのは簡単、異世界だ。目の前で魔法を撃っている人がいるから。
(せっかくだから観光と洒落込みますか。)
「こんにちは、見ない顔だけど、どこから?」面倒見のよさそうな良い感じの初老のおばあさんがやって来た。
「少し遠くの町からです。」
「というと、冒険者か何かかい?それとも商人かい?」
「ちょっと旅がしたくて...。」
「宿はもう?」
「いや、まだです。」
「じゃあ、うちの宿に来ないかい?ほら、あそこに看板が見えるだろう。あの立派な宿だよ。」おばあさんが指差した先を見ると、良い感じの雰囲気漂う宿があった。
「分かり━━」
(あれ、もしかして有料...)
「どうしたんだい?そこまで高くないよ。」年寄りの勘は鋭いらしいが、私が一文無しということまでは察せ無かったようだ。
「宿は問題無いんですけど、ちょっとお金が乏しくて仕事を紹介して頂けないでしょうか?」
「何だ、そんなことかい。この町のことなら、このサンディ村長に任しなさい!じゃあ、行くよ。」サンディさんは、前掛けを揺らしながら歩いて行った。
私の異世界(多分)ライフの出だしは問題無い、むしろ完璧といっても良いくらいだ。さて、何の仕事が待っているのだろうか、できれば残業が少ないと嬉しいんだが。サンディさんの笑い声と共に歩き始めた。どこへ向かうのかは、まだ分からない。
さて、どんな異世界ライフが待ち受けているのでしょうか?
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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今後とも八咫烏をよろしくお願いします。