ゆっこの手作り弁当争奪大作戦
「昨日ママと喧嘩しちゃってさぁ、今日のお弁当は自分で作る羽目になっちゃって。」
駅から学校へと続く道を友だちと歩きながらゆいこの口から愚痴がこぼれた。
「喧嘩?なにやらかしたのだね、ゆっこくん。」
茶化す友だちにゆいこは頬を膨らませた。
「それがさぁ。」
そのあとにもゴニョゴニョ会話が続いていたが、タクミは聞いていなかった。
タクミが聞いていたのは「今日のお弁当は自分で作る羽目になっちゃって」と言う部分だけ。
(ゆっこの手作り弁当?よっしゃ!絶対手に入れる!!)
タクミの頭の中は、「ゆいこの手作り弁当」という言葉でいっぱいになった。
(お、今日はゆっこが日直か。ナイスタイミング。)
タクミがほくそ笑む。
提出書類を両腕で抱えるようにしてヨタヨタ歩くその横からすっと書類を引き受けて
「重いだろ、おれ、持ってやる。」
授業終わりに黒板をきれいにしていると
「高いところ、届かないだろ?おれ、消してやる。」
「あのさ、タクミ。ありがとうなんだけど、なに?どうしたの?」
「別に~。」
妙に機嫌がいいタクミを訝しむゆいこだった。
2時間目が終わると、いつものようにタクミは自分の弁当を食べ始めた。
半分まで食べて、はっとする。
(ゆっこの弁当と交換の筈じゃん。食っちまってどうすんだよ、おれ!?
ま、いいか。購買で焼きそばパンでも買ってくれば。)
そんな計画を立てていることを全く気付かないゆいこ。
そして、そんな2人の様子を見ながらヒロシがふっと笑った。
昼休みを告げるチャイムとともに教室を飛び出し、見事人気の焼きそばパンを手に入れたタクミは
ホクホクしながら教室へ帰ってきた。
「ゆっこー、この焼きそばパンとお前の…」
言いかけて途中で止まる。
何と今まさにヒロシとゆいこが弁当を交換しているところだったのだ。
「え、ホントにいいの?急拵えだからちゃんとしてないよ?」
「いいよ。今回は助けてやる。でも、帰ったらおばさんとちゃんと仲直りしろよ?」
ゆいこは不承不承に肯いた。
タクミは口をパクパクさせたまま二の句が継げない。
ヒロシがゆいこの弁当を手にタクミの横を通り過ぎながら囁いた。
「お疲れ。悪いね。一歩遅かったね。」
(やられた。)タクミは心の中で地団を駄踏んだ。
(出し抜いちゃって、ちょっと悪かったかな。いや、情けは無用。)
ヒロシはニンマリしながらゆいこの弁当のふたを開ける。
「え、うん。これは…酷いね。バチか…」
ヒロシは中身を見て絶句したのだった。