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子供の島の物語~ドル・リーズパーク~3

 ダンは黙って脱衣所から風呂場に入っていく。おれは頭を撫ぜられたんだと理解するのに、少し時間がかかった。


「どうした? 風呂に入ろうぜ」


 まだ脱衣所でぼーっとしていたおれに、ダンは何事もなかったかのように声をかける。


 おれは思わず涙を零しそうになった。こいつはおれを殴ったりしないんだ。それどころか頭を撫ぜてくれた。


 生きてていいんだ。そう言ってくれたような気がした。






 おれはそれからダンと、ついでにオラデアともよく話すようになった。なんでオラデアとも話すようになったかって言うとさ、オラデアもおれの痣を見たんだよね。


 おれ、なんかダンが好きになってたから、風呂も一緒の時間に入るようになってたんだ。あ、変な意味じゃないからね。「おれはそっちの趣味はねー」ってのはオラデアの口癖か。ダンはオラデアが好きらしくて(もちろんこっちも変な意味じゃない)、オラデアはよくそれを言うんだよね。


 話それたけど、ダンは普段はオラデアと風呂に入る事が多いから、おれもオラデアと鉢合わせたんだ。


 おれは思い切って服を脱いだ。ダンが「大丈夫だ」って言うように笑ったから。オラデアにくらい見られたからなんだって気持ちになれたんだ。そしたらさ。


「おまえ、苦労してたんだな」


 いきなりオラデアが泣きだしたの。普段ぶっきらぼうなくせに、信じられないくらいぼろぼろ泣いてるの。だからおれも拍子抜け。ダンがにこにこしているのを見て、ああ、ダンはオラデアのこういう所が好きなんだなって思ったよ。


 おれ、なんかすごい気が楽になったよ。他の奴にも痣を見せたいなんて思わないけど、でもおれが殴られるための人間だってわかっても、ダンとオラデアはおれを普通の人間として扱ってくれる。だから二人と一緒の家に移った。


 二人は実はおれよりずっと年上らしいけど、おれがちょっと生意気な事言っても必要以上に怒ったりしない。軽く小突いてくる事はあるけど、本当に普通にやり取りしてくれるんだ。


 ホントに生きてていいんだ。


 おれ、この島に来てそう思える事が多かった。でもだからかな。リールにもそう思ってほしいと思うようになってきた。






 リールの事はいつも見てる。リールはメサィアと言う神の分身で、不老不死の人間らしい。十八歳くらいの姿だけど、もう五十年以上生きているんだって。でも心は子供じゃないかな。リールの事を好いているキットやアラドとの気持ちの板挟みにあって、いつも悩んだりしてる。


 過去には不死を確かめる実験と称して、何度も殺されたりしたらしい。そんな事信じられないって? おれもだよ。ただリールは大人を子供の姿にする魔法を実際に持っている訳だから、本当の話かもしれないとも思う。つまりは半信半疑。まあどっちだっていいんだ。おれはリールが孤独なんだとわかればそれでいい。


 おれに話す事で、リールがおれをかけがえのない人間だと思うようになってくれればいいんだ。ダン、オラデア、リール。おれの居場所が増えていけば、おれは生きられる。そしてリールもおれがいれば生きられる。


 もしそれでも死にたいと望むなら……一緒に死んであげてもいいかな。だってさ、わかってるもん、おれ。おれの今の居場所は、この子供の島の計画がある間しかないんだって事。


 リールと話している内に、この計画はリールが死ぬためにあるんだって言うのがわかってきた。最初のおれの勘は間違ってなかった。やっぱりリールはおれと同じなんだよ。死ぬ前に本当の家族みたいな仲間と過ごして死にたい。それがリールの望みなんだ。






 子供の島の計画が終わる日、それは思ったより早くやってきた。八月三十一日、おれがこの島に来てから三カ月ちょっと。その日に終わるんだって。


 そうだよな。こんな天国みたいな時間がずっと続く訳ないって思ってたよ。この島の事は夢……幻……


 星の光る時間、おれはリールと二人きりで会う。そしていつものようにリールを抱きしめた。


「リール、おれはリールと一緒にいるよ。死ぬ時も……」


 おれはリールの兄ちゃんなんだ。だから死ぬまで抱きしめてやる。一人じゃないんだって教えてやる。


「ドル……ぼくは不死の怪物だ。そりゃあ死を望みもする。だが、君は違うだろう? 君の人生までぼくに巻き込む事は、ぼくはしたくない」

「おれはもう一人になりたくないんだ」


 それはおれの本音だ。でもリールだってそうに決まってる。だからこの島を作ったんだろう?


「ドル……」


 リールはおれの名前を呼ぶけど、おれの考えが変わる訳はない。そしたら、リールはゆっくりと語りだした。


「ぼくらはモンスターの力を持っている」

「モンスター?」


 おれはその言葉が気になり、一度リールから離れて座った。リールは感情を見せないようにしているのか、表情は冷静なままだ。


「モンスターとはメサィアの力そのもの」


 リールはメサィアの分身。だから大人を子供の姿にするなんて魔法が使えるんだ。リールは続ける。


「メサィアの力とは『愛されたいと願う力』だ」


 愛されたいと願う力……? それはつまり、一人になりたくないという願い……?


「なぜそれをモンスターと呼ぶの?」


 リールは少しだけ泣きそうに顔をしかめる。


「愛されたいと願うがゆえに、不思議な力を発現し、バカな行動を取る。それは人を惑わし、心を掴み、操る」


 リールはそれがぼくの力だと言うけど、リールの言いたい事はわかった。それはおれの事。






 ああ……そうだね。一人になりたくない。それゆえにおれはリールに縋ってきたんだ。そしてリールをおれの思い通りにしようとしてきたんだ。






 おれは頭を殴られたような気分だった。リールはおれの事をわかっていたんだ。誰よりも理解していた。


 おれは立ち上がった。


「おれはおまえの変な力の事は気持ち悪いと思ってるし、おまえの事が特別好きな訳でもない。でも、だからお兄ちゃんだ。おれには他に何もない」

「ドル!」


 リールが叫ぶ声が背中に聞こえた。おれは走っていた。おれのお気に入りの場所。海が見える崖の上。それはこの島にもあったから。


 わかってるよ、リール。おまえがおれを突き離そうとしたのは、おれを生かそうとしたからって事。でもさ、そこにおれの生きる道はないんだよ。


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