子供の島の物語~ドル・リーズパーク~2
そこは子供だけしかいない子供の島。子供達は二十五、六人くらいいるかな? みんな十二歳くらいの姿。リール一人だけが十八歳くらいの姿のまま。
おれがそうだったように、みんな本当は十二歳くらいの子供じゃないらしい。リールの魔法でみんな子供の姿に変えられているんだ。じいちゃんなんて呼ばれている奴もいるし、案外大人が多いのかもしれない。
リールにキスしてた男も、二十代前半くらいの歳だったけど、十二歳くらいの子供の姿にされていた。名前はキット。百九十を超えていそうな大男だったのに、おれと同じくらいのチビになった。
港ではあれだけリールに熱いキスで迫っていたくせに、子供の姿になったら、随分大人しくなった。つまらない。早くリールとくっついてくれればいいのに。
ちなみにリールに聞いたら、やっぱりこの大人を子供の姿にする魔法はリールの力なんだって。ただその力を使っているのはリールが「兄ちゃん」と呼んでいる奴。なんかリールの力の影響を受けすぎて、そいつもリールの力を使えるようになったらしい。
おれはそいつが気に喰わない。だって、おれすぐわかったもん。そいつ本当の兄ちゃんじゃない。アラドって名前なんだけど、リールが心を許してるから、「兄ちゃん」と呼んでいるんだ。リールの力を使っているのも関係しているのかもしれない。
アラドはリールの事が好きなんだ。もちろん女の子として。それは別にいい。ただおれはそのくせにまだ「兄ちゃん」と呼ばれているのが気に喰わないんだ。だってそうだろ? 兄貴は妹の事を女の子として好きになんかならない。だからおれの方が「兄ちゃん」にふさわしいはずなんだ。
おれは最初、島にあんまり馴染んでなかったと思う。タルタオって奴と一緒の家に住む事になったけど、タルタオは必要以上におれに話しかけてこなかった。多分、タルタオはおれの痣に気づいたんだ。治りかけていたはずなのに、子供の姿になった時にまた浮き上がってきた痣。
タルタオはおれを憐れんでいたんだろう。おれは正直、それは嫌だった。他の奴に憐れんでほしい訳じゃない。
おれがそんな風に他の奴と馴染もうとしなかったから、リールはおれの事をダンとオラデアって奴らに頼んだ。
ダンは本当に十二歳くらいか? と思うほど、背が高いし、ガタイもいい。オラデアも背が高めで、太っちょだ。そして口が悪い。
「おまえ、すげーチビだな」
挨拶もそこそこにそう言ってきた。おれはチビで、しかも細い。そう自覚はある。子供の姿になってますます縮んだ背は、やっぱりこの島の中でも一番低い。
ダンの方も「ハハハ」と笑っていた。それもムカついたけど、さすがにこんな大きな奴らにケンカ売るほどの度胸はない。でもやっぱり腹立つと思って、極力口は利かない事にした。
リールの話によると、この子供の姿になっている計画ってのはそういう実験なんだってさ。リールの不思議な力の検証とか言ってた。ただ計画の目的は別にあるんだろうなとおれは思ったけど、まあそれはいい。おれは姿が子供になったって、別に気にしない。
ただ痣が浮き上がってきちゃったせいでさ、風呂だけは困った。ここコテージハウスみたいな家に、大体三人一組で住んでるんだけど、風呂は共同風呂なんだよ。リールが住んでるおっきめのコテージハウスにはシャワー室がついてるらしいんだけど、おれがタルタオと住んでいる家にはない。
なんで? って思ったら、元々リゾート開発されかけてた場所を買い取ったんだとさ。だからコテージハウスも共同風呂もそれなりにきれいなんだな。あ、もちろん風呂は男女別にあるよ。
おれは最初は自分で人が来ないタイミングをずっと見計らって、最後の奴が入り終わるまで待っていたんだけど、正直遅くなってくると眠い。この子供の姿になっていると、体に負荷がかかっているらしくて、疲れやすいんだ。
それでリールに聞いた。
「わかった。風呂の順番の調整してくるよ」
おれの事情を聞いたリールは、そう言って他の子達と話しに言ってた。リールはおれがこの島の計画や、リール自身の事を聞くと、困ったような顔をするけど、なんかこういう話だと元気になるんだよな。なんか仕事が好きみたい。リールはこの計画の責任者らしいから、こういう調整をするのが仕事なんだ。
おれは恐る恐る共同風呂に入った。リールが調整してくれたとはいえ、万が一にも人がいたらたまらない。だってそうだろ? おれの痣を見たら、タルタオのようにおれを可哀想な目で見るかもしれない。いや、それくらいならまだいい。もしダンやオラデアに見られたら……?
決まってる。あいつらはおれが殴られるための人間だってわかるはずだ。そしたらあんなでかい奴らは、面白半分でおれを小突き回すだろう。
おれはさっと風呂に入って、すぐ上がる。服がきれいだっていうのはいいな。ここに来る時に着てたTシャツは、着古してちっさい穴が空いてたし、パーカーは糸がほつれてたもんな。子供用の服はリールが支給してくれたんだ。こういう実験だから、遠慮なくもらってだって。
家に戻ったおれは、すぐにベッドに倒れこむ。リビングにいたタルタオには、素っ気なく「おやすみ」と挨拶だけはしておいた。本を読んでいたタルタオもちょっとだけ目を上げて「おやすみなさい」と言っていた。タルタオはおれの痣の事を他の人に話した感じもないし、まあ悪い奴ではないんだろう。
おれはいつものように一人で共同風呂に来る。この子供の島は気候のいい所にあるから、まだ六月になったばかりってのに汗ばむ陽気だ。汗臭い半袖シャツを脱ぐ。その時だった。
他の奴が入ってきた……ダンだ!
なんでこの時間に? なんて考えている場合じゃない。おれはすぐにシャツを着直した。
見られたのか? 見られたのか? いや、見たに決まってるだろ!
おれはシャツの胸を握りしめて、小刻みに震えていたと思う。ダンは後ろで服を脱いでいるようだ。そしておれに近づいてきた。
ああ、おれ、また殴られるのか。
覚悟と言うか、諦めと言うか、そんな絶望がおれを襲った。
ぐしゃぐしゃ。
何が起こったかわからなかった。とりあえず、痛くはない。




