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子供の島の物語~ドル・リーズパーク~1

 その子は不思議な力を持っている。


 おれはシニアハイスクール(高校)に通っている十七歳。名前はドル・リーズパーク。


 パークって言っても、どっかの公園とは全然関係ない。ただのファミリーネーム。ファミリーなんて言っても、おれの両親はおれが小さい頃に失踪しちゃったらしいけどね。おれの家族は独身の叔父さんだけ。


 住んでいる町も海の側で、それなりに田舎。高い建物なんかはないし、一軒一軒の家も敷地が無駄に広くて玄関は離れているし、畑も挟んでるしで、こんな雲行きの怪しい日なんかは出歩いている人はほとんどいない。


 そんな日でもおれは海が見える崖の上に来る。そこで見つけたんだ。海岸の岩の間で倒れているその子を。






 時期は五月。ちょっとまだ肌寒い日が続いてたかな。だからその子も上着を着ていた。男物の。髪の毛はおれと同じ金髪で、ショートカット。身長はおれよりずっと高い。百七十後半はあるんじゃないかな。だからほとんどの人はその子が女の子だなんて気づかないだろう。


 おれは意識のなかったその子を負ぶって、道を歩いていった。はっきり言ってめちゃめちゃ重い。その子はどちらかと言うとスレンダーな方だと思うけど、百五十九センチメートルしかないおれが負ぶうにはきつい。


 でもさ、そんな事言って放り出す訳にはいかないじゃん。だってさ……この子は多分、死のうとしたんだから。


 なんでそんな事思ったかって? そんなのただの勘に決まってる。


 おれはその子を家の二階の自分の部屋まで連れてきて、寝かせる。まじ階段はきつかった。落とさなかったのが奇跡。叔父さんがいなかったのもよかった。


 ただの勘……だけど、おれはやっぱり思ったんだ。だってその子はうわ言で言ったんだ。


「ぼくは、まだ死ねない」


 あんたならどう思う? おれはね、「いつか死ぬつもりだ」って聞こえたよ。だって、普通なら何か危ない目にあったんなら、「死にたくない」って言うんじゃない? 「今は」まだ死ねない。おれにはそう聞こえた。


 放っておける訳ない。何度も言うけど、放っておける訳ない。


 その子は起きたらすぐに「ぼく、行かなきゃ」って言いだしたけど、一人で行かせる訳にはいかないじゃん。とりあえずご飯、食べさせなきゃ。


 その子は名前をリールって言った。目も印象的な金色だったけど、冷たい感じはしない。むしろ優しいんだろうね。優しすぎるくらいに。


 食べ終わったら、また「行かなきゃ」なんて言う。行かせる訳ない。するとリールは辛い決断でもするかのように顔をしかめて言った。


「君も……行くか? ぼくと一緒に……」

「行く!」


 おれは即答した。叔父さん? 学校? そんなのどうだっていい。持っていくのは……財布くらい? ほとんど中身ないけど。服はちょっとマシなものに着替えていこうか。


 おれはリールに背中だけ見せて着替える。ああ、おれの痣、見たよね。見えるとこにはない。服で隠れる所にだけある殴られた痣。しようがないじゃん。おれがもうちょっと小さかった頃にさ、児童虐待なんて疑われたから、叔父さんは見える所は殴らなくなったんだから。


 もう十七にもなってるのにさ、おれはいまだに叔父さんに逆らえない。もう叔父さんの機嫌を伺うなんて事もしなくなった。叔父さんの機嫌なんて、おれが何をしてもしなくてもすぐにころっと変わるんだから。


「行こう!」


 おれ、思わず叫んじゃったよ。うきうきしている訳じゃない。さっきも言ったように叔父さんの事はどうだっていい。ただこの子に、リールについててあげられる。そう思ったら、もうおれの進む道はそこしか見えなかったんだ。






 住んでいた田舎を出て、何時間も電車に揺られて大きな街へ来る。リールはその間も、おれに帰らないかと何度も聞いてたけど、おれが頷く訳はない。ああ、勘違いしないで。おれがリールを必要としてるんじゃない。リールがおれを必要としてるんだ。リールがそう思ってなくても、おれはそれを知ってる。


 リールはとある島に住んでいると言った。そこではある計画が進められていて、そのために今はそこに在住しているのだと。


 電車を降りて、それなりに大きなビルが並ぶ大通りを抜けて、小さな漁船が並ぶ港まで来た。けれどリールはまだおれをその島には連れていってくれなかった。港の近くにリールの部下だか協力者だかいう人がいて、ヤマシタって名前なんだけど、その人の所にいるように言われた。


 おれは不安になんかなってない。リールはおれを見捨てられる訳がない。おれの殴られた傷跡を見た。おれを突き離せない事なんか、全然冷たくない目を見ればわかる。


 ああ、これも言っとくけど、おれ全然リールの事、好きじゃないからね。嫌いでもないけど、女の子として好きだとは全然思わない。言うなれば……そうだな、もう一人の自分って感じ? おれとリールは同じ。そう思うだけ。


 だからさ、リールがキスされてるのを見ても全然何も思わない。


 おれはかなり離れてた所にいたから、リールもそいつも気づいてなかっただろうけど、おれは見た。そいつってのは変な大男。後でリールに聞いたら、有尾人っていう尻尾が生えた人種の人間なんだってさ。耳にも毛が生えてる。


 そいつがリールにキスしてた。多分、感動の再会。リールは嫌がってる風だったけど、でも本気で嫌って訳でもないんだろうなとはなんとなく思った。でもだからかな。おれ、なんか笑いそうになっちゃったよ。


 ああ、リールはそいつの事好きなのに、心を許そうとはしないんだなって。


 つまりはさ、やっぱりおれだけなんだよ。リールの心に寄り添えるのは。だからおれは逆に応援したくなった。そいつがリールの恋人になれば、もうリールには誰も近づけない。おれ以外は。


 まだヤマシタの元にいるおれにリールは会いに来て、またおれを帰らせようとしたけど、おれが承諾する訳はない。だっておれは居場所を見つけたんだから。


 そしてほら、その島に連れていってくれた。


 そこではちょっと驚いた。その島に入ると、おれは十二歳くらいの子供の姿にされたんだ。リールがそういう魔法を使った。正確には兄ちゃんとかいう奴だったけど、おれにはわかる。これはリールの力だ。


 ああ、おまえ、それだけ孤独だったんだね。


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