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鬼の棲む街  作者: 鬼屋敷 夜雲
─────承・拡散する怪異
19/40

間章

 ─────20✕✕年、5月3日 午後9時50分過ぎ。

 外出禁止の時刻である22時が迫る中、朧谷温泉街では既にシャッターが降りている店や、閉店作業を行う店、そして多くの民家は既に戸締りを済ませているものがチラホラと見かけられていた。

街の人達の誰もが、この街の風習に従って早めの帰路に着く人達が多く存在していた。

そんな中、一人の青年が街中にある小さな旅館から出ていく影を落とす。

旅館から顔を覗かせる相手は、青年に対して不安そうな顔を向けていた。

「本当に大丈夫かい?もう時間も迫ってるし、明日にした方が良いんじゃ……」

「いや、せめて療養所で泊まるつもりで居るし…何よりも、母さんの容態があまり良くないから心配なんだ。」

「そう?でも気をつけてね、そろそろ黒面様が山から降りてくるから…万が一の事があったらと思うと。」

「もう、あんまり心配しなくても大丈夫ですよ。俺だって30は過ぎてる大人なんだから、それくらいは分かってますよ。」と青年は心配そうな表情の相手に向かって、安心させようと優しく声を掛けていた。

「では時間も迫ってるので、さっと行ってきます。お疲れ様でした。」と青年は丁寧にお辞儀をし、小さな旅館を急いだ様な足取りで走っていく。

青年を見送った後、旅館の人は早めに終わらせようと暖簾を外し、玄関の明かりを消した。


 仄明るい月明かりと、街の街灯が道を照らす中、青年は足を早めながら街中の道路を駆け抜けて行く。

「母さん、大丈夫かな……ただの風邪だって言うけど、取り敢えず顔だけでも見ておきたいな。病院の方も、『下手したら今夜が峠になるかもしれない。』って言ってた気がするし……せめて何かあってもいいようにしておかないと。」と青年は母親の身を案じながら、人通りが減った街の中を駆け抜けて行く。

ふと、療養所に近づく中彼の目の前には一つの明かりが目に入っていく。

「こんばんは、何処か用事でもあるんですか?」と声が掛かる。

どうやら、外出禁止になる前に最後の見回りをしていた駐在所の警官、東雲健太郎が自転車に乗っていたようだった。

「こんばんは、東雲さん。ちょっと、母のいる療養所まで向かっている最中でした。もしかして、東雲さんはこれから駐在所へ?」と青年は一度立ち止まって返答を返した。

「えぇまぁ、最近また"()"に襲われたという話が多くありましてね…せめてこの時間帯で出歩く人が居ないか最後の見回りをしているんです。」

「そういえば、今年で既に3件も出てたらしいですよね…やっぱり、あの黒面様の仕業なんでしょうか。」

青年の言葉に対し、東雲は軽く肩を竦めた。

「はは、皆さんが口を揃えてそう仰る気持ちも分かりますが…私はこの一連の事件は、人の仕業かもしれないと思ってますよ。まぁ、少なくとも、一警察官としての意見ですがね。」

「それもそうですよね。もしかしたら、山にいる野生動物が街に降りてくる、なんてことも有り得なくは無いですもんね。」

「どちらにせよ、夜は危険ですのでお気をつけて。私も早めに切り上げて帰るつもりなので。」と東雲は軽く帽子を掲げ、青年に挨拶を返す。

「僕も急がなきゃ、それでは失礼します!」と青年は東雲に対して挨拶をし、療養所に向かって走り去っていく。

東雲は走り去る青年の背を見送り、再び自転車を漕ぎ出していく。


 ─────時刻は、22時を回った頃。


 先程まで街を照らしていた月明かりは、分厚い雲に覆われ始め、その姿を隠していく。

息を切らしながら、青年は後ろを振り返る。

「もうこんな時間になっちゃった、せめて…療養所に辿り着くだけでも。」と青年は焦りの表情を見せながら、とぼとぼと街の中を歩いていく。

駐在所の警官、東雲健太郎と別れてから彼はしばらくの間走り続けていたが……ふと、妙な気配に気づいて足を止めてしまっていた。

『何だろう、誰かが僕の後ろを着いているような気が……東雲さんか?でも、東雲さんは僕とは正反対の方向を自転車で走っていった。もし、東雲さんが着いてきていたとしても…黙って後ろを歩くことなんてしないだろうし。』と青年は何処か得体の知れない気味悪さを感じつつも、気のせいだと自分に言い聞かせる。

街の中は既に黒面の鬼が徘徊を始めたのか、重圧的な重苦しい空気が漂い始めていた。

「まずいな、せめて黒面様に見つからないように行かないと。」と青年は緊張から来る汗を拭いながら、足音を立てないよう慎重に歩いていく。

 青年は母の身を案じながら療養所へと向かう足を急いでいく。

すると、突然、空を斬るような音が響き、彼の背中に鋭い痛みが走る。背中の傷が疼き、彼は「ぐあっ…」と声を上げる。何が起きたのか分からず、青年はパニックに陥る。背中が痛くてたまらず、彼は必死に痛みを和らげようとする。

再び、空を切る音が響き、傷が広がる。

青年は「何が、背中が痛いんだ…」と呟く。

痛みに耐えながら、彼は足をもつれさせて地面に倒れ込む。血が滲み出し、青年は「いや、やめてくれ…ごめんなさい、お願いだから…くろつ、黒面さまっ…!」と懇願するように叫ぶ。

体から滲み出る赤い血を見て、青年は力尽きていく。

空を切る音が続き、傷はますます深くなり、青年は悲鳴を上げる。

「いぁっ、痛い…!助けてくれっ、だれかっ!」石畳の上で苦しみながら這いずって逃げようとする。


 「あ゛ぁ─────── っっ!!」と、青年の激しい断末魔が夜の街にこだました。赤く染まる石畳の道路の真ん中で、息絶えたその青年は、誰にも助けられることもなく赤い血溜まりの中で倒れ伏すばかりだった。

その青年を見下ろすように佇む一つの黒い影は、その手に鈍く光る刃を持ち、月明かりに照らされていた。

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