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鬼の棲む街  作者: 鬼屋敷 夜雲
─────承・拡散する怪異
12/40

第11話 街の異変(未来、香織視点)

 三人が茶寮に入ると、木のぬくもりが溢れる落ち着いた雰囲気が広がっていた。

扉を開けると、漆黒のカウンターが目に入り、そこで器用に手際よく淹れられたコーヒーや紅茶の香りが漂っていた。

店内には温かみのある木の家具が配置され、控えめな照明が落ち着いた光を放っている。

窓際の席には柔らかな日差しが差し込み、外の景色を楽しむことができるようだ。

足湯で癒された疲れを忘れ、ここで一息つくために訪れる人々が、静かに会話を交わしながら穏やかな時間を過ごしている。

カウンター席には、マスターが一人で優雅に淹れたコーヒーを楽しむ人や、本を読みながらひとりで過ごす人が座っていた。

テーブル席では、グループやカップルが笑顔でおしゃべりを楽しんでいる光景が広がっている。

店内には、淡い音楽が流れていて、優しいメロディーが心地よく耳に響く。

カフェのスタッフたちは笑顔で接客をしており、お客さんたちがリラックスして過ごせるよう心をこめてサービスを提供している。

茶寮は、温かな雰囲気と美味しい飲み物が絶妙に調和した場所だった。

入った瞬間から、その居心地の良さに包まれていく感覚がある。

未来、香織、さくらは店内を見渡しながら、自分たちにぴったりの席を見つけると、笑顔で座り込んだ。

メニューを手に取り、まだ冷たいドリンクを注文しようか迷っていると、優しく声をかけてくれたスタッフが近づいてきた。

茶寮の中に居ると、まるで別世界に迷い込んだような錯覚に陥る。

この静寂な空間で、ゆったりとしたひとときを過ごすことができることを、三人は心から嬉しく思っていた。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

清潔そうな白いシャツを着た、黒いエプロンをつけたスタッフが三人の前で注文を伺っていた。

未来はスタッフの方へと顔を向ける。

「あぁ、まだ少し迷っているんですよね。でも、店員さんのオススメのものってありますか?」

彼女がスタッフに伺うと、スタッフは優しい笑顔でメニューを覗き込んだ。

「私のオススメはこの抹茶シフォンケーキですね。程よい甘さのシフォンケーキと、甘さ控えめのホイップクリームとの相性がとても良い1品です。」

「じゃあそれ三つお願いします。」

未来が香織とさくらに確認しながら、三人分を注文していく。

「かしこまりました。他にもございますか?」

「あ、私ほうじ茶パフェとオレンジジュース。」

「私は紅茶をお願いします。」

さくらと香織も各々の頼みたいものをスタッフへと伝えていく。

「うーん…私はアイスティーでお願いします。」

未来はメニューに目を通し、一通り悩んでからアイスティーを選択した。

スタッフは三人の注文をメモしていくと、確認の為の読み上げをして行った。

「以上で宜しいですか?」と三人の顔を見て確認をした。

「はい、お願いします。」

「はい、承りました。ご注文いただいたメニューをお作りしますので、少々お待ちくださいませ。」

スタッフは三人の注文を確認し、微笑みながら頷いた。彼らの注文を受け付けた後、スタッフはしばらくすると運ばれてくるであろう料理を手際よく準備し始めた。

茶寮の店内には、他のお客さんのおしゃべりや笑い声が広がっていた。

他のお客さんたちも、自分たちが注文したドリンクやスイーツを楽しんでいるようだった。

未来は周りを見渡しながら、ふと香織とさくらに目を向けた。

「香織、さくらさん、本当にここは素敵なカフェだよね。選んでくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝える。

香織とさくらも微笑みながら頷き、互いに手を握り合った。

 やがて、スタッフが手にしたトレイに三人の注文が並んで乗ってやってきた。抹茶シフォンケーキは見た目も美しく、その香りは誘惑的だった。ほうじ茶パフェは色鮮やかな層が重なり、見るからに美味しそうだった。

そして、オレンジジュースと紅茶、アイスティーもそれぞれの特徴的な色合いを持っていた。未来は感激しながら言った。

「本当に美味しそうなんだけど、どれから食べようか迷っちゃうな。」

香織は微笑みながらさくらに視線を向けた。

「じゃあ、どうする? 一緒に写真を撮ってからいただく?」

さくらは大喜びで頷いた。

「そうだね! それならみんなで思い出の写真を残そう!」

三人はテーブルの上に料理を並べ、一緒にポーズを決めてスマートフォンを持ち出した。シャッター音と笑い声が響き渡る中、彼らは思い出の1枚を切り取った。

その瞬間、未来は幸せな気持ちでいっぱいになり、この旅行が自分たちにとって特別な思い出となることを確信した。

カフェ『茶寮』で過ごすひとときは、彼女らにとって穏やかで幸福な瞬間となった。大切な仲間と共に楽しい時間を過ごすことができ、朧谷温泉街での旅行はますます充実していくのだった。


 三人は写真を撮った後、運ばれてきた飲み物やスイーツに舌鼓を打っていた。

「美味しいぃ〜!」

さくらは恍惚の笑みを浮かべながら、ほうじ茶パフェを掬って口に運んでいく。

「抹茶シフォンケーキも凄く良いよ、やっぱり人気のカフェなだけはあるねぇ。」

「雰囲気も良いし、本当ここに来て良かったかも。」

「ねぇ〜。」

それぞれ口を合わせるように、楽しげな声を上げていく。

和やかで、明るい雰囲気のカフェの中、三人は和気藹々とした様子で会話を楽しみながら穏やかな時間が過ぎていく。

暫くの間、三人は談笑しており、話に花が咲いたのか盛り上がりを見せていた。

ふと、一息着いた頃にさくらは()()()()()に気づいた。

「あれ…?ねぇねぇ、二人とも。」

「どうしたのさくらちゃん。」

「何かあった?さくらさん。」

さくらが未来と香織の二人に声を掛けると、二人は口々に彼女に返事を返す。

さくらは何処か落ち着かなそうな様子で、二人に顔を近づけて囁いた。

「ねぇ、さっきまで私達の他に人居なかった?」

さくらの言葉に、未来と香織の二人はゆっくりと辺りを見回した。

確かに先程まで、何人かのお客さんや店内スタッフ、そして外から見えるはずの人の行き来すらも全く感じられず、今このカフェの中にはさくら、香織、未来の三人だけしか居ない事が確認されていた。

その時、香織と未来はようやく今起きている状況に気づいたようだった。

本来ならば、カウンターで作業しているはずのマスターの姿はおろか、カウンター席に座るお客さんの姿、そして他の席でも先程まで同じように談笑していたはずのお客さんすらも、何もかもが"()()()()()()()()()()()()()()"かのように皿やグラスなどは一切なく、空席だけがそこにぽつんと佇むばかりだった。

「ねぇ、何かおかしいよ。」

「本当だ、何かのドッキリ…にしては理由もないし、やる意味もないもんね。」

泣きそうな声を上げるさくらと、落ち着き無さげな様子で椅子から腰を浮かせる未来。だが香織は席を立とうとする未来の腕を掴み、ふるふると首を静かに横に振る。

「だめ、今ここを動いたら。」

「どうしてよ香織、どう見ても状況がおかしいでしょ。」

「ううん、分かってる。でも、そんな気がして…」

不安げな色を顔に浮かばせながら、香織は未来を説得するように座らせる。さくらはカタカタと肩を震わせながら、俯いているようで香織はさくらの頭をそっと撫でて慰めた。

 未来は、改めて今自分達が置かれている状況を確かめる為に、周囲を見回す。

未来の耳に聞こえる店内BGMは未だ流れ続けており、人の足音や笑い声、話し声などはやはり一切聞こえてくる様子はなかった。

彼女の視界からは、鳥が空を飛ぶ姿、木々が時折風に揺られて葉を擦る様子が見られるだけであり、人そのものがごっそりと自分達以外が全て消失したように感じられていた。

「やっぱり、私達以外皆消えたみたいになってる。」

未来は窓からの景色を眺めながら、香織とさくらに対して確認するように伝える。

香織はスマホの画面を確認し、ひとつ溜息を吐いた。

「だめ、電波が繋がってないみたいで圏外になってるみたい。」

「嘘でしょ。」と慌てた様子で未来は自身のスマホを手に取り、液晶画面を確認した。

電波状況を示すマークは、一本のアンテナも立っておらず、そこには圏外を示すマークだけが記されているだけだった。

「本当だ、なんで…?さっきまで私達普通に電波通ってたじゃない。」

どうして、と未来の頭の中には疑問が生じる。

それは前触れもなく起きた出来事であり、今自分たちが置かれている状況は、ただ人が一切居なくなったカフェの中に取り残されているだけでしか無かった。


 緊迫した空気が広がる中、三人は無人のカフェ『茶寮』の一席でただ黙って座るだけしか出来なかった。

「ねぇ、やっぱりこのままは良くないんじゃないかな。」

ポツリと、静寂の中で未来が呟く。

だが香織とさくらはそれに対して、あまり肯定的な様子は見せていなかった。

「でも、此処を出てもどうなるかなんて分からないよ。」

「動かなかったところで、何も解決しないんじゃない?」

未来はどうしても、この状況から少しでも解決したい一心で二人に提案する。

香織とさくらは不安げな様子で、互いの顔を見合わせる。

「でもやっぱり怖いよ、もしこれが何かしらの怪奇現象だったら…」

「今この状況で、拓海さんが巻き込まれていない可能性もないよ。」

恐る恐るとした様子で話すさくらに対し、ぴしゃりと未来が一蹴する。険悪ムードが漂う中、香織は二人の間に入って落ち着くようにと宥めていた。

「確かに未来の言うことも分かるけど、こんな訳の分からない状態じゃ心細いに決まってるよ。」

「でも動かなかったら、それこそ何の解決にもならないよ。」

「うん、だからせめて三人で行動しよう?一緒の方がまだ不安は少なくなると思うし…それでいい?さくらちゃん。」

優しく声を掛けながら、涙目で俯くさくらの背中を摩る香織に対し、さくらは俯いたまま小さな声で頷いた。

 だが、此処を出る覚悟をしたとはいえこれからどこへ行くかなどの考えまでは無かった未来。

「そういえば、ここから出て動くといっても…一体どこに向かえば。」

自身の言葉で、はっとする未来。

こんな異常事態の中、どうやったら解決するかの手立てなど皆目見当もつかない様子だった。

傍らではさくらの手を優しく香織、悩む様子で考え込む未来に顔を向ける。

「きっと、外に出たら分かると思うからとにかく出てみるだけ出てみよう?あ、お勘定とかどうしようか…」

「香織、確かに状況的にはとにかくこのカフェ出ることが最優先だけど…気にする所そこ?」

「だって、誰もいないとは言ってもこれじゃ無銭飲食になっちゃうでしょ。」

困ったように眉を下げて話す香織に対し、呆れたような視線を投げ掛ける未来。

「じ、じゃあその分の金額はテーブルに置いておこうよ。後で人が戻ってきた時とか、店員さんも気づいてくれると思うし。」

「その方が良いよね、じゃあメモとか書いておこっか。」

こんな異常事態の中、マイペースな部分を発揮する香織に、さっきまで泣いていたさくらと未来は落ち着きを取り戻し始めていた。

香織はメモを残し、三人が注文した分の金額をテーブルに置いた。

「これで良しっと、じゃあ早速外に出よっか。」

満足げな様子で、二人の顔を見る香織。

未来は香織とさくらの顔を見て、確認する様に頷いた。

「それじゃあ、何があっても決めた以上は行くからね。」

未来は香織とさくらに向かって確認を取り、カフェ『茶寮』のドアノブに手をかけてゆっくりとドアを開けて外へと出た。

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