天使族の村
そこは村と呼ぶにしてはかなり壮大な場所だった。
白を基本とした大理石のようなもので作られた建物がたくさん並んでいる。
そして村の周りはこれまた真っ白な大きな壁でぐるっと囲まれていた
村とはいったい
いやそれにしても本当に健在なんだな~ゲームでは滅んでたから初めて完全な状態で見たよね。
とりあえず行こうか
「そこの人間ども、止まれ」
「ここを神聖な我ら天使の住処と知っての事か」
入口に差し掛かったところで二人の槍を手にした天使族に道を塞がれる。
中性的な見た目に、病人のように真っ白な肌、そして背中に生えた一対の翼
ゲームの設定どおりの見た目だ。
「ああすまんな。俺たちはわけあって旅をしているんだがこの先の国に行きたくてな。少しだけ通してもらえんか」
クロガネさんが先陣を切って話をしてくれたわけだが
「人間をか?」
「冗談だろ?貴様ら下等な種族をなぜ、我らが領域に通さねばならんのだ」
やはりというかなんというか人間嫌いなのもそのまんまらしい
天使族とは自らを女神に近い種族として絶対視し、人間を出来損ないの下等種族として見下している
まぁ実際は確か偶然の産物で、女神が自ら作ったとかではないらしいけども
しかし困ったなぁ…来た道を引き返すのも手間だし時間がかかりすぎる。
ゲームの時期がずれるとこちらとしても不都合があるので何とかしたいところですが…
「そうやって他人を見下してるやつらのどこが神聖なのよ!下劣の間違いじゃないの!?」
あぁ、ナリアがなにやら火に油を注いでいくぅ
「なんだと人間?」
「はっ!この程度で怒るところを見ると図星みたいだな」
レーヴェ君までもが喧嘩を売っていくスタイル
なお我らが勇者カルラは後方で事態を見つめているだけである
まさに一触即発
なんとかせねば…
「まぁまぁまぁ!双方落ち着いて!」
とりあえず間に入ってみたがどうしたものか
あ、女神をそこまで進行しているのなら私たちが勇者パーティだということを利用できないだろうか
「天使族の皆さん?私たちは女神様より加護を授かった勇者です。どうかこれも縁ということで少しだけ通してはもらえないでしょうか」
まぁ私は泥棒だがな!
「そんな話を信じられるとでも?」
「こちらをご覧ください」
私は背中にさげていた聖剣を取り出し天使族に見せる
「この剣は…」
「女神さまより授かりし聖剣です。これで信じていただけませんか?」
天使族の二人は何やら話し込んでいる
その時
「何事ですか?」
一人の…多分男だと思うが豪華な服を着た天使族が村から現れた
「これは聖主様!」
「もうしわけありません!実はこの人間どもが…」
聖主と呼ばれた男が二人から説明を受けているようだった
そしてこちらを一瞥するとにっこりと笑い
「これは失礼いたしました。どうぞ勇者御一行様、村にお入りください」
なんだかすんなり入れることとなった。
「挨拶がまだでしたね。私はこの村を統べるもの、皆からは聖主と呼ばれています。お見知りおきをば」
そして自己紹介を済ませる
その後は宿のようなところに案内されここで一泊するように言われたのだった。
「いや俺たちは通してくれるだけでいいんだが?」
「申し訳ありません。この時間から村の周りに魔物よけの結界を張るので出入りができなくなるのですよ。明日の朝にはまた解除されますので一晩お過ごしいただけると」
なるほどなぁ
そういう理由なら仕方ない…といいたいが
「ぶっちゃけ怪しくない?」
「私もそう思いますわ、お姉さま」
「俺もだ」
「先生に同意」
「みんながそういうのなら自分も」
ですよねぇ~なんか急に友好的になるのも怪しいし
あの聖主とかいうのもマジで胡散臭い
「聖剣狙ってるとかじゃねぇの」
「そんな気はするよね~」
「まぁ今晩は警戒しておいて朝になったらこっそりと旅立とう」
ということで意見はまとまった。
ところで私には気になっていたことがあるのだ。
それはここに連れてこられるときに見た村の隅のほうにあった建物。
そこだけ周りと違って妙にボロボロでみすぼらしかった。
あそこは何?と聞いてみたのだが
「ああ、あそこは醜い化け物を閉じ込めている場所です」
「化け物ですか?」
「ええ…世にもおぞましいものでしてな。解き放つわけにもいかないのであそこで飼い殺しにしているんですよ。」
「危なくはないのですか?」
「力自体は弱いので問題はありませんよ」
とのことだった
実は気になることがあるのだ。
先にも言った通り、この場所はゲームではすでに滅んでいた。
ならば近いうちに滅ぶ可能性がとても高い。
そして原因は一人の魔王の因子を覚醒させてしまった者だ。
魔王の因子とは、かつて女神と魔王竜が戦った時、お互いの砕けた存在核の一部が散らばってしまった物だ。
砕けた女神の存在核は聖剣に
魔王竜の物は魔王の因子にといった具合だ。
魔王の因子は普段は何もしないが時折、それと共鳴してしまう者がいる
そして因子が覚醒してしまうとその者の性質を変貌させ、何かを滅ぼすことに思考を囚われた化け物になってしまう…そういうものだ
そして私はあの建物の中にいる化け物こそ魔王の因子に覚醒してしまう存在なのではないかと予想している。
ゲームの中盤で戦うそいつは確か堕天魔とかいう黒い羽を持った魔物だった
今なら覚醒前に倒せるかもしれない
私は警戒しろと言われたばかりだが一人、宿を抜け出しその建物に侵入してみることにした。
中にはあっさり入ることができた。
別に鍵がかけてあるとかもなかったのだが…これで閉じ込められているのだろうか?
中は薄暗くてじめじめしているかび臭いところだった。
環境が最悪すぎる。
なにを閉じ込めてるのこんなところに…
と中に大きな檻があることに気づいた。
暗くてよく見えないが何か金属を引きづっているような音がする。
少しだけ明るくしようと魔法を使う
そして闇の中に浮かび上がったのは…怯えた目でこちらを見つめる、鎖につながれた天使族の少女だった。
「嘘でしょ…こっちパターンなのか…」
よくある迫害されている少女とかそういう感じに見えた。
とりあえず声をかけてみることにした
「あなた大丈夫?」
「あ……っ…」
少女は声を出そうとしているがそれは空気を吐き出すようなかすれた音にしか聞こえない
改めてよく見ると、少女はとにかくボロボロだった。
髪も手入れがされておらずに乱雑に伸ばされぼさぼさ
着ている服ももはや布切れと呼ぶしかない代物だ
ちらりと覗く肌も汚れでひどいありさまだ。
特有の翼も黒ずんでしまっている。
とてもまともな状態だとは思えない
「どうしてこんなことを…」
「お話しした通り醜い化け物だからですよ」
いつのまにか後ろに聖主がいた
その手には一切れのパンのようなものを持っていた。
「醜い化け物…?どう見ても天使族の女の子にしか見えないのですが?」
「それは心外ですね。これを私たち天使族とひとくくりにされるのは…【光よ 世を照らせ】エリアライト」
部屋一面が明るくなった
そして照らし出されたのはやはり、可愛そうなほど怯えている天使族の少女だった
「ほら、醜いでしょう?」
「…どこがですか」
「ふむ、その翼をみなさい。私たちのと違って黒が混じっています」
汚れているからでは?と思ったがよく見ると確かにそもそも純白ではなく、うっすらと灰がかっている感じなのか
「これでお判りでしょう?」
「それだけ?」
「それだけ…ですか、やはり人間とは相いれないですね。いいですか?私たちは女神様より自分に近しい存在として創られた神聖な種族なのです。そこに一点の曇りも許されない…つまりこれは私たちからすれば醜い化け物なのですよ。しかしこれを外に出せば我らの恥…殺しなどの野蛮な真似もしません…だからこうしてここに閉じ込めているのですよ」
そういって聖主はパンを檻の中に放り投げた
パンは地面に落ちてわずかな水音を響かせる
「何をしている、はやく食べなさい」
「…っ」
少女は慌ててパンを拾い上げるとそれにかじりつく
酷い
こんなことあっていいはずがない
私は一人拳を握りしめた
「さぁこんなところはやく出ましょう。客人が入るような場所ではありませんよ」
私は後ろ髪を引かれながらも建物から出たのだった
「ところで女神様の聖剣を私に今一度見せてはいただけないでしょうか?」
「宿に置いてきました」
「そうですか、残念です。ではまた」
宿に戻ると中はかなり騒々しくなっていた
「どこ行ってたんだよ先生!」
レーヴェ君が詰め寄ってきた
かなり慌てているようだ
「どうしたの」
「やっぱあいつら襲って…」
そこで爆発音とともに壁が吹き飛んだ
「あ~くそ!俺こんなんばっかじゃないか!?」
クロガネさんが盾を構えながらナリアとカルラを庇つつこちらに向かってきた
その盾はすこしだけ焦げていた
「て、先生!聖剣はどうしたんだ!?」
「ああ大丈夫、ちゃんと持ってるから」
私は背中の聖剣にかけていた透明化の魔法を解除する
「よし、逃げるよ!」
みんなで外に出る
周りは武装した天使族に囲まれていた
そしてその中心には聖主
「おとなしく聖剣をこちらに渡しなさい、さもなくば」
「ギガライトニング!!」
問答無用で魔法を叩き込む
聖主に命中しかけたがすかさず隣の天使族がかばっていた
まぁそっちは黒焦げだがね!
「先生!?」
「もうこうなったら話を聞くだけ無駄!どうせありきたりな事しか言わないんだし行くよ!」
私たちは敵が怯んだすきに包囲を突破
だがしかし外に出ようとしたがそこには見えない壁のようなものがあった
「これさっき言ってた結界か?」
「厄介な!俺が解除してみる!先生たちはあいつらの足止めを頼んだ!」
「足止めって言ったって…」
「よし!お姉さんに任せなし!」
私はくるっと向きを変えて聖剣を掲げる
こんなところが初使用なんてすこし残念だけど…でも威力を試してみるのもありだよね
そう、私は今ここで
聖剣の力を解き放つ
「目覚めろ!第一の聖剣リ・スティード!」
聖剣が輝きを放つ
この世に存在する聖剣にはそれぞれ別の能力が備わっている。
そしてリ・スティードの能力は吸収と増幅!
つまりは聖剣でうつ私のとっておきはすごいことになるってことさ!
「うけなさい!これが聖剣版の…ライトニングセイバー!!!!!!」
普段とは比較にならないほどの大きさと威力を誇るライトニングセイバー
私はそれを容赦なく村にたたきつけた
「うわぁあああああああ!!!」
「なんだこれは!」
それは一気に天使たちを薙ぎ払ったが、私の目的は別にあった
私が狙ったのは天使たちじゃない、あの建物だ
可能性は低いかもしれないがもしかしたら逃げてくれるかもしれない。そう思って建物の端をねらってライトニングセイバーをはなったのだった。
だがその少し後だった
突然、村を…いや天使たちを黒い巨大なドーム状の何かが覆ったのだ。
「はい?」
「なんだこれ…」
私たちは突然現れたそれをわけもわからず眺めていた