旅の道中
勇者パーティに合流してはや二日
私たちは天使族の村に向けて足を進めていた。それと並行して勇者カルラのレベリングもおこなう
「そっちいったよカルラ!」
「は、はいぃぃ~!」
ざしゅっと気持ちのいい音と共にカルラが狼型の魔物を斬り倒した。
普通の魔物くらいなら余裕で対処できるようになったようでひとまず安心である。
今現在、戦いの素人であるカルラを鍛えるために旅をしつつ私とクロガネさんでカルラの特訓を見ていた
カルラは勇者という加護を受けているだけあって、かなりでたらめな身体能力を持っている。また魔力量も桁違いだ
でも本人がそれを自覚していないし、使いこなせてもいない。
以前の戦いで最後はカルラが私を背後から狙ってきたわけだが…あれ本人的には殺すつもりはなかったので剣の腹で私を殴ろうとしたわけだが
勇者の馬鹿力で振られたあれが当たっていた場合、私は普通に撲殺されていた。
自覚がないというのは恐ろしい物なのだ
よってこうして魔物との戦闘を積極的にやってもらったり、私と手合わせ稽古したりしているのですよ
クロガネさんは監督的な立ち位置で見守っている感じ
あと魔力の訓練をしてほしいんだけど、カルラは回復魔法の適正はほぼないのでナリアから教えられることはなく、ならばとレーヴェに頼もうと思ったのだが…
「俺じゃなくてアンタが教えればいいだろ!俺より魔法うまいくせに」
とツンケンして話を聞いてくれないのだ。
どうやら私がお披露目した魔法がだいぶ気に障ってしまったそうだ
いやしかし…私は魔法に関してはかなりずるをしているので魔法の知識がある人になら教えられることもあるが、基礎からとなると私ではてんでだめなのだ
何とかしなければなぁ…
そして今日も村にはたどり着けずに野宿である
寝る前に特訓があるのだがね
「はい!そこはもっと腰を入れて!」
「はいぃ!」
だいぶ剣の扱いが様になってきたカルラに合わせて剣戟を紡ぐ
しかしやっぱりところどころ力加減を間違えてしまっておりとんでもない威力の斬撃が振り下ろされる時がある
特訓といえども死と隣り合わせなのだ…
まぁしかしこちらも聖剣を使うことでどれだけの力が加えられても折れることはないので便利だ
まさか聖剣にこんな利点があったとは…やはり聖剣は勇者のために存在しているということか…
と馬鹿なことを考えている間に今日の特訓はお開きとなった。
「だいぶいい感じになったね~さすがは勇者!」
「いやぁ…自分では全くわからないんですが…」
「ううん、この短期間にしてはかなり強くなったよ。自信持って勇者様」
「ど、努力します…」
相変わらずどこか弱気なカルラを水浴びに行っておいでと送り出す
そして何か言いたげなクロガネさんに顔を向ける
「なにか言いたいことでも?」
「いや?ただその剣術をどこかで見たことがあってなぁと思って」
おおっと
これはまずいかもしれない。たしかに私の剣術の基本になっているのはパパの騎士団の剣術だ
クロガネさんならそこら辺の事情もくわしい可能性もあったなと
さてさて
「あらまぁそれはそれは」
「俺の記憶を頼りにお前さんの素性を探れるかもしれんな」
こちらを探るようなクロガネさんの視線が痛い
しかしここは堂々としているのが正解だ。どんな時も強気で、それが人生を生き抜くコツだと勝手に思っています。
「探りたければどうぞ?きっとあなたの欲しい情報は手に入らないと思いますよ」
「ふむ…なぁ聖剣をおとなしく返す気はないのか?短いがここまで一緒に来てお前さんが悪い人間ではないとは思う。だからこそなんで聖剣を盗むなんて事したのか俺にはわからんのだ」
「悪くない人は聖剣なんて盗みませんよ。私は世界を救うあなた達より自分の願いを優先した悪い悪い女ですからね」
「そうか、まぁいいさ。結論はもう少し後に出しても遅くは無いだろうしな…ところで酒はいける口か?」
17なのでいけません
いやこの世界ではもう成人してるのだがいけません
なので私はジュースです
もろもろを片づけてテントに戻った
そこにはすでに寝支度を済ませたナリアがいた
少し失礼だがナリアが野宿に対して抵抗がないのはかなり意外だったのだ
お姫様だしね
しかし本人曰く
「私は癒しの巫女に選ばれた瞬間からありとあらゆることに覚悟を決めてきたのです!世界のため民のために、上に立つものとしては当然ですわ!」
とのことで
おぉ~と思わず拍手をしてしまった。
ゲームでは最終的には敵キャラになってしまった彼女だったのだが、今はそんな気配は微塵も感じられない
それだけ家族が死ぬのはやっぱり悲しい事なんだろうな
私は経験したことないけれど…私が死ぬとパパも悲しむのだろうか
それは嫌だなぁと思った。
そして翌朝
私はレーヴェと距離を縮めようと彼と話をすることにした。
「ねぇねぇレーヴェ君」
「…なんだよ」
やはりツンケンしている
どうにか仲良くなれないものか。
いやすぐに別れるんだしあんまり仲良くなるわけにもいかないのだがそれはそれだ
「そんなに警戒しないでよ~」
「…いや無理だろ」
実は私もそう思う。
「そこをなんとかさ、少しだけだけど一緒にいるんだしさ…仲良く行こうぜ!少年!」
「・・・」
めっちゃ睨まれました
どうしたものかなぁ…
「ほらほらなんか聞きたいこととかないの?お姉さん答えられることなら答えるよ~?」
「それは…なんでもいいのか?」
お?食いついたぞ?
「なんでもはダメです。答えられることだけ」
安易に何でもとか言ってはいけない
これは絶対である。
そしてレーヴェはおずおずと口を開いた
「魔法…」
「ん?」
「魔法を…教えてくれないか」
「…私が?君に?」
いやいや賢者でしょう君!?
私からいまさら何を学ぶのさ!
「いや…教えられることがあるとは思わないけれど何が知りたいの?」
「あんたのあの詠唱の破棄とか…」
あ~あれね
しかしあれは私が今教えなくてもいずれレーヴェはできるようになる
ゲームでそうだったのだから。
私がこの詠唱せずに魔法を撃つということができるのはゲームでできるということを知っていたからに他ならないわけで…つまりはレーヴェに教えてもらったということなのでは?
そしてそれを私がレーヴェに教える…どういうことだ???
「私が教えなくても君はいずれできるようになるよ」
「つまり教える気はないってことかよ」
「違うって。本当に君ならいつかできるようになるってことだよ、君には才能があるもの」
「あんたのほうがあるだろ…詠唱破棄にオリジナル魔法まで使えるくせに」
それは違う
私のは才能ではなく小細工だ。
「ううん、私には魔法の才能がないの…この前見せたライトニングセイバー。あれが私の限界だもの。」
「どういうことだ?」
「私ね中級魔法までしか使えないの。この意味は君ならわかるでしょう?」
そう、幼少期に魔法を習得しようと躍起になっていた時に私は気づいてしまったのだ。
私は魔力量はそこそこ多いほうなのだが、魔法を使う器のようなものが小さいのだ。
故にどれだけ努力しても中級までしか習得できなかった。
存在核に魔法を刻んでみても結果は同じ…この事実に気づいた時はそれはそれは落胆したものだ
でもレーヴェは違う。
賢者の加護を与えられたことからもわかる通り、彼には計り知れないほどの魔法の才能がある。
やがては全ての魔法を、詠唱破棄で使うことさえできるだろう。
「まぁでも…そうだね。そんな私でもいいなら教えてあげるよ。魔法の事」
「本当か!?」
一転、目をキラキラさせてこちらを見上げてくるレーヴェ
あらかわいい
本当に魔法が好きなんだぁ
「うん、君の才能が私を追い越すまでね…あとカルラの魔法の練習にも付き合ってね。それが条件」
「ああわかったぜ!「先生!」」
賢者の先生…恐れ多くて死んでしまうわ
生きるけども。
そして三日目のお昼ごろ
私たちはようやく天使族の村にたどり着いたのだった。