女神の試練
それは突然起こった。
港町に戻って散々騒いだ翌日、突如として私たちの前に女神が降臨した。
いや突然すぎるわ!
朝起きたら急に空がパァーっと光り輝いて真っ白なドレスに身を包んだ…いやすべてが純白で構成されているような美しい通り越して神々しい女性が舞い降りてきたのだ。
もうね…どこからどう見ても女神!
ほら見て!カルラたちも唖然としてるし町の人たちも思わずひれ伏しちゃってるよ!
びっくりするわ~…。
隣を見るとレフィアは何故か日傘をさして、サングラスのようなものをしていた。
「何してるの?」
「いや…眩しすぎるなと。」
シンプルな答えだった。
相手は女神様ですよ?いやあれが女神様だって知ってるのは私だけだと思うけど…でもねぇ?なんか本能的にあれは女神だと理解できるというかなんというか…。
「おかあさん…」
アルマはアルマでなぜか私の服を掴んで後ろに隠れている。
…ここは複雑な関係だしあんまり口出しはしない方向で行こう。
というかアルマは女神と自分の関係なんて知らないだろうしね…ここで伝える必要もないだろう。
そうこうしているうちに女神がその口を開いた。
「初めまして…というと私は不思議な感じですがあらためて挨拶を。私はあなた達が女神と呼ぶ者です」
見た目にたがわず清らかですっと心に入ってくるような不思議な声だった。
…しかし誰かに似ている気がするな女神。
いや、こんな真っ白な知り合いはいないはずだけど、どこか既視感があるのだ。
特にそのびっくりするほどボリューミーなお胸様とか…いやいやこの前から私ヤバいぞ。
変態だぞマジで…ん?この前…やっぱりどこかで…?
「め、女神様だー!この町に女神様が御降臨なされたぞー!」
「なんということだ…」
「まさかこの目で女神様を見る事ができるなんて…」
「長生きしてみるもんだなぁ」
私の思考はそんな人々の歓声にかき消されてしまった。
まぁ確かに驚くよなぁ…。
そしてみんなを代表して…というか当然の帰結としてカルラが一歩前に出た。
「女神様…初めまして、じ、自分は…」
「大丈夫ですよ、勇者カルラ。あなたのことは良く存じています。遅くなりましたがまずは謝罪を」
女神はカルラに…というか勇者パーティに頭を下げた。
「ちょっ!女神様いったいなにを!?」
「あなた達を勝手に勇者などと言う役割に任命してしまったことに対する謝罪です。そしてお礼を。よくぞここまで挫けずにたどり着いてくれました。」
それは優し気な声だった。
本心から謝り、本心から感謝している…そういう気持ちが伝わってきた。
「そして…」
女神が私を見た。
私もその視線を正面から返す。
少しの間、お互いに視線をかわし合い…そして気づいた。
やっぱりこの人は…。
「今は何も言いません。ネタバラシはもう少し取っておきましょう」
女神がそういったので私としても何も言うことは無い。
しいて言えばアルマの事についてどう思っているのか問い詰めたい気持ちがある。
が、しかし一瞬だけ…本当に一瞬だけ私の背後のアルマに悲し気な視線を女神が向けたのを私は見逃さなかった。
「あの…女神様はいったいどうしてここに?」
「そうですね先に話を済ませてしまいましょう。」
女神が手を少しだけ天に掲げた。
すると私の背中で聖剣が淡く光を発した。
いや、私のだけじゃない皆が持っていた聖剣が同じように光を放つ。
「ここに4本の聖剣が揃いました。よくやってくれました…ここまでの道筋は楽なものではなかったでしょう。それでもあなた達は無事に全ての聖剣を集め力をつけてくれました。だからこそ今、魔王竜の元までの道を開きましょう」
それぞれの聖剣から光の線が放たれ、空の一か所に収束していく。
すると空に光の扉と言えばいいだろうか?四角い穴が開いた。
「あれは…」
「あそこの先に…魔王竜がいます。もう猶予はあまり長くありません…覚悟ができたのなら一歩を踏み出しなさい。私が最後の場所まで連れていきましょう。」
これはあれだ。
この先に行くと引き返せません。突入しますか?というやつだ。
「みんな、行こう」
カルラが一歩を踏み出した。
「おうよ。急だがここまで来たんだ、もはや尻込みする理由もないわな」
クロガネさんも一歩。
「はっ!これでようやく魔法の研究に戻れるってもんだ。とっとと終わらせちまおうぜ」
それに続きレーヴェも踏み出した。
「我が国の…いえこの世界の民のため覚悟はとっくにできてますわ!」
恐れずにナリアも踏み出した。
これで全員…いや。
カルラたち4人が私を見ていた。
…正直みんなと一緒に行くことになるのは完全に想定外だったけど、どうせ行かないといけないのだ。
これは私にとっても最後の戦いなのだから。
「ご主人様」
レフィアが後ろから声をかけてきた。
「レフィア?」
「私はここでお待ちしています。どうかご無事で」
それ以上は何も言わなかったが気持ちは伝わった。
レフィアは魔王竜との戦いではおそらく足手まといだ。それがわかっているからこそ一歩引くことを選択したのだろう。
私も気にせずついてこい!とは言えないからレフィアに頷いた。
そして私も一歩を踏み出す。アルマと一緒に。
「もちろん私も行かせてもらいます…この子も一緒がいいのでしょう?」
「…そうですね」
女神は今度は私と目を合わせてはくれなかった。
「え…おいおい。ちびちゃん連れていく気なのか?」
「それはまずくないか?」
勇者たちからはもちろん反対されるがそういうわけにもいかない。
この子こそが世界を救うための最も重要な存在なのだから。
「構いませんよ。それでは行きましょう」
少し強引に女神が話を打ち切った。しかしそれでいいのだと思ってしまう。
思えば「これ」は女神の力だったんだろうな。
そして私たちは女神に導かれるようにしてたくさんの人に見送られながら空の扉の中に入っていった。
気が付くと私たちは綺麗な場所にいた。
緑があふれた澄んだ空気が舞う森林…といった感じだ。
こんなところゲームで来ただろうか?
私が困惑していると正面に女神が立った。
「女神様…ここに魔王竜がいるのですか?」
カルラが質問したがとてもそうは見えない。
「いいえ。ここは魔王竜がいるところではありません。私の…女神の領域です。」
どうやらここは女神のお家らしい。
なぜこんなところに連れてきたのだろうか。
「不思議そうな顔をしていますね。当然ですよね…何も言ってませんでしたし」
そういうと同時に女神の背中から光でできた翼のようなものがはためいた。
そして宙に浮かんだ女神の周りに何本もの光の剣が集い周りを漂いだす。
これは…。
「どういうつもりですか」
聖剣に手をかけつつとりあえず質問してみたが帰ってきた答えは…。
「今回の件…私の想定外の事態が多く起こっています。ならばこそあなた達が魔王竜と戦えるだけの力があるのか…それにふさわしい心を持っているのか試させていただきます」
やっぱりそういうことか。
そして女神は「あなた達」と言ったが視線は私だけを射抜いていた。
ということは女神の目的は私という人間の出方を試すことか。
そりゃそうだよね…女神からすれば私はただの不穏分子だ。あわよくば始末したいと考えているまであるかもしれない。
でも私もここで引くわけにはいかないから。
聖剣を構え女神と対峙する。
カルラたちも困惑しながらも私の隣に立ってくれた。
アルマは少し離れたところで状況を見守っていた。
「…なるほど覚悟はできているようですね。では始めましょう。これは女神の試練です…こういうセリフはあまり好きではありませんが言わせていただきます」
女神の周辺の光の剣が輝きを増していく。
「――死ぬ気でかかってきなさい」
女神から圧倒的なプレッシャーが放たれる。
圧し潰されてしまいそうだが負けるわけにはいかない。
今から私は神に挑む。
世界の運命を変えようというのだ。神様に負けるわけにはいかないよね。
「行くぞ!」
さぁここから、私の望みをかなえるために。




