白面と再会
あれから一月。
私はレフィアと共に大きな湖に面した森にある村に滞在していた。
なにをどうやっても奴隷契約は解除できず…というか調べた末に解除の方法はいくつか見つかったのだが、どれもが「お互いの同意」が必要なものでレフィアが意地でも同意してくれないのだ。
というわけで仕方なく二人で行動を共にしていた。
まぁしかしレフィアは何度もやらなくてもいいよとは言ってるのだが、料理や洗濯など率先してやってくれる上にめちゃくちゃ手際が良く、それに上手なのだ。
そんなわけで気づけば一月もずるずると…恐ろしい子だよまったく。
あと気になること言えば、たまに白い服を洗濯する前に何故か少し汚してみたり…たまに私に謎の泥団子を渡して来たりするのだ。
とりあえず受け取るのだがべしゃっとなって私の手を汚すだけに終わるそれを見てすごく楽しそうに笑うのが少し意味が分からない。それくらいかな?
つまるところ問題はこれと言ってないということである。
そして今は村にある「ギルド」と呼ばれるところに魔物の討伐の報告をしに来ているところだ。
村でお世話になる以上は少し働かないといけないなぁと思い、話を持ち掛けたところ戦える人が不足しているとの事で、ならばと手を上げたしだいである。
村の治安に一役買えるし報酬もいただけるのでよきよき。
私は受付のコハルちゃんに討伐した魔物の皮と肉を渡す。
これ地味に運ぶのとか下処理がめんどくさい…が、これもレフィアが率先してやってくれている。
「わぁ!今日も大量ですね!」
コハルちゃんが元気な笑顔でそう言った。
働くにはまだ幼い少女だが、彼女も村のためにと健気に働いているみんなのアイドル的な存在なのだそう。
うんうんコハルちゃんが喜んでくれてお姉さんも嬉しい。
素材をさっと検分してギルドの裏に運んだあとコハルちゃんが報酬の入った小袋を渡してくれた。
そして笑顔でこう言った。
「本当にいつもありがとうございます!「白面さん」!」
誰だ白面さんとお思いだね?説明しよう!
私ことレーナの事である。
なぜそんな呼ばれ方を?それは私が真っ白なお面をかぶっているからです。
真っ白なお面に身体をすっぽりと覆うマント…圧倒的不審者スタイルな私なのです。
なぜそんなことになっているかというと…実は私はいつの間にか有名人になってしまったのだ。
いや本当に困ってるんですよ。
それはカルラたちと別れて数日、レフィアと一緒にこことは別の村に立ち寄った時…めちゃくちゃ囲まれたのだ。
そしていきなりの質問攻めに村をあげての歓迎会。
もう意味が分からなかった。
そしてそこでどうやら私が5人目の勇者パーティ「剣の聖女レーナ」と呼ばれ人相書きまで出回ってしまっていたのだ!!
なんでや!!!!!!!!!!
しかも何がどうなってそうなったのか、巫女の祖国を救った英雄、賢者を育て上げた大魔法使い、戦士と肩を並べて戦をくぐりぬけた武術の達人…そして勇者を導いた聖女などすごい言われようなのだ。
誰だよその完璧超人…いるなら見てみたいわ!
というわけで慌ててその村から脱出、お面をついでに調達して姿を隠してこの村に行きついたという次第である。
聖剣は透明化をかけて見えなくしてるからいいとしても、顔はどうしようもないから大変なのですよ…。
「いいえ、こっちもこうして報酬を貰ってるんだから気にしないで。いこうかレフィア」
「はいっご主人様!」
ご主人様…いや聖女様よりはマシなんだけど、これはこれでむず痒いものを感じるよね…。
「おう、白面!また稼いだのかよ~」
「俺たちに飯でもおごってくれてもいいんだぜ?」
テーブルに座って何やら飲み食いしてる無骨な男たちが私たちを見てそう言った。
この人たちは私と同じように魔物を討伐したりして生計を立てている村人たちだ。
最初は私の不審者スタイルが原因でひと悶着あったが、今では軽口をたたきあうくらいには打ち解けた。
「オジサンたち私より年上なんだから、むしろ奢るくらいの気概を見せてください~」
「ふっ…わかってねえなぁ…仕事のできる出来ないに性別も年齢も関係ないんだぜ?」
「いやそれこの状況で言ってもただの屁理屈じゃないすか」
「違いねぇ!あっはっはっは!」
中身も内容もない会話で盛り上がる。
こういう何気ない日常は平和を感じられていいと思います。
「レフィア、今日は疲れたしご飯食べていこうか?」
「私はどちらでも構いませんよ?」
じゃあ今日はここで食べていこう。毎日レフィアに作ってもらうのも悪いしね。
いや私も作ろうとはするんだけどレフィアが許してくれないのだ。
とりあえず二人で席に座る。
「コハルちゃん~注文お願い~!」
「はいはいっ!少々お待ちを!」
久々の外食楽しみだな~ここのご飯はコハルちゃんのお母さんが作ってるんだけど美味しいのだ。
あ、私のお面は口元は開いてるから飲み食いは普通にできるからね?あしからず。
「おい、そういえば聞いたか?なんでも勇者様達が近くまで来てるらしいぜ?」
「へぇ~ほんとか?」
お、カルラたちの話題だ。
噂話が聞けるのもこういう場所の利点かもね。
「ほんとほんと、なんでも近くの村で起こってた魔物騒動を鎮めたらしいぜ。そんでもって聖剣を手に入れたとかなんとか。」
「ほ~、聖剣って1本だけじゃなかったんだな。」
そっか、無事に3本目の聖剣を手に入れたんだね。
「レフィア、そろそろ旅立つ準備しよっか」
「わかりました。」
近くに来てるのならこの村にも立ち寄るかもしれない。
さすがにカルラたちにはバレるだろうし…名残惜しいけど近々旅立つとしよう。
「聖剣といえば俺も一度でいいから剣の聖女様を見てみてぇなぁ。」
私は盛大にむせた。
「ご主人様!?」
「おおう?大丈夫か白面?…にしても剣の聖女様なぁ~すっごい美人らしいじゃねえか。」
「おまけにめっちゃ強いらしいしな。今は勇者様達とは別行動してるんだとさ。」
「じゃあ勇者様達がこっちに来てくれたとしても聖女様は見れんのか…少し残念だな。」
「ほんとにな~…案外、白面がその聖女様だったりしてな!」
私はさらにむせた。
「確かに!女でしかもすげえ強いしな!なぁおい、一度くらい素顔見せてくれよ~」
これはまずい流れかもしれない…。
絶対に見せられないぞこれ…。
「皆さま。ご主人様にはいろいろとあるのです。そこをお酒のお供にするのはおやめくださいまし。」
レフィアがぴしゃりと言ったその一言でギルドは静まり返った。
「あぁいや…そうだな。すまん…調子に乗りすぎた。」
「悪かったな白面。」
「いいえ、気にしないで。食事を楽しみましょう?」
やばい…地味に心苦しい…。
いやだってこれ…みんな私の事を顔に傷があって、なんか紆余曲折合って討伐業をしているわけありの人と思っている節があるのだ。
う~む…まぁいいか!!!細かいことは気にしない!
そんなわけで普通に食事を済ませてギルドを後にした。
「おいしかったね~」
「ですね。あの味…なんとか盗んでいきたいところでしたが…」
「ごめんね。どうしても勇者たちに今は会うわけにはいかないからさ。」
「いえいえ!勝手についてきてるのは私のほうですので気にしないでくださいご主人様。」
そうして借りている民家にたどり着いたところで…。
「あら?もしかしてレーナさん?」
「え?」
呼ばれるはずのない名前で誰かに呼び止められ振り向くとそこには…
「クロリスさん…?」
公国でであった美人なお姉さん、クロリスさんがいた。




