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剣の聖女

最初に言っておきたいのだけど私は別にチートというわけではない。

弱くはないと思うけど普通の人より少しだけ魔法がうまくて、同年代の人に比べれば戦い方を知っている程度なわけで…つまり何が言いたいのかというと今のこの状況を私一人でどうにかするのは無理だということなのですよ。


「数が…数が多すぎる…!!」


かっこつけてカルラを送り出したものの、早まった感が否めない。

何処を見ても一面の魔物、魔物、魔物…無理に決まってるでしょう!?

とか言ってる間にも敵が手を止めてくれるはずもなく、かなりまずい状況だ。


一体一体は強くないのだが…う~む…とにかく外に何とかして出ないとなぁ…

私のとっておきのライトニングセイバーを使えばなんてことはないのだが、あの技も万能というわけではなく…使うのに数秒だが隙ができてしまうのだ。


なのでこんな風に間髪入れず次々に魔物が襲ってくる状況ではとてもではないが使えたものではない。

正面から狼のような姿をした魔物が数体とびかかってくる。


「ああもう!しつこい!!」


聖剣を一閃、それで魔物は消滅する。

そう弱い、弱いのだ。ただ…ほらさらに後ろから数体襲い掛かってくる。


いちいち相手にしてられないので走って逃げる。

しかしなんというか…身体の調子が本当にいい。よすぎる。なんだこれ?


全身が軽い。いつもより速度が出てる気もするしさっきの一閃もいつもよりキレがよかったような…?

と、目の前に小型のゴーレムのような魔物が現れ道を塞ぐ。


「邪魔!!!」


もうなんかむしゃくしゃして無謀にも蹴りを乱暴に放ったのだが…なんとゴーレムを蹴り飛ばせた。

いやいや…いやいやいやいや。

絶対におかしいよね。


身体能力がおかしなことになっている。私の身に一体何が?

そんなことしてる場合ではないのだが自分の存在核を覗いて見る事にした。


原因はすぐに分かった。私が偽装して作った女神の加護が消えて本物の女神の加護がなぜか刻まれていた。


こ、これかぁあああああああ!!!なんで!?なんで私に女神の加護が!?

意味が分からない、なぜ突然こんなことに?

いやまて、思い出せ…一体いつからおかしかった?


そうあれは…宿屋で目覚めたときからだ。なぜかやけに身体が軽くなっていた。

ということはそこで何かがあった?じゃあ何が?あそこではたしかクロリスさんと………


ん?私は何を考えていた?あれ?

まるでそれ以上は考えるなと何かに思考をさえぎられたようなよくわからない気分だ。


そこで私の頭上を火の玉が通過していった。


「うおおおおお!?そうだ今なにか考えてる場合じゃなかった!!!」


後ろを振り向くとゴーストタイプの魔物が私に向けて魔法を連発していた。

ちくしょう!あんなのもいるのか!!


「くっ!くらえ!」


負けじと私も詠唱無しで魔法を背後に向かってめちゃくちゃに放つ。

倒せずとも牽制になってくれればいいのだけど!


そして後ろばかりに気を取られていると正面から風を切る音が。

慌ててしゃがむと私の首があった位置にちょうど骨の魔物が持っていた剣を振るったところだった。


「危ないじゃないのよ!」


お返しとばかりにしゃがんだままで聖剣を横なぎにして切り裂く。

だがまだ安心はできない


今度は上からゴーレムが!!やばい潰される!!


ゴロゴロと転がって緊急回避。

まずい…ゴーレムを避けることはできたが完全に態勢が崩れた…そしてそんな私に四方八方から魔物が襲い掛かってきて…


「うおおおおおおおお!!!邪魔だどけぇえい!!」


誰かが魔物を弾き飛ばすように突っ込んできて私を庇うように立った。

それはクロガネさんだった。


「クロガネさん!」

「無事か嬢ちゃん!」


「な、なんとか…」

「よし!なら走るぞ!レーヴェが魔法を使って道をあけてくれるそうだからな!」


その言葉とほぼ同時に辺りに電撃が走る。

かなりの数の魔物がその電撃に飲まれ倒れたがまだまだ数はいる。

しかし外までの道はくっきりと開いていた。


「よし今だ!」

「うん!」


クロガネさんと二人全力で走った。


「あ!お姉さま!こっちですわ!」


案内にそって走っていると階段があり、そこでナリアが手招きをしていた。

あぁ正規の入口ってそんなところにあったのね。


「急げ!もう一発魔法をうつぞ!」


上からレーヴェの声も聞こえた。

急がねばとクロガネさんを掴み、エアステップを連続で発動して階段の上まで駆け込む。


「うっし!くらえ火属性中級魔法ヘルフレイム!」


レーヴェが階段の下に向かって魔法の火を放った。

おぉ~もう詠唱破棄をものにしているとは…やはり賢者はすごい。


「お姉さまケガしてるじゃないですか!待っててくださいね…」


ナリアが目を閉じて私のケガに手をかざした。

すると見る見るうちに傷が塞がって痛みもなくなっていく。

す、すげぇ…

これが勇者パーティ…もう私がとやかく言う必要ないなコレ…。


「いやぁ~助かったよ~ありがとみんな。」

「それがなぁお嬢ちゃん…まだ助かってないんだなぁこれが」


「え?」

「今は私の結界でなんとかなってますけどこの外も魔物がいっぱいいて困ってるんですよ!」


ナリアが口をとがらせながら私の腕に抱き着いてきた。

うへぇ…外もいっぱいいるのか…


「一か八かこっちに逃げ込んだんだが…ここも魔物が大量ときたわけで…もうこの地下を完全に焼き払って逃げ込むか?」

「待ってレーヴェ!今この奥でカルラが敵のボスと戦ってる途中だから!」


「おいおいおい嘘だろ?大丈夫なんか?」

「助けに行きます?」

「そうだなぁ…」


みんな不安そうだが多分、大丈夫だろうという確信が私の中にはある。


「大丈夫だよ。カルラは…きっと。」

「…まぁお嬢ちゃんがそういうのなら…というかこっちも状況はピンチだしなぁ!」


クロガネさんがいつの間にか地下から迫っていた魔物を盾で弾き飛ばした。


「ちょっとレーヴェ!?真面目にやりなさいよ!残ってるじゃないの!」

「数が多すぎんだよ!カルラがまだ下にいるなら無茶出来ねえんだしぎゃーぎゃー言うんじゃねえ!!」

「はいはい!喧嘩しないの!」


しかしどうしたものか…いやどうするもこうするもこんな街中に大量の魔物をほおっておくわけにもいかないし殲滅するしかない。

しかし広範囲に被害を出すわけにもいかず…そうだみんなの力を合わせて何とかできないだろうか?


「ねぇねぇこのあたりに広い一本道ってあった?」

「一本道?すぐそこが一応一本道といえば一本道だが…先生なんか思いついたのか?」


「まぁ思いついたというか力技なんだけどさ。」


つまりはこうだ。

広い一本道に大量の魔物をクロガネさんが誘導し(ここ一番大変だけど丸投げ)

周りに被害が出ないように+魔物を閉じ込めるための結界をナリアが張る。

レーヴェが今使える最大の魔法を使う。

それを私が聖剣の能力で増幅してライトニングセイバーの要領で魔物を一掃する。

実に脳筋な大作戦だ。


「うまくいくのか?それ…」

「んまっ!お姉さまの建てた作戦に不満があるんですの!?」

「どうどう…でももうこれで行くしかなくない?」

「そうさなぁ…というか俺が魔物を誘導するのか…お前ら年上を少しは敬う気はないのか?」


言ってても始まらないので作戦開始!!!散!!


「くそおおお!こうなれば俺も意地だ!結界を解いていいぞナリア!」


クロガネさんが盾を地面にたたきつける。

それだけで地面が大きく揺れる。

クロガネさんも女神の加護により特別な力を使えるようになっているらしい。


「こい魔物ども!」


その叫びを受けて大量の魔物がクロガネさんに殺到する。

意思無き魔物を自らに引き付ける…クロガネさんだからこそ意味のある能力だ。


そうしてる間に私たちも自分のポジションにつく。

やがて指定のポイントにクロガネさんが到達した。

うひゃぁほんとにすごい数だ…100体以上いるよねこれ…?わかんないけどさ


「ナリア!今!」

「はいっ!光よ!邪悪なものを拒む光の壁となれ!」


街にとてつもなく大きな光の長方形が現れ私と魔物達を閉じ込める。クロガネさんもすでに脱出済み。今この結界内には私と、その目前の大量の魔物だけ…そしてこの状況なら周りの被害も最小限のものになるだろう…よし!


と気合を入れたとき、天を突く勢いで光の柱が立ち上った。


「あれは…」


眩しくて…でも不思議と安らぎを覚えるような暖かな光。


「そっか…やっぱり君は勇者だったんだね…じゃあ私もしっかりとやらないとね!レーヴェ!」

「本当に大丈夫なのか先生!上級魔法だぞ!コントロールに失敗したら先生もただじゃすまないんだぞ!」


「私を信じなさいな!たとえ一時期でも君の先生だったんだからそれくらいやってみせるよ!」

「あ~!くそ!信じてるからな!?【天より来たりし空の怒りよ!裁きの一閃となりて全てを裁け!】雷属性最上級魔法!ジャッジメントライトニング!」


聖剣を掲げる。

瞬間とてつもない衝撃が私を襲った。


「くぅ…!やっぱりギガライトニングとはぜんぜん違う!!いうこと聞かない…!でも負けてたまるかぁあああああああ!!!」


その時、私の中で何かが弾けた。

不思議と力が湧いてくる…これはまさか女神の加護…?いやなんでもいい!チャンスだ!


「目覚めろ!第一の聖剣リ・スティード!!これが最大最強!私たちの力!」


先ほどの光と同じように、しかし性質は真逆の破壊の光が天を突く。


「くらいなさい!ジャッジメント…セイバーーーーーー!!!!!!」


魔物達を光が飲み込んだ_


~~~~~~~


その日、フルセル公国の民たちは二つの光を見た。

一つは全ての負や闇といったものを浄化してくれる暖かくて慈悲深き光。

もう一つは邪悪なるもの全てを裁く慈悲無き破壊の光。


そして数日後。


フルセル公国は建国以来の大騒ぎに見舞われていた。

勇者が魔物に支配された国を救ってくれたのだ…それだけでなく皆が愛したアウス公も戻ってきた。

もちろんすべてが許されるわけでも、失ったものが戻るわけでもないがそれでも国を立て直そうと誰もが前を向いていた。

もうこの国が弱さにつけ込まれることは無いだろうと…そう信じさせてくれるような活気に満ちていた。


そして今日、勇者たちが旅立つ。


「本当に…どんな言葉を尽くしても感謝を伝えきれない…だが今一度礼を言わせてくれ。ありがとう勇者よ。」

「あぁいえ…自分もちょっと偉そうに何言ってんだって感じだったんで顔をあげてもらえると…」


そんな感じのどこか締まらない別れの挨拶と少しばかりのお礼の品を持ってカルラたちは旅立つ。

しかしそんなカルラたちを民たちは引き留めた。


「ま、まってください勇者様!」

「えっと…なにか…?」


「あの方は!あの魔物達を一撃のもとに滅ぼした美しい女性はどちらに!」

「私たち、あの方にもお礼を申し上げたいのに姿が見えなくて…」

「あの方は勇者様達のお仲間なんでしょうか!?」


民たちが語っているのはレーナの事だとカルラたちはすぐに分かった。

レーナは今「勇者様の祝勝会の中に私が混じってたら変でしょう?」といって村の外で待機していた。

カルラたちはそんなことないともちろん言ったのだが説得はできなかった。


「みなさん落ち着いて…そうですねあの人は自分たちの仲間です。」

「おお!やはり!いったいどういう人なのでしょうか!いかんせん勇者様達は4人だときいていたので…」


「そうだなぁお嬢ちゃんはな…剣術、体術においてはかなりの凄腕だなぁ。あの若さであのレベルとなるとなかなかおらんぞ。」


クロガネがしみじみとそういった。


「なんと!戦士様が認めるほどの強さを持つと!?」


民たちが盛り上がる。


「あの人はな…俺の魔法の先生だな。すげぇんだあの人の魔法は。」


レーヴェが少しだけ悔しさをにじませて、それでも尊敬の念を込めて言った。


「賢者様の魔法の先生ですと!?武術だけでなく魔法まで!?」


さらに盛り上がる民たち。


「お姉さまは私の…いえ!我が国の恩人なのですわ!お姉さまがいなかったら我が国はきっと傾いていました!」


ナリアが頬を赤らめながらそう言った。


「な、なんと!?巫女さまの国の恩人!?」


民たちは興奮のあまり倒れるものまで出始める。

そして最後に口を開いたのはカルラだった。


「あの人は…自分が一番尊敬してる人です。口下手なのでこれ以上はうまく言えませんが…とにかく自分たちにとってそれだけ大きな存在の人なんです…では自分たちはそろそろいきますね。お世話になりました!」


今度こそ勇者たちは次の目的地に旅立つのであった。

そして残された民たちはというと…


「どうやら俺たちはすごい人の活躍を目にしてしまったようだな…」

「ああ…勇者様一行には知られていない五人目が居たんだ!」

「あの美しさ…そして勇者様達が認める強さ…魔物達を一掃したあの雷…それに聖剣!」

「あの人はきっと女神様の使いに違いない!聖女様だ!」

「聖女様?」

「そうだ!【剣の聖女】様だ!!」

「こうしちゃいられねえ!早く広めるんだ!女神様の使いの剣の聖女様が世界を救うために勇者様達と旅をしてるんだって!」

「あったりめえよ!周辺の国にも伝えるんだ!」

「この国は初めて聖女様が降臨した国として後世に伝えよう!」


この瞬間、本人の全く知らないところで【剣の聖女】が誕生したのであった。

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