勇者side どの自分も自分
輝く聖剣と炎を携えて、救世の勇者カルラが魔人アウス公と対峙する。
「行くよ!」
「くっ…!」
カルラが目にも止まらない速さでアウス公に接近し、その聖剣を片手で振り下ろす。
今までは両手でも重いくらいだったが不思議と重さを感じなくなっていた。
それは聖剣に所有者と認められた証。
アウス公はその攻撃を後ろに下がることでかわす。
結果、地面にたたきつけられた聖剣が地面をえぐる。
「くそ!めちゃくちゃな威力しやがって!!」
「まだ!」
次の瞬間、カルラは聖剣を手放し素手で殴りかかった。
炎を纏った拳がアウス公を襲う。
「このぉ!」
なんとか腕で身を守るもとてつもない衝撃が身体を走り、態勢を崩す。
そして次は蹴り、流れるような体術が炎と共にアウス公にダメージを与えていく。
「舐めるなぁ!!!!」
アウス公が風の魔法を使い自信を中心として風の爆発が起こりカルラを吹き飛ばす。
「はははは!見たか!魔王竜様の力をもってすれば詠唱なく魔法を使うことも可能なのだ!」
「そんな力に頼らなくったって詠唱なんてしない人を知ってるよ…っと!」
しかしカルラもそれに冷静に対処し、空中で態勢を整え聖剣をそのまま回収して着地する。
「はぁ…はぁ…!なんだ、なんなのだ貴様!どうして突然そこまでの力を扱えるようになった!」
「別に、ただ私には女神様に授かった力と…尊敬する師匠がいたってだけの話よ。」
カルラの脳裏によぎるのはレーナの姿だった。
強くて美しい、今だからこそわかる。彼女こそ自分の理想なのだとカルラは思った。
「借り物の力で調子に乗るなよ!!!」
「あなたに言われたくないわ。でもそうね、確かに借り物かもしれないけれど…私はいずれ誰よりも強くてかっこいい勇者になれるそうよ?だから今は自分にできることをやるだけ!」
再びカルラがアウス公に踏み込む。
「そう何度もさせると思うなぁ!!」
アウス公が広範囲に魔法をばらまき始める。
「貴様は見たところ接近戦しかできないようだな!ならばこれには対処のしようがないだろう!死ね!!」
動きが止まったカルラにチャンスとばかりに巨大な炎を放つ。
それは全てを燃やし尽くす業火となってカルラを飲み込む…はずだった。
しかしそこには炎にあぶられても平気な顔して立っているカルラの姿があった。
いや違う、その炎はカルラを焼かずにその腕の中に消えていく。
「な、なんだと…?いったいなにが…」
その言葉を受けてカルラが口を開く。
「はっ!戦ってる途中でぼ~っとしてんじゃねえぞ!「俺」を馬鹿にしてんのか!」
「な、なに…?」
また突如として雰囲気が一変するカルラ。
アウス公は困惑するがカルラの言葉通り、それは致命的な結果をもたらす。
「ほら!返すぜこれ!」
カルラが腕を振るう。
すると先ほど放ったアウス公の魔法がそのままアウス公に放たれた。
「馬鹿な!ぐぉぉおおおおおお!?」
魔力を集中させ身を守るアウス公だがカルラはさらに追撃を開始する。
「さっき接近戦しかできねぇとか行ってくれたな!じゃあ見せてやるよ!俺は魔法もできんだよ!」
聖剣を地面に突き刺しカルラは詠唱をする。
それは幾重もの魔方陣を生み出し、数多くの魔法を発動させる。
「そんな…」
「くらえ、多重魔法!俺のありったけだ!」
炎が燃える、氷が降り注ぐ、水が全てを押し流し、雷が舞う。
その全てがアウス公を襲い、その身体にダメージを与えていく。
やがて魔法の暴虐が収まり、満身創痍のアウス公はその場に倒れた。
「ぐ、ぐぐぐ…貴様…一体何なんだ…!普通じゃない…どこかおかしいんじゃないのか!」
「あぁそうだな。俺はどこかおかしいんだろうさ…でもこれが私。人と違っても誰に何を言われても、自分は自分。」
カルラがゆっくりとアウス公のもとに歩く。
「あなただってそうだったんじゃないんですか?」
「なに…?」
「聞きましたよ。周りからは変わり者の貴族って呼ばれてたって。」
「・・・」
「あなたはそれを恥じていたんですか…?違うでしょう?たとえ変人と言われても国のため民のために頑張ってきたんじゃないですか。」
「黙れ!お前に何がわかる!!!」
「わかりませんよ。でもこんなこと間違ってるってくらい自分どころかあなたにだってわかるでしょうに!」
アウス公がその拳を血がにじむほどに握りしめた。
「だからといってもう止まれぬのだ!もはや魔王竜様に従うことしか我らに生き残るすべはない!そうすればすべてうまく行くのだ!!邪魔をするなぁ!」
カルラは一瞬だけ目を閉じ…聖剣を掲げた。
「いいや、うまくはいかないぜ。俺が、俺たちが魔王竜なんてぶった切るからな!そしてあんたも本当の自分を取り戻せよ。そんなもんで守れるものなんて何もないんだから」
聖剣がその輝きを増していく。
やがてアウス公は目をあけられないほどのその輝きに圧倒されていく。
「な、なんだ…この光は…眩しい…力が抜けていく…なのに…なんだこの気持ちは…」
「それがこの聖剣の力だ!目覚めろ第二の聖剣セカンズ・ラフェル!」
聖剣からあふれた光が一本の柱となり天を突く。
その輝きは公国の全ての人間が目で追うほど美しく、神々しい輝きだった。
そしてその力は「浄化と癒し」悪しきものを浄化し、傷つきしものをあるべき姿に戻す。
「はぁあああああああああ届えぇええええええ!!!!」
カルラがその光をアウス公に振り下ろした。
その一撃はアウス公を、いやアウス公の中にある邪悪なる因子を焼き切り浄化していく。
「あぁ…そうか…私は……」
光に飲まれたアウス公は輝きの中で自分を取り戻した。
そこにはただの人間に戻った変人貴族だけが残っていた。
そしてカルラは_
「あぁ~~~…疲れた…なんかいろいろ恥ずかしいこと言っちゃったし…どうしよう…うぅ」
いつもの弱気な勇者に戻っていた。
「はっ!そうだレーナさん!すぐにいかないと…!あぁ、この人も連れていかなくちゃ…」
カルラが意識を失っているアウス公を担いで移動しようとした時、とてつもない轟音と共に先ほどとは違う光の柱が天に伸びていくのを見た。
「えぇ…あれは…」
カルラにはそれに見覚えがあった。規模こそ違うがあれは間違いなくレーナのライトニングセイバーだ。
「まってまって!レーナさんそれ街中で振り下ろす気なの!!!?」
カルラは走った。
これまでの人生でここまで速く走ったことがあっただろうかと思うほどの速度で走った。
担いでるアウス公がすごいことになっているがそれに気を向けている場合ではなかった。
そして…光の柱は振り下ろされて…




