勇者side 自分のその先
自分は物心ついた時から周りとは少し違っていた。
それに気づいたのは幼少期のころ、自分を女手一つで育ててくれたお母さんは自分の事を「私」と言っていた。
街で遊んでいた男の子たちは「俺」と言っていた。
なんとなくかっこいい気がしたから自分も自分の事を「俺」と言ってみた。
するとお母さんに「あらあら、男の子みたいよ?」と言われてしまった。
どうやら自分が「俺」というのはおかしかったらしい、なので次からは「私」ということにした。
そのことに少し疑問を持ちつつも自分の日常は穏やかに過ぎていった。
次にそれを感じたのはもう少し成長したころ…7~8歳のころだっただろうか。
だんだんと近所の男の子たちが自分と遊んでくれなくなった。
仲が悪くなったとかじゃない…なぜか自然と距離が離れていったのだ。
やがて自分の周りには女の子しかいなくなっていった…別にそれが嫌だったわけじゃない。
みんなと一緒におままごとや裁縫をするのは好きだった。でも私は外で男の子たちとボール遊びもしたかった。
なんで違いがあるのか、区別されてるのか。自分にはわからなかった。
そして成長にするにつれて違いは身体にも表れる。どんどん丸みを帯びていく身体…どうやら自分は女性…らしい。
なんで?なぜ?どうして?そんな疑問が頭を埋め尽くす。
別に男性に産まれたかったというわけでもない。女性なのは別にかまわないのだ…ただなぜそこに区別があるのか、そこがわからなかった。
身体は確かに女だけど…中身はどちらでもなかった。
それがおかしいということなんてとっくに気づいていた。だから誰にも言えなくて苦しくて…ついに耐えきれなくなった。
でもそんな自分をお母さんは…周りのみんなは受け入れてくれた。
ただ自分だけがそんな自分を受け入れられなかった。
そんな時だった、自分が勇者に選ばれたのは。
街のみんなは喜んでくれたけど、同時にとても心配された。
お母さんにも泣かれてしまった。
だからこそ自分はやってみたいと思ったのだ。
こんな自分自身を受け入れられない自分を受け入れてくれたみんなが悲しい目に合わないように、世界のために自分が少しでも役に立てるのなら…そんな思いで勇者を引き受けたのだ。
そして今、自分は最大の試練を迎えていた。
「勇者よ、抵抗するな。おとなしくしていれば苦しまずに済む。」
黒いオーラを纏った人物…アウス公と呼ばれる人…いや魔王の因子にとりつかれた魔人はそう言って自分に腕を向ける。
その腕から真っ黒な炎が放たれた。
「くぅ!!」
それを先ほど手に入れた聖剣で受け止める。
さすがは聖剣だ、魔法を受け止めたのに傷一つついてはいなかった。
でもひたすら重い。驚くほど手になじまないというのだろうか…とにかく聖剣が自分を拒んでいる…そういう感覚を感じていた。
やっぱり自分に勇者なんて無理だったのだろうか…。
そう思考がいつものようにマイナスに引っ張られる時に思い出されるのは先ほどのレーナさんの言葉だった。
そうだレーナさん…自分のために一人であんな数の魔物を相手にしてるんだ。
ここでうじうじしてる場合じゃない…それはわかっているのに、自分にどうにかすることができるのだろうかという弱気な感情を抑えることができない。
「小さい…あまりに小さいな勇者よ。まるでちいさな子供のようだ。」
「・・・」
その通りなのかもしれない。
自分は…自分のズレを認識した子供のころから何も成長できてない。
自分の周りの人は皆強かった。
クロガネさんにナリアにレーヴェ…そしてレーナさん。
みんなまっすぐな目をしていて、自分のやることをわかっていて…ただただみんなが羨ましくて眩しかった。
レーナさんは何がしたいのかよくわからなかったけど、それでもあの人の瞳はいつだってまっすぐだ。
そしてそれは目の前にいる魔人も同じだった。
だから自分はついつい聞いてしまった。
「なんであなたは…自分を狙うんですか。」
そんな自分の問いにわざわざ答えるはずがないと思ったが、以外にもアウス公は自分と会話をしてくれた。
「知れたこと、女神の使徒であるお前たちを魔王竜様に捧げる生贄とするのだ。」
「どうしてそんなことを…?」
「私が魔王竜様の役に立つとなればその加護をさらに得ることができる!そうすれば我が民たちはもう何物にも脅かされることはなくなる!」
「…は?」
「勇者よ、お前は知らないだろう。この小さな国がどれだけ脆いのかを。この国は常に周辺国からの侵略におびえていた!魔物の被害も!食糧問題に領地問題!外交の場でも発言力は低く常に搾取されてきた!!!それで苦しむのはいつだって私の…俺の大切な民たちだ!そんなの許せるか!?だから俺は力を求めた!そうして魔王竜様は力を授けてくださった!この力で俺は俺の愛する民を!国を!守って見せる!!そのためにはお前の命がいるのだ勇者!!!」
それは正しいようで、歪んでいて…それでいて純粋な願い。
大切な誰かを守りたいという単純でわかりやすい物だった。
だからこそ、自分にはそれが間違ってるとしか思えなかった。
なぜなら、だって
「あんたの国のみんな…笑ってなかったよ。」
「…なんだと?」
「苦しいって、辛いってみんな泣いてたよ…。」
「それは一時的な痛みだ!すべてが終わればみんなわかってくれる!俺が正しかったのだと!」
「みんな!あんたに元に戻ってほしいって!自分たちにあんたを殺さないでほしいって!みんなみんな泣いてたんだぞ!!!それがあんあたが守りたかった国なのかよ!!」
「黙れぇえええええええええ!!!!!!!!!」
アウス公がここに来るときに使ったであろう巨大な爆発を起こす。
自分はここにきてようやく覚悟を決めた。
随分遅くなってしまったけれど、こんなの間違ってるって思うから。
救うなんて大それたことは言えないけれど、少しでも自分が誰かのために役に立てるのなら。
こんな自分だけど、背中を押してくれた人がいたから…だからあともう一歩だけ自分の足で_
右手の聖剣が強い光を放った。
あぁそうか…自分は今やっと勇者と認められたんだ…ならやることは一つ。
そして爆発が自分をまきこんだ。
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「…ははは…やったか」
アウス公は自分の魔法が決まったことに満足げな笑いを漏らした。
次第に煙がはれていく。
「なに…?」
そこには五体満足な勇者の姿があった。
「馬鹿な…完全に決まったはずだ!耐えられるはずがない!お前にそんな力はなかった!」
「…そう、今まではなかった。でもここからは違う。」
今までとは別人のような雰囲気を纏う勇者が、その輝く聖剣をアウス公に向ける。
「ここからが自分の…私の全力だ!」
その身体から炎が吹き荒れ、カルラの身体を覆う。
今この瞬間、本当の意味で勇者が誕生したのだった。




