閉じた国
謎の黒いドーム事件のあと、私たちは天使族たちの無事を確かめた。
みんな一様に見た目が変わってしまっていたが一応は無事だった。
しかし何があったのかと尋ねてみても、全員が自分に起きたことを受け入れることができないらしく、まともに話をできるような状況じゃなかった。
断片的にだが「化け物」だの「魔王」だのという話は聞けたので、どうやらゲームでの「堕天魔」が現れたのはほぼ間違いない…と思う。
というのもゲームではこの村は完全に滅んでしまって村人の天使族も全滅していたわけだが…この村は健在だし、村人も一応はみんな無事だ。
少しだけゲームと食い違っている。そこが気にならないわけじゃないが今はどうすることもできない
私たちはひとまず村を後にして予定どおりに公国へと向かうことにした。
「まぁしかし…やっぱりこんな世の中だと事件が多いねぇ」
私はついついため息を吐いてしまった。
なんというか…ただ歩いているだけなのにめちゃくちゃ事件に遭遇するのだ。
さっきは魔物に襲われていた家族を助けたし、その次は人さらいにあった少年少女を救出した。
さすがは勇者パーティだ
歩けばトラブルにみまわれ、そしてかっこよく人々を助け、感謝される。
うむ、実に勇者でよきよき
「いや、首を突っ込んでるのはお前さんだぞ?」
「そうだよ、さっきから先生が自らトラブルに飛んで行ってるだけだからな」
そんな馬鹿な
「いやいや、これはだね人々を救うという勇者パーティとしての運命がそうさせているのであって、ただの聖剣泥棒の私がどうこうという話じゃないわけですよ。ね?カルラ」
「いや…自分にフラれても…」
「しゃきっとしなさいな勇者様!自信もって。さっきの人たちだって感謝してたじゃん!カルラも大活躍だったし!」
ここにきてだいぶ戦えるようになった勇者カルラ
どうやらレベリングはなかなかうまく行ったようで、普通の魔物や盗賊とかの類との戦いはもう心配ないみたいだった。
「でも…だいたいは皆やレーナさんのおかげというか…」
「ですです!やっぱりお姉さまは素敵です!」
「いやいや私は関係ないって…」
だって私は物語には関わらないただの泥棒のはずなんだからね
いや確かに率先して首を突っ込んだのは私かもしれないが、それでも皆なら結局は同じことをしたはずだ。
私がいてもいなくても結果も過程も変わらない…はず
この時の私は、こういう事の積み重ねがのちのちとても大変なことになるのをまだ知らなかった。
~~~~~~~
「お父さん無事でよかったね!」
「あぁそうだな…偶然に勇者様たちが通りかかってくれて助かったよ…」
「ええそうですね。でも勇者様達ってたしか4人じゃなかったです?5人いたと思うのですが」
「あぁ、人相書きにも乗ってない人がいたな」
「うん!キレイな人だったね!」
「それにとってもお強かったですし…もしかして誰も知らない5人目がいたということでしょうか…?」
こうして謎の「5人目」の噂は少しづつだが広がりつつあった。
~~~~~~~~~
「さて、公国が目前なわけだが…どうしたもんかな」
クロガネさんがそうぼやき、私たちはう~んと唸った。
ここはすでに目的の場所、フルセル公国の国境付近なのだが…簡単に言うと入れないのだ。
凄い数の衛兵さんが守りを固めている。
そう、フルセル公国は今はいわゆる鎖国中なのだ。
本来は周りの国とも交流があった活気にあふれた国だったのだが数年ほど前から急に他の国との交流を一方的にたち、国の外に人を出さず、また外からも中に入れないようになってしまった。
公国に無理やり侵入した人は消息不明になり、また保護された公国から脱出した人の話によると、国の中には魔物があふれ国民は恐怖しながら生活しているらしいとかなんとか。
その理由は謎とされていて王国をはじめ、様々な国が交渉の場を設けようとしているが聞く耳持たず…という現状らしい。
まぁ私はもちろん理由を知っている。
簡単に言えばあの国のトップが魔王の因子にとりつかれてしまったのだ。
それでいろいろあって~という感じなのだが細かいところはあんまり覚えていない。
そんなわけで私たちは国に入れず困っているところなのだ。
一応、強行突破という手段を取れなくもないが…一般人に手を出すのは勇者的にどうだろうか?
いや私は聖剣盗んだ時にやっちゃったけど私は勇者じゃないからセーフ
あ、それでいいんじゃない?
「ねえ皆。私がさ囮になるよ」
「お姉さま?」
「私がとりあえずあの衛兵を小突いておびき出すからその間にみんなで中に入って。」
「だ、だめですよレーナさん!だ、だってすごい人数いますよ…?」
うむ、十人とか言わないだろうねあれは
「ま~ま~、大丈夫だよ。何とかなる!」
「いやしかし兵士とはいえ一般人に手を出すわけにもなぁ」
「私は勇者パーティじゃないから大丈夫!ただのよくわからない小娘が急に暴れだすだけ」
「いやそれじゃあ先生が無事にすまないだろ!?」
う~ん微妙にみんな納得してくれないなぁ…お優しいことで
ならば仕方がない。
強引にいこう
「はい!じゃあそういう事で!エアステップ!」
「え!?レーナさん!?」
私は有無を言わず皆を置いて猛ダッシュ
国境を踏み越え適当な攻撃魔法を放つ。
「なんだ貴様は!」
「とらえろ!」
数人の衛兵がこちらに向かってくるが足りない。
数人じゃだめだ。みんな来てもらう。なので向かってきた衛兵を相手に大立ち回り
これで私を排除すべき敵と認識してくれたはず。
あとは猛ダッシュであらぬ方向へ走り去る
「くっ!おい追うぞ!」
よしよし
予定通りほぼ全員がこちらを追ってきてくれた。
あとは何とか撒くだけ…なんだけど
「しつこいなぁもう!!!」
どこまで逃げてもずっと追ってくる
なんたる執念!兵士を鑑だねちくしょう!!!!
もうおそらくみんな国に入れたとは思うけれどどうしたものか…私が居なくても聖剣を回収できるならいいが、ヒントなしなのでそれは難しいだろう。
何とかして私も入国しなければ…
その時
「こっちですよ~」
突然誰かに腕を掴まれ引っ張られた。
「わぷっ」
何かとても柔らかくていい香りのするものに顔が包まれている。
「少しだけ大人しくしていてくださいね~」
ぽんぽんと背中を叩かれる
どうやら私は抱きしめられている状態らしい…ということはこの柔らかいのは…え?大きすぎない…??これマジで?
そして複数の怒鳴り声とガチャガチャとした甲冑がこすれる音と足音が真横を通り過ぎていく
やがて辺りは静かになった。
どうやらこちらに気づかず行ってくれたようだ。
「はい、もう大丈夫ですよ~」
私を抱きしめていた誰かが腕をほどいたので姿勢を正して向き直る
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ」
それは驚くほどに美人な女性だった。
大きなたれ目に輝くようなプラチナ色の長い髪、身長は高めで何よりその豊満な…あまりに豊満なお胸様に目を奪われる。
いかんいかん同性とは言え失礼だ
「くすっ…それでは行きましょうか」
そういうと女性は背を向けて歩き出した
「え、どこに…?」
「中に入りたいんでしょう?案内しますよ」
なんと!それはとてもありがたい…が
「あの…いいんですか?いろいろと…自分で言うのもなんですけど怪しい女ですよ私」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。行きましょう、ね?」
何故かその言葉に私はそれ以上の疑問を抱かなかった。
「あ、私はレーナって言います」
「レーナさん…いい名前ですね。私は…そうですね~「クロリス」とでも名乗っておきましょうか」
「名乗っておきましょうか?」
「気にしちゃだめですよ」
し~っと人差し指を唇に当てる仕草を見せたクロリスさん
やはり私はなぜかそれ以上の疑問を抱かなかった。




