それはきっと、運命の出会い
あなたは、運命というものを信じますか?
~Side:あずさ~
そう、例えば。『生まれた病院が一緒だった』とか『誕生日が一緒だった』とか。他にも『初恋だった人と職場でばったり出会った』とか『示し合わせていないのに同じ服を買って休みの日に遭遇した』とか。
人それぞれに大なり小なりあると思うけど。妙に偶然が重なったり、科学では証明できないような不思議な巡り合わせがあったり。そんな時に運命を感じる事って誰でもあると思う。
私、神代あずさはそういう運命ってものを大いに信じてる。
昔からそういうものは結構信じていたけど、特にそう感じるようになったのは好きな人が出来てから。
「せっちゃん、今日のデート楽しかったよ。ありがとう誘ってくれて」
「あたしも楽しかったよ。でも……迷惑じゃなかった?あずささん今年受験なのに……あたし、考えなしに誘っちゃってさ」
「全然!むしろ良い息抜きになったよ。また一緒に行きたいよねー。お互いもっと都合がつく日があれば良いんだけどさー」
「うん……学校違うし。あずささん受験勉強始めなきゃだし。家も遠いし。基本一緒になれるのは……電車の中か、バイトの時だけ……難しいよね」
デートを終えて、名残惜しむように帰り道を歩きながら可愛い恋人と話す私。私の恋人は一つ年下のカワイイ女の子。田中せつ子―――せっちゃん。ちょっぴりぶっきらぼうで頑固者でまっすぐで。そしてとっても素直で可愛い子だ。
……え?ああ、うん。勿論私も女の子だよ。
年齢も、学校も、住んでる場所も恋愛観も違う。接点なんて一つもなかった私たち。けれど運命が私たちを引き合わせてくれた。
去年の春、毎朝使う電車に駆け込んできたのが彼女だった。それから毎日必ず、私の乗る同じ電車に彼女は乗ってきた。1日たちとも欠かすことなく、気まぐれに乗る時間、乗る車両を変えても絶対に出会うあの子。これだけでも運命を感じていた私なんだけど、ホントに凄いのはここから。
ある日電車にスマホを置き忘れたまま学校へ行こうとした私。……そのスマホを拾って届けてくれたのが彼女だった。通学途中だって言うのに、わざわざ電車から降りて息を切らし私を追いかけてきたせっちゃん。思えばこの事がきっかけで毎日通学中にお話しするくらい仲良くなったんだった。
ある日バイトをしている店の店長さんから新人バイトの指導を頼まれた私。……その新人バイトというのが他でもない彼女だった。電車の中で会う以外でせっちゃんと一緒に過ごせたらなって思っていた矢先に、彼女がバイトの面接に来てくれてめちゃくちゃ嬉しかったのを覚えてる。
ある日私を付け狙うしつこいストーカーに夜道で襲いかかられた私。……その窮地に駆けつけて私を救ってくれたのが彼女だった。颯爽と現れて、暴漢からその身を挺して私を守ってくれたせっちゃん。凜々しい彼女の横顔は、多分私は一生忘れない。
他にも趣味がたまたま一緒だったり、約束していなかったのに休日にばったり鉢合わせしたり。いくつもの偶然を積み重ね、関わり合って。仲良くなるのはそう時間はかからない事だった。
見知った人からお友達に。お友達からかけがえのない存在に。そして―――
「ねえねえ、せっちゃん。今度お家デートしようよ。せっちゃんのお家に行きたいなぁ私」
「え……えっ!?お、お家デートって……あ、あたしの家……ですか……!?」
「確か一人暮らししてるんだよね?思い切りはしゃいでイチャイチャしても、誰にも文句言われないとか最高じゃない!」
「う、家は……その。ち、散らかってるから……ダメです…………(ボソッ)み、見せられないものが大量にあるし……」
「あらそうなの?……でも、それならそれで大丈夫!散らかってるなら私が片づけてあげる!良いでしょ?なんたって私たち恋人なんだからね!なんなら今からでも―――」
「だ、大丈夫ですから!それよりもあずささん、そろそろ帰らないと。あんまり遅くなったら明日遅刻しちゃうよ」
「ああ、それもそうね。遅刻なんてしたら……せっちゃんと一緒の電車に乗れなくなっちゃうもんね、じゃあ、仕方ない。家にお邪魔するのはまた今度ってことで。それじゃまた明日ねせっちゃん♪おやすみなさい」
「うん、おやすみあずささん」
愛しい彼女に手を振って、彼女の後ろ姿を見ながら……幸せな気持ちで告白された時のことを思い返す。
『あ、あずささん……あたし、その……あずささんの事、好き……なんです……けど……』
偶然を、運命を積み重ね。そして記念すべき私とせっちゃんが出会った記念日に。震える声で彼女がしてくれた精一杯の告白を聞いた瞬間、私はハッキリ確信した。私は……この子と結ばれる定めだったんだと。
だから私は、運命というものを信じている。
◇ ◇ ◇
~Side:せつ子~
あたし、田中せつ子は運命ってやつを信じていない。
だってそうでしょう?運命ってものがあるんなら、自分の人生は生まれた時点で決まってるなら……それじゃあどんな事をしてもどんな努力をしても意味がないって事になるじゃない。
そんなのってつまらない。人生とか未来って、自分の選択で切り開いていくものだってあたしは思ってる。
元々そういう可愛げのない考えの持ち主だったあたしだけど、そう強く思うようになったのはあの人と……あずささんと出会ってからだ。
去年の春。遅刻しそうになって駆け込んだ電車であたしはあずささんと出会った。
電車の中で優雅に本を読んでいたあずささん。汗だくになりながらなんとか間に合って隣に座った私に、優しく微笑んで……そっとタオルを取り出し『お疲れ様。間に合って良かったね。良かったらこれで汗でも拭いて』と見知らぬ私に手渡してくれた。……一目惚れだった。こんなに綺麗な人がこの世に存在するんだって……衝撃だった。あずささんと違って……その。元々あたし、そのケはあった自覚はあるけど……そういうの差し引いてもあたしは一目見て恋に落ちた。引き寄せられるような感覚に酔った。
その日から、あたしはあずささんだけを見るようになった。文字通り、あずささんだけを。
「……ただいま」
鍵を開け、誰もいない家に帰る。……一人暮らしだけど、ついつい『ただいま』と言ってしまうのは、家中の壁という壁に張り巡らせた大好きなあの人の写真があるからだろう。
「……ただいま、あずささん」
廊下を歩きながら、あたしに微笑んでくれるあの人の―――ついさっき分かれたあずささんの写真一枚一枚に挨拶を交わす。
「今日のデート。本当に、楽しかったよ。いっぱい遊んで貰えて、いっぱいお話して貰えて……幸せだった。面白い事なんて出来ないし、気の利いた事も禄に言えないあたしだけど……あずささんは、あたしのやること全部に喜んでくれたよね。あたしの言うこと全部真剣に聞いてくれたよね。嬉しかったよ。……デートの最後には……て、手を……握って貰えて……とてもどきどきしたよ。触れた先のぬくもりも、絡み合った指も、やわらかさも……まだハッキリ覚えてる。お別れ間際には……あのきらきら輝る綺麗な瞳で……あたしを見つめて貰えて……あの視線を浴びてあたし、あたま蕩けそうになったよ」
デート中に全部は言い切れなかった、伝えきれなかったあずささんへの気持ち。それを写真の向こうの彼女に一生懸命言葉にする。……そういうのはデート中にちゃんと本人に言えって?
言えるわけないでしょ。下手に本人を前に伝えようとしたら、今以上に言葉の泉が湧き上がり。早口で溢れ出る想いをぶつけてしまいかねないもの。そうなったらあずささんに重いって思われるわ。ドン引きされるわこんなの。
「……こんなキモいあたしが……あんなに素敵な人と結ばれるとか……夢みたいだ……」
大きくため息を吐き。今日盗撮したばかりの撮りたてほやほやの彼女の写真を現像しながら思う。我ながら……ホントうまくやったものだ。
……さっきの話に戻るけど。偶然とか、運命ってものをあたしは信じない。
欲しいものがあったとして、それを運命ってやつが引き寄せてくれるのをただ待っているだけじゃ……永遠に手に入らない。自分の手で掴み取らないと。『求めよさらば与えられん』ってことわざもある通り、欲しいものがあるならば掴み取るための相応の努力をしないとダメだ。
考えてもみてほしい。片や超絶美人で性格も素敵なお嬢様学校の人気者。片やブスで頑固で意地が悪くて親にも勘当された素行不良人物……釣り合わないにもほどがある、接点も何もないそんな二人が偶然により引き合わされ友情を重ね、ついには女の子同士という壁も越えて恋に落ちる―――そんなあたしに都合の良い話、あるわけないじゃない。
じゃあ都合が良いようにするにはどうするのか。接点がないのなら、作ってしまえばいい。偶然なんてない、運命なんてない。この世にあるのはそう、必然だけだから。
あずささんと出会ったその日から、あたしはすぐさま行動開始した。死に物狂いであずささんを追いかけ始めた。あずささんを手に入れる為に。
まず彼女と一緒の電車に乗れるように、毎日駅のプラットホームで待ち伏せした。あずささんは大体毎日、7時10分に着く電車の3番目の車両に乗っているけれど。それでもそれが毎回毎回同じってわけではない。予定が合って早い時間に乗ってくるかもしれないし、遅刻して遅い時間のに乗ってくるかもしれない。車両が混んでいて別の車両に乗り込んでいるかもしれない。
そういうイレギュラーがあっても対応できるように、毎日始発の電車が来る時間からプラットホームで彼女が来るのを待っていた。電車が来るたびに急いで彼女が乗っているか否かを確認し。乗っていなければ次を待つ。それを繰り返し、あずささんが乗っているのを確認したら……何食わぬ顔でその車両に乗ったのだ。
電車の中ではあずささんの隣の席に座り。スマホを弄るふりをしつつ。仲良くなるきっかけを作るために横目で一瞬たりとも目を離さず、必死にあずささんを観察した。あずささんは電車の中では大抵本を読んでいる。その本をのぞき見てジャンルをチェックしたり。あずささんの持ち物を見てどんなものが好きなのか、どういうものが好きなのか網羅した。
そうやって彼女を何気ない顔で観察し、情報収集しながらあたしは機会を静かに待っていた。……そしてその日、ついにチャンスがやって来た。しっかり者のあずささんにしては珍しく、スマホを席に置いたまま電車を降りていったのだ。
しめたと思った。あたしはスマホを他の誰かに拾われる前にさっと拾い、いかにも慌ててスマホを拾って追いかけてきた風を装いあずささんに接触した。スマホを受け取り、思った通りとても丁寧になんどもなんどもお礼を言ってくれたあずささん。
(違うんです、お礼を言われるような人間じゃないんです。善意で拾ったんじゃない。貴女とお話しするためにこういう機会を待っていただけなんです)
少しだけそんな罪悪感に苛まれながらも……ようやく生まれた彼女との接点にあたしは内心小躍りしていた。
……そうだ。お察しの通り、あたしはいわゆるストーカーってやつだ。
弁明させて貰えるなら、最初はただ……純粋に憧れのあの人とお友達になりたい。仲良くなりたい、ただそれだけだった。それなのに、一体どこからあたしは道を踏み外し始めたのだろう。仲良くなればなるほどに、自分の欲求はエスカレートしていった。
『せっちゃんと電車の中以外でも一緒にいれたら良いのにねー』
そんなあずささんの一言で、どうやったら自然と彼女と一緒に居られるかを考えた。考えて、考え抜いて。彼女の一週間の予定を探りバイト先を調べあげ、何食わぬ顔で新人バイトとして電車の中以外でもあずささんの隣に居座るようになった。
『休日もせっちゃんと遊びたいけど……家も離れてるし中々会えないよね。寂しいなぁ』
そう言われた週末。あずささんのお出かけ先に一足先に待ち伏せし。そして偶然を装ってあずささんの前に現れた。彼女がより運命というものを意識してくれるように、彼女とお揃いの服も忘れずに着ていった。
『せっちゃんが一緒なら……ストーカーなんか怖くないのに……』
彼女を付け狙うストーカー男の存在を聞いたとき、怒りよりも先にこれは利用できるぞと思ってしまった。……あたしも立派なストーカー故に、思考回路や行動パターンはよくわかる。あずささんの帰り道で、いかにも人気の少ない襲われやすそうな場所を調べ上げ張り込みし、現れたストーカーをストーキングした。
より劇的に、あずささんにあたしの存在を意識して貰えるようにチャンスを待ち。そうしてあずささんとストーカーが鉢合わせるのをじっくりと待った。……ストーカーがあずささんに手をかけようとしたところに合わせて、あたしはあずささんを助け出した。
『私とせっちゃんの出会いは、運命なのよ』
純粋無垢なあずささんはこんな最低なあたしと違って運命を信じている。あたしとの出会いを、これまで積み重ねてきたあたしとの日々を。運命だっていつも言ってるけど。……違う。こんなの運命じゃない。あたしがそうあずささんに思い込ませているだけ。
『平日でも、休日でも!家が離れているのに毎日会うなんて、これは運命よね!』
(違うんです、あたしがあずささんを追いかけてるだけなんです)
『趣味がこんなに合うなんて、これは運命よね!』
(違うんです、あずささんの趣味を徹底的に調べ上げて趣味を合わせただけなんです)
『おとぎ話の王子様みたいに助けてくれるなんて、これは運命よね!』
(違うんです、ホントはもっと早く助けに行けたんです)
『せっちゃんは知らなかっただろうけど、今日は私とせっちゃんが初めて出会った日なのよ。そんな記念日にこんな素敵な告白をしてくれるなんて、これは間違いなく運命よね!』
(違うんです、知ってました……あずささんが運命を感じてくれるように……この日を狙って告っただけなんです……)
仕組まれた運命は、運命とは呼ばない。決して。
だからきっと……このことがバレたら。あずささんが大好きな『運命』じゃない導きで結ばれたものって知られたら。……あたしはきっとあずささんに軽蔑される。嫌われて、捨てられて。もしかしたら警察に通報されちゃうかもしれない。
それでも、あたしは……
「あずささん……ああ、あずささぁん……」
今日もあたしは、あずささんの動向を探り。デート中に示し合わせたように同じ飲み物を買ってきた。そして……あずささんがトイレに行っている隙を狙って……自分のペットボトルと、彼女のペットボトルをすり替えた。
今日のデートで盗撮したあずささんの写真を見つめながら、彼女を思いつつ……あたしはまたペットボトルの飲み口にちゅ、ちゅっと口づけする。
……恋人同士になったとはいえ。まだあたしとあずささんはプラトニックな関係のままだ。……正直に言うと、早く先に進みたいんだけど。関係を進めようと躍起になって下手を打ってはこれまでの努力も水の泡だ。いきなり迫ってキスを強請り、拒まれでもしたら最悪だ。
キスするならちゃんと演出しないと。あずささんが喜んでくれるような……運命を感じるような素敵な体験を、彼女の為に考えて最高のシチュエーションを用意しないと。
それまでは、この間接キスで我慢しよう。正直不毛でサイテーな行為なんだけどね……
「……待っててね、あずささん。あたしが、きっと……今度は素敵な運命のキスを用意してあげるから……」
そんなことを思いながら、あたしはペットボトルに残っていたジュースを思い切り飲み干した。
◇ ◇ ◇
~Side:あずさ~
「んー。そろそろ、かな?」
1時間程適当に時間を潰し、頃合いを見計らっていつものように合鍵を使って私は家に入る。
入ってすぐ、圧倒されるくらい壁という壁に隙間なく張り巡らされた私の写真を眺めながら私は小さく微笑んだ。
「うんうん、我ながらよく写ってる」
大好きな人に撮って貰った写真の中の私は、すべて綺麗に写されていて、そしてすべてナイスな笑顔を振りまいていた。まあ、それも当然よね。何せ私の事を愛してくれてる愛しい人が想いを込めて撮った芸術品だもん。素敵に撮れて当たり前。愛されてるなぁ私。
「まあ、ホントはこんな写真じゃなくて……直接本人に愛情を向けていってほしいところだけど」
そこは追々ってところかしら。一生懸命な彼女に、あんまり無理させたくないもんね。
「ふふ、ただいま」
写真鑑賞もそこそこに、リビングへとやって来た私。『ただいま』と声をかけてはみたけれど。リビングでは私が帰って来たことにも全く気づかずに、愛しい人がすぅすぅ……と可愛い寝息を立てて眠っていた。
「あらあら。こんなところで寝ちゃったら、風邪を引いちゃうわよ」
飲み干したペットボトルを無造作に転がして、まるで突然眠気に襲われたように机に突っ伏して眠る可愛い人。クスクスと笑いながら、私は彼女が風邪を引かないようにベッドへ連れて行ってあげる。
「うん、よく寝てる。今日の寝顔もやっぱり可愛いね―――せっちゃん♡」
ベッドに寝かしつけ、その寝顔を堪能させて貰う。そこには1時間程前に分かれた私の運命の人……せっちゃんが眠っていた。
今日も律儀に私のペットボトルと自分のを入れ替えてくれたせっちゃん。まさかその中に、ちょっぴり眠くなっちゃう魔法がかけられていると知らずに。薬で深く、ふかーく眠っているから大丈夫。いつも通り、朝まで起きることはないだろう。つまり、一晩中寝顔を見ていられるってわけだ。
せっちゃんは私と違って運命を頑なに信じていない。運命の出会いなんて存在しないと思っている。
私たちが結ばれるきっかけになったすべては、運命なんかじゃない。全部自分が仕組んだもの。私と結ばれるために自分が自作自演で仕組んだ作られた偶然で、仕組んだ偶然は運命じゃないって思ってるみたいだけど……
「おかしな事を気にするわよね……せっちゃんは」
せっちゃんの可愛い寝顔をじっくり堪能しながら、私は思う。それを言うなら、私のアレコレだって運命じゃないって事になるじゃない。
例えばスマホを彼女の前でわざと忘れた事。せっちゃんなら絶対に拾ってくれるって確信してはいたけど……それでも絶対ってわけじゃない。彼女も気づかなかったかもしれない、気づいていても関わるのが面倒くさがって届けてくれなかったかもしれない。
けれど、彼女は私のためにわざわざ電車を降りてまで私を追いかけてスマホを届けてくれた。運命よね!
例えば通学以外でも彼女に会いたいねと伝えた事。それとなくバイトをしている事を伝えて、後輩が出来ることを楽しみにしているって事を教えたり、スケジュール表を見せてあげたりと誘導はちょっぴりしてあげたとはいえ……それでも必ず彼女が私のバイト先に来てくれるとは限らない。
けれど、彼女は私と一緒にいてくれるために。わざわざする必要もないバイトを始めて私の後輩になってくれた。運命よね!
例えばストーカー被害に遭っているという風を装い彼女に助けを求めた事。以前返り討ちにしてやったストーカーに脅迫して、よりリアルなストーカーとして振る舞って貰った。絶対に彼女を傷つけないようにとストーカーには命じておいたけど……当然そんな事を知らない彼女からしたら、相当怖かったと思う。怖じ気づいて私を見捨てる可能性だってあったはずだった。
けれど、彼女は私を守るため。自分の身を顧みず、勇敢にもストーカーに立ち向かい私を助けに来てくれた。これはもう、運命よね!
「あぁ……そういえばあのストーカーには、また今度頑張って貰わなきゃね」
最近のせっちゃんは、私とキスをするために。また色々と頭を悩ませているみたい。どんな運命的なシチュエーションなら私が一番喜んでくれるのだろうって一生懸命考えてくれている。その背中を押すためにも、あのストーカーにはしっかり働いて貰おう。
「それにしても……ああもう、なんていじらしい子なのせっちゃんは」
自分だって、今すぐにでもしたいのに。それを我慢して……こんな風に、ペットボトルを入れ替えて間接キスで済ましちゃうくらい我慢して。私のためだけに最高の運命のシチュエーションを模索している。
頑張ってるご褒美にキスしたくなっちゃう。ていうか、したい。今すぐにでもキスしてあげたい。この眠り姫を私のキスで起こしてあげたい。
でも、我慢我慢。せっかくせっちゃんが色々考えてくれているんだもの。せっちゃんから手を出してくれるのをじっくりと待とう。
「大丈夫、焦んなくても時間はたっぷりあるんだから」
何せ私たちは、運命で結ばれているんだ。結ばれる運命なんだから。
……初めて彼女と出会った時。私はせっちゃんに運命を感じた。駆け込んで、私の隣に座ってきた彼女がとても輝いて見えた。直感的に、この子だってわかってしまった。
その運命を証明してみたくて、私は彼女に色々試してみた。私の思った通り、せっちゃんは全部私が望む形で応えてくれた。これを運命と言わずして何という。
「ねえ……せっちゃん。やっぱり私たちは、運命で結ばれているのよ」
愛しいせっちゃんの髪を撫でながらクスリと笑って呟く。だから私は、運命ってものを信じてる。