side 丹羽 サキ
「はぁあーん。お金無くなっちゃったー」
「バイ菌のお金は?もう無いの?」
「そうよ?汚いお金は早く使わなくちゃいけないでしょ?サキの腕の治療費に使ったせいで無くなっちゃったのよ」
「サキのせい?」
「ううん、バイ菌のせい」
私のお兄ちゃんはすごく汚くて馬鹿なバイ菌。今まで育ててあげたのにお金を払わない恩知らずのクソ野郎だって。
「んーでもっ。捜索願出すって言ったからきっと帰ってくるわ。それで、お金もらうの」
「そうさくねがい?なぁに?」
「あーん、分からなくていいのよ。馬鹿に使う言葉だから」
「覚えたら馬鹿になっちゃう?」
「うんそうよ。かわいいサキちゃんが馬鹿になっちゃう」
「帰ってくるの?馬鹿なのに、帰ってこれるの?」
「馬鹿だから、帰ってくるのよ」
「んでもマミちゃんよ、ボコられる事分かってんのに帰ってくんのか?しかも金なんて持ってなさそうじゃね?」
「帰ってくるのよ。馬鹿だから。一円も持ってなかったら持って来させたらいいのよ。どこかに隠してるはずだから」
「そうかよ」
「殴る前にカバンこっちに寄越してよね。空っぽだろうけど携帯なんか持ってたら番号写さなきゃだし」
「ほんとえげつねぇな」
「あぁ!?なに!?」
「なんでもねえよ」
「何が何でも逃すわけにはいかないんだよ。生きてる限りあたしたちを養ってもらわなきゃ。あんな馬鹿でも生きる意味を与えてあげるのが親切ってもんよ」
ママは優しいからバイ菌を見捨てないであげるんだって。叩いても蹴っても治らない不良品なのに。
*
鍵が回る音がして、玄関を覗いたら、バイ菌が、立ってた。
「ほんとに帰ってきた。ハハッ馬鹿だっ!ママ!帰ってきたよ!」
「ほらね?帰ってくるって、言ったでしょ」
叩く人がトイレに行ってるからってママが立ち上がった。馬鹿が移るよ。あんまり近寄らないでね。
「ねえ、産んでやったお礼に有金全部よこしな?」
「…………」
ママが話しかけてあげたのに無視するからビンタされた。あれはすごく痛いの。ママを怒らせたら、ビンタされる。
「誰のおかげで生きてんだ?なぁ」
「…………」
馬鹿だから喋れないのかな。やっぱり壊れてるね。
「あ?帰ってきたのか。がははっ、すげぇ馬鹿じゃん。今日はお友達連れて来てねぇんだな。はっ別に友達でも何でもねぇか」
トイレから出てきた叩く人が急に頭をぶったから大きな音にびっくりした。
何度も何度も、叩いて、蹴って、何も言わない。
痛いって言わないの。
力一杯、大きな手で殴っても、泣かない。バイ菌は馬鹿だから、お話しできない。
はぁ……
バイ菌は壊れてるから、痛みが分からない。
はぁ……
バイ……
『お兄ちゃん、お腹すいた』
はぁ……
『これ、食べれる?』
はぁ…はぁ…
『やめとこう。お腹痛くなるかも』
おにい……ちゃん……?
はぁ……
『少ししかないけど、ここなら食べれそう』
はぁ……
『お兄ちゃんは何食べる?』
『うーん。お腹空いてないからお水飲む』
『入れてきてあげる!』
『ありがとう』
お兄ちゃん………
「はぁ……」
『うっわ何これあんたが食べたの?やっばぁ』
『違うよ!サキにくれたの!』
"サキにくれたの"
"サキに" "くれたの"
サキに…
「くれたの………?」
『は?空。あんた腐ったキャベツをサキに食べさせたの?どういうつもり?』
違うよ。ママ。
サキ、死んでないよ。
お兄ちゃんは、
「ドゴッッ…!」
サキを守……
「キャアアアアアア!!!!!!!ママ!!ママ!!!!!血!!ママぁ!!血ぃ!!やぁあ…怖い…死んじゃう…お兄ちゃんが、死んじゃう…!!!」
「は?何?今まで平気だったじゃん」
「うるせぇな」
「ほっといて。そのうち寝るから」
「や…あ…お兄ちゃんが……お兄ちゃんがぁ………」
『お兄ちゃんは何食べる?』
『うーん。お腹空いてないからお水飲む』
『入れてきてあげる!』
『ありがとう』
『お兄ちゃんは何食べる?』
『うーん。お腹空いてないからお水飲む』
『入れてきてあげる!』
『ありがとう』
"お腹空いてないから…"
"少ししかないけど、ここなら食べれそう"
ぁ…ぁ…ぁ……お兄ちゃん……ぁぁ…お兄ちゃんが……死んじゃう…
お兄ちゃん………




