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君がいたから  作者: HRK
98/152

side 鏡堂 広太




 『迎え、頼まなくていいから』


 『今更帰れないし』


 村尾と夏木が部屋で話し、斎藤カップルが風呂へ行った隙にぽそっと呟かれた言葉。

 不本意ながらここに住むと言ってくれた。


 目標クリアに心の中でガッツポーズを掲げた。


 「あっ空!行って行って行って行って」


 ほんの数分で部屋から出てきた村尾が何やら声を潜めて空を捲し立てている。

 空を部屋に押し込み、ふぅ、と息を整えた。


 「俺ってもしかして恋のキューピッドかな。優ー!鏡堂ー!勉強教えてー!」


 空夏カップルは放置で斎藤カップルと村尾と、優が集まり簡単な授業をした。

 村尾の言うS組に戻りたい発言が本気かはさておき、自分の復習も含めてしっかりと。




 「来週から中間テストが始まる。進路に関わる大事な試験だから気を抜かずに取り組むこと!後の文化祭については触れない!以上!」


 HRで散々言われてきた中間テストがもうすぐ始まる。ここで差を付けないと、村尾のS組返り咲きは厳しいだろう。


 「鏡堂〜お前職員室こーい」

 「は?なんで」

 「いーいから来い!」


 職員室に呼び出されるなんて人生初めてだ。なんかしたっけ。




 「単刀直入に聞く。お前今、誰と住んでる?」


 なるほど。これか。


 「優と空」

 

 何も隠すことはない。正直に言って黙らせよう。


 「あのな。それ犯罪だ」

 「本人の許可は得てる」

 「未成年者は本人ではなく保護者の許可がいるんだ。分かるだろ?」

 「優は家族全員了承済みだ」

 「藤ノ木はいい。問題は丹羽だ。捜索願を出すと言ってきている」

 「はぁ?」


 なーにを今更心配ズラしてんだよ。ふざけんなよタコ。


 「F組の担任からやんわりと話は聞いた。家庭の事情をどうにかしてやりたいと思うのは悪くない。でもな、大人の承諾なしで実行してはいけない」

 「大人がどうにかしねぇからやってんだろ馬鹿か」

 「口の聞き方を改めなさい」

 「今まで教師が見て見ぬ振りを貫いた結果だろ?今だって、なんも知らねーくせに家に帰そうとしてやがる。空がどんな思いで生きてきたか」

 「鏡堂」

 「カンニングの件だってそうだ。お前ら大人は空の話なんか聞かねーだろ」

 「鏡堂!」

 「やっと一緒に住むって言ってもらえたんだから部外者が口突っ込んでくんじゃねぇよ!!」

 

 俺の大声は職員室中に響き渡り、注目の的だ。周りは空ばかりを問題児と言うが俺もやるときはやる。教師に反抗的だと噂されても構わない。問題児でも生意気でもなんでも好きに言いやがれ。


 「鏡堂、落ち着け。俺は別に家に帰せとは言ってない。事が大きくなる前に対処しなさいという話だ」

 「…………」

 「丹羽の無事を伝えて捜索願を取り下げてもらって、委任状を頼んで住所変更をすれば丸く収まる」

 「丸く収められると思ってんのがクソだな」

 

 そんな簡単な話じゃないっつってんだろ。どつくぞ。


 「お前が友達思いなのはいいことだが担任にクソはないだろ」

 「クソにクソって言って何が悪い。埋めるぞ」

 「こら。とにかく、警察沙汰になる前に対処しなさい。丹羽を助けたいなら早いうちに言うことを聞くんだ」

 「テメェらみたいな偽善者に何言われても響かねえよ」

 「偽善者ってなぁ」

 「少なくともお前が偽善者じゃなかったらカンニングの件だって丸く収められたんじゃねえのかよ。散々苦しめたくせに親の顔色ばっか窺って馬鹿かよ。あんな親と会話するとかありえねぇから」


 

 警察沙汰にしてみろ。社会から抹殺してやる。…親の力で。


 

 「捜索願出すとか馬鹿じゃね」

 「支配したいのかもね」

 「それが馬鹿だって言ってんの」

 

 職員室を飛び出し、自習する優に愚痴る。つーか、この話まさか空にしてないよな?


 急いで廊下に飛び出しF組へ走る。俺に回ってきたってことは空にも…。


 ダッシュで階段を駆け下りると、教室の前で担任と話す空の姿があった。クッソまじでふざけんな。


 「こらこら廊下は走らない」

 「空、何聞いた!?」

 「捜索願」


 あーーーっくそ!まじでクソ。


 「帰るとか言わないよな!?」

 「一回は帰らないとお前訴えられるし」

 「はぁああああ…」

 

 最悪だ。一度でも帰ってみろ。脅せば戻ると味を占めるぞ。前回、どんだけの怪我を負わされたと思ってんだよ。死ぬぞ馬鹿。


 「帰ってどうなる!?こっちに都合よく動いてくれるわけねーじゃん。今度こそお前っ」

 

 その先を言おうとして、やめた。

 俺の大声で野次馬がとんでもないことになっていたから。


 「鏡堂、何をそんなに焦ってるんだ?夏休みはもう終わったんだぞ。いい加減…」

 「夏休みなんかどうでもいいんだよ!軽くでも事情分かってんならこっちに協力しろよ!!」

 「お前な?少し考えてみろよ。男子高校生が家に帰ってぶたれて命落とすのか?それも弱々しい生徒じゃなくて、丹羽だ。たかが親子喧嘩で大袈裟なんだよ。俺にだって気持ちは分かる。ここまで育てた我が子が学年最下位の落ちこぼれとして問題視されて、勉強もせず友達の家に入り浸ってるんじゃ殴りたくもなるよ。親の心子知らずって知ってるか?あ?」

 

 親子喧嘩?大袈裟?

 まじで、アホなのか?こいつ。


 「教師だからって何言っても許されると思うなよ」


 学年最下位でも、勉強せずに入り浸っている訳でもない。


 「…当たり前に与えられるはずの人権を確保して何が悪い!!全部我慢させて人生諦めさせるのが教師の仕事なのかよ!!!テメェみたいな腐った大人が空を追い込んでんだよ!お前が代わりに死ねよクソがっ!!」

 「もういい。黙って」

 「悔しくないのかよ!?こんなん言われて」

 「別に」

 

 優の言葉が脳裏を掠める。

 空には怒るなって。感情を乗せなくても伝わるって。


 「俺は悔しいよ。空はなんにも悪くないのに。なんでいつも空が責められんだよ。おかしいだろ」

 「まぁ、そういう星の下に生まれたってことで」

 

 チャイムが鳴り、教室へ戻らなければならないけれど。誰もここから動こうとはしなかった。

 物凄い人数の前で空の事情を怒鳴ってしまった。もう、後には引けないし、引くべきではない。


 「頼むから帰らないで。本当にお願いだから」


 できるだけ感情を抑えて。切実に頼み込む。


 「って言われてもね」

 「こっちから通報してあいつら豚箱にぶち込もう」

 「前回の怪我治ったし。親子喧嘩って言われたらそうなるでしょ」

 「治ったって言っても骨がくっついたってだけで完治じゃねぇよ」

 「どっちでもいいよ」


 諦めるな。我慢するな。押し殺すな。


 「俺が殺すかあっちが殺すか。なるようになるよ」


 だめだだめだだめだ。感情を殺さないと。空に響かない。


 「はぁっ」


 どうしていつもいつも。最悪のタイミングで仕掛けてくるんだよ。


 『空と鏡堂が?嘘、なんで?』

 『分かんない。でもこれちょっとやばくない?』

 

 野次馬の外から聞こえる夏木と飯田の声にむしゃくしゃする。

 夏木にだけは知られたくないよな。そしたら、もうなんも言えねえ。


 「空…」

 「いい。痛いほど伝わってくるから喋らないで」


 「今日中に、家に帰って反省の色を見せることだ。お前の学力に問題はあれど、反抗期は誰でもある。ったく、どうやったらこんなのが入学できるんだよ。コネかぁ!?あぁ!?テメェら何見てんだ、さっさと戻れ!!」


 イライラする。ムカつく。腹が立つ。むしゃくしゃする。


 いちいち嫌味垂れて優位に立っているつもりか。この場で一番すごいのは何を言われても言い返さなかった空だ。教師の皮を被って生徒に暴言を吐く奴はクソでしかない。

 俺なんか怒鳴りまくって、大人数に囲まれた。空の知られたくないことまで知らせてしまった。

 こんなんだから………。



 「空、ごめ…」

 「ありがと。俺の代わりに怒ってくれて」

 「へ……」

 「明日戻らなかったら迎えにきて」



 全く頼られなかったあの頃とは違う。空は確かに、心を開いてくれつつあった。



 「あ…鏡堂……空、大丈夫かな…」


 夏木に一言も伝えずに教室へ戻ってしまった空に代わって、俺が伝える。

 ただでさえ自分の親友のことで悩んでいるだろうに。

 ぎこちなく笑顔を作ろうとしたが、諦めたらしい。


 「空、大丈夫かなあ…」


 前回の大怪我を知っているからこそ、声が震えている。俺が必死な理由も、あの斎藤が積極的に協力して家に帰そうとしなかった理由も、あらかた分かっているのだろう。

 あいつは優しいから、殴られてもやり返さないと知っているから。


 「アカリちゃん…」


 ボロボロと声をあげて泣き出した夏木を飯田が一生懸命慰めようとしている。

 俺は正直、なんで声をかけたらいいのか分からなかった。



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