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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり




 『アカリ、無理してるんじゃない?』


 広い湯船の中、空に包まれても安心しきれなかった心を読まれてしまったみたい。

 空の声を背中に感じて、忘れようと押し込んでいた記憶がどんどん溢れてくる。

 

 だって、まだ昨日の出来事だ。



 "あたしね、あんたのこと嫌いなの!!触れられたくないの!…一人で立てるから。どいてくれる?"


 "ねぇ…。あたしのこと馬鹿にしてんの?"


 "…何とか言いなさいよ!!"



 無理にでも笑っていないとおかしくなりそうだった。


 『目も合わせてくれなかった…』


 私が追いかけなかったのが間違いだった。私には空や村尾がいて、いつでも励ましてもらえるけど…、恭子には多分、私しかいない。

 憂鬱な気分で登校して、謝ろうとしたけど避けられて、声をかける隙もなかった。

 あんなに取り乱した恭子を見るのは初めてで、少しだけ怖くもあった。


 『ん、』


 『嫌われちゃったかな…』


 我慢していた涙がお湯に溶けていく。


 『こっち向いて』


 泣いている顔を見られたくなくて首を振ったけれど、優しく肩を掴んでそっと抱きしめてくれる。


 『嫌われてないよ。大丈夫。あの子はアカリが大好きなんだよ』

 

 空の声が反響する浴室内、温まった体同士が密着して、徐々に落ち着いていく。

 大好きな人といると眠たくなるのは本当らしい。このまま空の胸に体を預けて眠りたい。


 『アカリ?のぼせた?』

 『もう少し…このままがいい』

 『わかった』


 目を閉じて、流れるだけの涙を流して、今は何も考えたくない。



 

 『ありがとう。元気出た』

 

 私の言葉を信じていないような表情だったけれど、嘘ではないことを空も分かってくれたみたい。髪を撫で、抱きしめてくれる。

 この人と付き合うことができて、本当に良かったと心から思う。


 その後は洗いっこして、楽しく過ごさせてくれたんだ。

 本当にありがとう。




 *



 『夏木ちゃん、空がいない間にほんの少しでいいから夏の夜風に当たらない?ほんの少し!』


 他のみんなには悟られないようにとスキップしていたのだけど…。村尾には効かなかったみたい。


 「夏木ちゃんと密会してるのがバレたら空に怒られちゃうなー」


 昨日、恭子を追いかけてくれた村尾のことだ。何か言われたのかもしれない。

 普段通り振る舞おうとしてくれているのが、今はチクチクする…。


 「…当事者同士じゃないから、みんなの気持ちを全部分かっているかと言われたらそうじゃないし、余計なこと言っちゃいけないのは分かってるんだけどさ」


 何か大切なことを、一生懸命考えて、伝えてくれようとしている。


 「少なくとも、夏木ちゃんの気持ちは分かっていたい。贔屓するわけじゃなくて、やっぱりみんなでワイワイしてた方が楽しいからさ」


 ゆっくりと、一語一語丁寧に考えてくれているのが伝わる。


 「悲観しないで待っててあげてほしいな。武藤さんは夏木ちゃんのことがすごくすごく大好きなんだよね。それなのに、夏木ちゃんの大切な人を受け入れてあげられないのは、武藤さんにとっても苦しいことで…。もちろん誰も悪くないし夏木ちゃんや空もすごく辛くて悲しいよね。でも忘れないでほしい。武藤さんも、すごく苦しくて、後悔してる」


 

 「空はどうか分からないけど…せめて夏木ちゃんだけは武藤さんの味方でいてあげてほしいんだ。なんか、偉そうにしてごめんね。二人は親友同士だから大丈夫だと思うけど…一応。これが俺の気持ち。そろそろ出ないと空が殴り込んできそうだな。こわいこわい」

 


 言いたいことだけ伝えて部屋を出ようとする村尾に『ありがとう』と呟き、一人部屋に残った。



 

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