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君がいたから  作者: HRK
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side 飯田 憧子




 「アカリちゃんはいつから付き合ってるの?」

 「んっとね、六月くらい!」


 空くんのバイトが終わってみんなで鏡堂さん宅に向かっている時、男子二人の後を追いながらアカリちゃんとヒソヒソ恋バナを楽しむ。

 まじでまっじでめちゃくちゃ可愛い何この子。人間?お肌が綺麗で髪の毛サラツヤ。ニコニコ笑顔で話してくれるのすごく可愛い。


 「もう三ヶ月くらい経つんだ!?」

 「そうなの〜ふふ」


 か

 わ

 い

 い


 「あのね、急にこんなこと聞くのは失礼だって分かってるんだけど…」

 「うん?どうしたの?」


 お目目クリクリまつげ鬼長唇ぷるぷる〜〜!!!!!


 「もう、シた………?」


 ただでさえコソコソと話しているのに、より一層注意深く声を潜めて聞いた。

今日の朝からこんなことばかり考えて、ふしだら極まりないのも承知なんだけど…!


 「……へっ!!」


 数秒思考停止した後、アカリちゃんの顔は沸騰したように顔が赤くなった。

 痛かったか、とかまぁ…率直に、どうだったのか…気になって気になって。

 アカリちゃんだから気になるわけじゃなくて…翔也が…性欲の塊だから…。襲われて痛かったらどうしようって、心の準備…?


 「ごめんね!答えたくなかったら全然いいの…。まだ経験がなくて少し怖くって」

 

 ドン引きされちゃったかな…。仲良くなる作戦、失敗したかも。


 「あの、えっと、えっとね、ふふふ、んーっと」

 「…ズバリ、痛くなかった?」


 答えなくてもいいと言いながら、知りたい欲が前面に出てしまう。だって、翔也にこんなこと聞けないし。痛くしないでって言って変わるのかも分からないし。第一、そんなことばかり考えてるって思われるのも癪だし。


 「うん!痛くなかった!そっか、斎藤だもんね。ちょっと怖くなるの分かるかも。痛かったらちょん切っちゃえばいいよ!」

 「えっ!?アカリちゃん、スパルタ…!」

 

 天使の微笑みで言うセリフとはかけ離れていて驚いた。アイドルみたいなアカリちゃんでもこういう話、嫌じゃないんだ。


 「痛かったらちゃんと言うんだよー?」

 「分かった!ちょん切る!」


 話が噛み合っていなくてもキャッキャと笑ってくれる可愛い子。男子が騒ぐのも無理はないな。



 「え"っ、何これ?すご…」


 学校から数十分歩いた先に聳え立つ立派な一軒家が鏡堂さんのお家だそう。ドッキリを仕掛けられているのかと思うほどの規模に腰が抜けそうだった。


 「すごく大きいよね。初めて来た時びっくりして腰抜けちゃったの」

 

 アカリちゃんすら腰が抜けると言うのだから私の感覚は間違っていないようだ。

 とんでもなく広い玄関を抜けたら次は広すぎてどこからどこまでがリビングか分からない広間に繋がっていた。


 「あざすー。送迎助かるわ」

 「空、一人だと迷子になっちゃうもんな?」

 「ならねーよ」


 この人が、鏡堂。

 丸坊主のパッとしない人。特徴がないというか。どこにでもいそうな感じ。


 「あれ?今日は藤ノ木いないの?」

 「いや、風呂」

 

 藤ノ木…?ってあの?


 「ねね、今日もお泊まりしていい?勉強教えてほしいな」

 「いいけど」

 「やったー!」


 アカリちゃんがぴょんぴょん跳ねている…可愛い…。


 「勉強会っつったら村尾もほしいよな。留年危機ってイジるの楽しいし」


 また知らない人の名前…。やっぱりクラスが違うと交友関係ガラリと変わっちゃうな。


 「村尾ももうすぐ来る。みんな来るっつったらはしゃいでたからな」

 

 鏡堂ってすごく落ち着いて話す人だ。去年からS組って言っていたからものすごく賢い人なのかも。


 「斎藤も泊まってく?必要なら布団敷くけど」


 鏡堂は私を一瞥して翔也に問いかける。


 「アコちどうしたい?」


 付き合ったその日にお泊まりって過激じゃない?どうする?どうしたらいい?


 「ど、どっちでも…」

 「じゃあ泊まりで」


 おわた…。なんで私ったらいつもいつも…。

 今朝、廊下でイチャイチャして襲う宣言されていたのに…いやいや、人のお家だからさすがにないか。うん、そうじゃん。自分家じゃないんだから。

 そうと気付いたら一気に気持ちが落ち着いた。


 「アコちー、優が風呂上がったら一緒に入ろ」

 「え!?ダメ!」


 みんなの前で堂々とセクハラ発言!信じられない。


 ていうか、今、優って言った?優ってやっぱり藤ノ木優だよね?学年首席だよね?嘘でしょ、首席さんもいらっしゃるの?どんな友好関係!?


 「なんでー?好き同士だよ?恋人同士だよ?結婚するしいいじゃん」

 「ケッコン!?」


 揶揄って私やアカリちゃんの反応を楽しんでいるみたい。アカリちゃんは結婚というワードに固まってしまったけれど、私は赤面。人の家で人前でそんなこと言わないでほしいわ!


 「どーせあいつらもここで卒業したんだろーしいいだろ」

 「ひゃっ!!」


 石化したアカリちゃんの顔がボッと赤くなっている。本当にここでシちゃったの???

 家主の鏡堂が微妙な顔で空くんを見る。


 「ごめん、卒業した」

 「そうか。なぁ斎藤」


 謝ってはいるけどそれ許されないよね?何このカオスな環境。それに自分の床事情を友達に知られるってすごく嫌じゃない??????


 「あん?」

 「セフレの作り方教えろ」


 鏡堂の視線は至って真剣だった。気にならないの?自分のお家で…カップルが……。


 「紹介しようか?」

 「もとむ

 

 「なんで言うの!?言わないって言ったじゃん!空のバカ!おたんこなす!穴があったら入りたい…」

 「ごめん、バレてたからいいかと思って」

 「いいわけないでしょ…」


 やっぱこの人たち大問題児かも。





 「ねぇええええ!カップルが増えてる!!なんで!?俺の夏木ちゃんは!?」


 カオスな団欒に更に変な人が追加されたのは22時を回った頃だった。

 空くんに連れられ、アカリちゃんは半ば強引に混浴中。本当にカップル同士でお風呂入るの!?嘘でしょ!?


 「空がいなくてよかったな。目で殺されるぞ」

 「ハッ!うっかり俺の夏木ちゃんと言ってしまった…。将来的に俺の夏木ちゃんになるということで、現在のことではないのだよ斎藤くん。安心したまえーはっはっは。ところでお前!!非リア同盟はどうした!付き合うなんて!聞いてないぞ!」


 アカリちゃんのファンクラブか何か?すごく騒がしい。


 「非リア同盟、いるじゃんそこに」

 「あんの二人は頭が!レベチで!生きてる次元が違うの!!分かる!?比べる対象にもならないの!」

 「はぁ?俺もS組なんですけど?どっかの留年組とは違って上位クラスなんですけど?」

 「留年組ってなんだよ!まだ留年してねぇし!S組に戻るために勉強教わりに来てんだろうがぁ!!!」


 S組に戻る…?うっそ、すごく頭悪そうな人だと思ってた。ごめんなさい。


 「無理無理。生まれつき備わってる脳みそが違うんでね」

 「アアアア!ムカつく!羨ましいなぁ!俺も…夏木ちゃんとイチャイチャしたい…」

 「セフレ紹介してもらえば?」

 「鏡堂…。俺はそんな淫らな関係じゃなくて純愛がいい…。夏木ちゃんみたいな…清楚で、なんの汚れも知らない天使ちゃんと…灼熱の太陽の下を歩いていたいんだよ…」

 「あいつもう清楚じゃねえから」

 「ぎゃあああああああ!!!それ以上は言わないでお願いしますなんでもしますから夏木ちゃんのイメージを壊さないでくださいお願いします」


 高校生男子が複数人集まるとこんな会話になるのね。ダレカタスケテ。


 「広太、氷水」

 「風邪ひくぞ」

 

 存在感のない藤ノ木優が消え入るような声で注文した。

 彼は学年首席で何度か全校集会の時に答辞やスピーチを発表していたから顔と名前は知っていた。当時から大人しそうだとは思っていたけれど、おとなしいというレベルを超えて今にも消えてしまいそうで心配になる。


 「ウルルル。俺の純潔の夏木ちゃん…ウルルル。空ユルサナイ。俺の夏木ちゃん、ユルサナイ。ウルルル」

 「こんなん言われたら俺だったら普通にぶっ飛ばすけどな」

 「ねえええチクらないで?お願いだから空には内緒ね?ね?ね?」


 C組にはふざけて冗談を言い合うようなタイプは少なくて、新鮮だった。どちらかというと成績争いでギスギスしているから、上のクラスはもっと顕著なのかと思ってた。



 「んーっ本当にいい匂い。鏡堂のお家のシャンプー、大好き」


 先に戻ってきたアカリちゃんは肩にかけたタオルで髪の毛を拭きながらスキップしている。


 「ああああ…天使…夏木ちゃん…かわいい…」

 「わっ、来てたの?もう来ないのかと思ってた」

 「寂しかった?ごめんね、来るの遅くなっちゃって…」

 「全然」


 「ねぇねぇアコちゃん、これすっごくいい香りじゃない?んふふ!しあわせ〜」

 

 天使が踊りながら近付いてきて、ふわっと香るお風呂上がりのいい匂い。めちゃくちゃ女の子の匂いした…!


 「わぁ、本当だ。すごくいい匂いだね!気になる!」

 「俺が洗ったげるー」

 「本当に嫌………」


 テンションのアップダウンが激しい自覚はあるが、混浴だけは本当の本当に嫌。


 「お願いだから先に入って」

 「い・や」


 

 「夏木ちゃん、空がいない間にほんの少しでいいから夏の夜風に当たらない?ほんの少し!」


 さっきまでのハイテンションが嘘のように、すっかりまともな人になった村尾くんがアカリちゃんを連れて一室に入ってしまった。

 …大丈夫かな?



 「おー空出たかー。夏木なら村尾と面談中」

 「そう。変なこと言ってなかった?」

 「絶好調だったよ」

 「…しばく」


 「さっ、アコち風呂いこーぜー」

 「えっ、本当に一緒に入るの?嫌だよ?一人で入って?私やっぱり帰るー!」

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