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君がいたから  作者: HRK
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side 飯田 憧子




 「ねえ?」

 「名前で呼んで」

 「呼ばなくても分かるでしょ〜」

 「んーん、分かんない」

 

 正式に付き合った日の放課後、誰もいない教室で憧れのイチャイチャタイム。

 私がずっとフルネームで呼んでいたことを根に持ってやたらと名前を言わせようとする。


 「休みの日、何してる?」

 「バイトか、友達の家にいるかな」

 「友達?女?」


 ついつい食い気味に反応してしまい、ハッとした。あんまり束縛しちゃだめよね…。うっかり、癖で。


 「んーん、男。俺のクラスの鏡堂分かる?」

 

 なんだ。男の子か。よかった。


 「なんとなく聞いたことある。仲良いんだ?」

 「鏡堂とはそこまで仲良くないけど、F組の空ってやつと一緒に行くんだよね」


 友達の付き添いで親しくない人のお家へ行けるのって男子特有な気がする。

 それにしても空って…。


 「夏木の彼氏」

 「あぁ、やっぱり!なんかそんなような名前だったなーって考えてたの」


 超ヤンキーな大問題児だと聞く丹羽大空くんだ。そうだそうだ、仲良いんだった。


 「その、空って人、大丈夫なの?あ、いや変な意味ではなくてね」

 「あー、いいヤツだよ。噂じゃとんでもない問題児みたいになってるけど。バイト紹介して同じとこで働いてるし、夏休みはほぼずっと一緒にいた」


 へぇ〜〜〜。めっちゃくちゃ仲良しじゃん。てことは…。


 「アカリちゃん元気?楽しそう?」

 「うん。いつも目がハート」

 「そうなんだ…!超ヤンキーって聞いてたからちょっと心配してたんだ…。よかったよかった」

 「目つき悪いけど中身いいヤツだよ。今から鏡堂ん家行かね?」


 ニカッと美しいスマイルでスマホの画面を見せてきた翔也。画面を覗き込んでみると鏡堂とのLINEのやりとりが表示されていた。


 "空のバイト終わったら連れて帰ってきて"

 "アコ連れてっていい?"

 "空を忘れなければいい"

 "り"


 いつの間にやりとりしていたのか、勝手に話が進んでいた。

 

 「空を連れてかないといけないからバ先寄ってから行くけど時間平気?」

 「連絡さえすれば何時でも大丈夫だよ」

 

 鏡堂って人も空って人も初対面で緊張…。待って。もしかして女子、私一人なんじゃ…?

 大丈夫って言っちゃったし…仕方ないか。


 

 「翔也のバイト先って居酒屋だっけ?どこにあるの?」


 最終下校スレスレの時間に学校を後にし、もう少しで暗くなりそうな空を見上げながら質問した。


 「手」

 「ん?」


 質問の答えとは思えず前を向くと翔也が手を差し出してくれていた。いつもストレートに好意を伝えてくれていたけれど、こうも自然に手を伸ばされると改めてドキドキしてしまう。


 「駅の近くにあるから多分見たことあるよ」

 「大きな魚の模型がくっついてるとこ?」

 「そうそう」

 「んー?もしかして前に聞いたことあった?同じ会話をした気がする」

 「うん、言った」

 「あはは!ごめん、忘れてた!」


 憧れの恋人繋ぎ。手を繋いで隣りを歩ける幸せ。これ以上の幸せを私は知らない。なんて、大袈裟かな。





 「おつかれーす」

 

 "彼氏"のバイト先にお邪魔するキラキラドキドキイベント…!


 「お?翔也!なんだ?働きに来たのか?」

 「空を迎えに。店暇?」

 「見ての通りガラガラだよ。やることやり尽くしちまって。そういや、表に空の彼女ちゃんいるから、終わるまで駄弁ってろよ。サービスするぞ」


 翔也は裏口から顔を出して挨拶した。店長さんだろうか?姿は見えないけれど貫禄のあるいい声をしてらっしゃる。


 「まじ?夏木いるって」

 「あ、うん、聞こえた」

 「行こーぜ」


 振り返ってくれると思わなくて微妙な反応をしてしまった。アカリちゃんかぁ。去年は何回かしか話したことなかったけど…仲良くなるチャンスかな…!


 初めて入る居酒屋にソワソワしながらアカリちゃんを探してみるが見当たらない。


 「いらっしゃいませぇ!」


 厨房の方から聞こえた声は裏口で話した人とは別人らしい。


 「高橋コウジいんじゃん」

 「あ?高校生には飲まさねぇぞ。帰れ帰れ」

 「空ー!」


 高橋さんと呼ばれた歳上の方のヤジをスルーして翔也は厨房めがけて大きな声を出した。


 「げっ。斎藤じゃん…」


 空という人より先にひょっこり顔を出したのはキラキラアイドルのアカリちゃんだ。苦虫を噛んだような表情でガッカリしている様子。


 「翔也?」

 「おーいたいた。バ先でイチャつくなよ。せめて鏡堂ん家でやれ」

 「イチャついてないだろ。お酒の種類が知りたいって言うから見せてただけ」


 想像していた超ヤンキーの大問題児の姿はどこにもなく、そこにはただただ透明感がすごいイケメンさんがいるだけだった。


 「えっ!アコちゃん!?えねぇ、アコちゃんだよね!?」

 「そー。俺の彼女〜」

 「彼女?」

 「嘘…」


 アカリちゃんが私に気付いて声を上げてくれたけれど、二人の反応がすごく微妙。


 「今日付き合った」

 「えぇぇ…」

 「騙されてる。可哀想に」


 胸を張って紹介してくれたけれど、アカリちゃんと空って人は気の毒そうに私を見ている。


 「おいおめぇら、喧嘩するか?ん?」

 「翔也のイメージがよろしくないことは重々承知の上で付き合ってるから、二人の反応は間違ってないよ!でも大丈夫!浮気したらちょん切るって約束したから!」

 

 喧嘩になるかと思い慌てて止めに入ったが、どうやら庇う方を間違えたらしい。


 「ねぇ、それはなくない?ベッドフレンド切ったじゃん?アコちまでそんなこと言うの?ひどくない?泣いてもいい?いい?泣くよ?」

 「ごめんね、間違えちゃった」


 私の失敗のせいで今度は、翔也が気の毒な人認定されてしまったのであった。

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