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君がいたから  作者: HRK
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side 飯田 憧子




 斎藤翔也のことが頭から離れなくて夜中に目が覚めてしまった。夢にまで登場して私を好きだと言うの。

 目をこすりながら徐にテレビを付けると恋愛ドラマが流れる。

 男女が手を繋ぎキスをする。恋愛ドラマの醍醐味とも言えるシーンだ。


 あおちゃんとあの人がキスしている現場を見てしまった日のことを思い出す。

 廊下の隅で恋人繋ぎをして濃厚なキスを楽しむ二人が、まるで画面の向こう側にいるドラマの登場人物のように感じられた。

 幸せそうな二人の横顔。あおちゃんがいる場所は私だったかもしれない。

 私も、あんな幸せな気持ちを味わえるのかなって想像した。


 深夜の放送枠は子どもに容赦なくディープな内容を見せる。男の人を斎藤翔也に、女の人をあおちゃんに当てはめてしまう。二人はいつもこうして愛を確かめているのかな。


 


 *



「アコち、目腫れてない?泣いたの?」


 朝のHR前。斎藤翔也に呼ばれて廊下に出ると、私にだけ聞こえるように声をひそめて心配してくれているみたい。

 瞼にそっと冷たい指先が触れられた。


 「ちょっと、寝不足で」


 高身長の斎藤翔也が屈んで私の顔を覗いている。


 「嘘。なんで泣いたの」

 「別に…」

 

 いつもヘラヘラしているくせに。落ち着いたトーンで言われると虚しくなる。


 「ぎゅってしていい?」

 「ダメ」

 「じゃあちゅーは?」

 「ダメ!」

 

 低い声で囁かれて、もうダメかもって。


 「なんで泣きそうなの?俺のこと嫌い?」


 嫌いじゃない。他の子にも同じようにしてるのかなって考えて辛い。私だけにして。私を好きだと言ってくれるなら、私だけに優しくしてよ。

 本当は誰よりもぎゅってしてほしいしキスしてほしい。

 どうしてこんな人を好きになってしまったんだろうって考えるのが辛いよ。


 「アコちー。泣くなよ」

 「ダメって言ったのに」


 みんなに顔が見えないようにすっぽり抱きしめられて、頭をポンポンってしてくれて。


 「アコ、好きだよ。付き合って」

 「…………」


 斎藤翔也の胸の中で首を振るので精一杯だった。声にしてしまったら、頷いてしまいそうで。


 「ね、聞いて」

 「…………」


 背中に回された左手と後頭部に添えられた右手が温かい。翔也の柔軟剤のいい匂いいっぱい。


 「ベッドフレンド0にしてきた」

 「え……」

 「俺、本気でアコのこと好きだよ」


 思いもよらない言葉に思わず顔を上げた。


 「ね、結婚してくれる?」

 「け、結婚?」

 「そ。結婚」

 「えっ。結婚?まず付き合うんじゃないの?」

 「アコち、付き合うの嫌って言うから結婚したいのかと思って」


 真上で笑顔を咲かせる翔也がかっこかわいい。私、今最高にキュンキュンしてる。


 「結婚って、もう…そんな話、今しないでよ」

 「ね、デートしよ」

 「……ん」

 「キスしたい。あわよくば今すぐ襲いたい」

 「それはダメ」

 「なんで?結婚するって約束したよね?」


 今の会話のいつどこで約束したというのだろう。頭を撫でながらいたずらっ子のように笑うなんて、反則じゃない?


 「浮気したらギロチンだからね?」

 「こっわ。その代わり逃げんなよ?毎日襲うからな」

 「体目的!?」

 「なわけ。まじで好き。超好き。可愛い。大好き。これロック画面にしていい?」


 見る人が見たらキャラクター崩壊を引き起こしそうな翔也の姿に照れながらも喜びを噛み締める。

 

 「なにこれ!?いつ撮ったの?」


 翔也のスマホ画面には机に突っ伏して寝ているブサイクな私の寝顔が映っていた。


 「去年隠し撮りした。可愛すぎてつい」

 「今すぐ消して!?こんなブッサイクな顔、信じらんない!なんで隠し撮りするの!?貸して!消さなきゃ付き合わない!」

 「えー?クソ可愛いんだけど。うぇーい届かないだろ。消してやんねー」

 「あっ!翔也!待ちなさい!消して!今すぐ消してええええ」


 スマホを高く掲げて逃げる翔也を追う。あんな写真が世に出回ったら…お嫁に行けない。

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