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君がいたから  作者: HRK
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side 飯田 憧子

side 飯田いいだ 憧子あこ



 「アコちさぁ」

 「うんー?てか、できる事ならその名前で呼ばないでほしいんだけど…」

 

 二年C組、出席番号三番。飯田憧子。生徒会書記。性格は真面目。一年生の頃はA組。授業に追いつけなくなり中間クラスへ降級。人生史上、数える程しかない失敗のうちの一つだ。


 「いい加減、翔也くんと付き合ってあげなよ」

 「いーやっ。女遊び激しい人とは付き合わないっ」


 人生史上、二つ目の失敗は去年、同じクラスだった学年一のチャラ男こと斎藤翔也に気に入られてしまったこと。


 「えー?結構優しそうだけどねー」

 「優しく、他の女を口説いてんでしょ?」


 食事やショッピングなら、友達として行ける。それ以上はナシだ。花火大会や海、遊園地などのデートっぽいものは全て断ってきた。


 「アコちと付き合ったら辞めるんじゃない?」

 「根拠がないじゃない!」


 女遊びが全く無かったら、申し分ないスペックなのに全て台無し。

 高身長、爽やか顔、女の子の扱いを分かってる、笑顔が可愛い、優しい、力持ち。

 …嫌いじゃないんだけどな。


 「アコちのことを大事にしてるからまだ、手出して来ないんでしょ?」

 「そんなことはないでしょう。誰でもいいのよ」


 去年のクラスメイト、アカリちゃんにも同等の扱いをしているから私だけが特別なのではない。

 

 「それに、アコちが言ったんでしょ?」

 「何を?」

 「S組行けたら考えてあげるって」

 「あー…言ったかも…」


 何度も断っているのに諦めないから、クリアできなさそうな条件を出していた時期もあった。


 「流石に可哀想。S組ってそう簡単に行けるもんじゃないし。アコちのために頑張ったんじゃない?」

 「んー…あの人、元々頭はいいし…」


 他の女の子と遊ばないでほしいと伝えてもそれはやめてくれない。私にとっての条件はそれが本命だから。


 「アコちいじっぱり〜」

 「だってぇ…」


 仮に付き合ったとして…。飽きたからって別の誰かと一緒にいたらと考えたら、辛くなるでしょ。


 「後悔すると思うけどなー」

 「後悔?」

 「それこそ、A組のアカリちゃんと付き合っちゃったらごめんけど、勝ち目ないよ」

 

 ……分かっているつもり。いつまでも私を好きでいてくれる訳ないんだから、ハッキリさせないといけないってことくらい。


 「アカリちゃんは彼氏がいるから今は狙われないと思う…」

 「へっ?彼氏いたっけ?」


 アカリちゃんはまじでまっじでめちゃくちゃすごく可愛くてまるでアイドルのような、キラキラした子で、性格も良くて素晴らしい子だから、そんな子と比べられたら…私で妥協してるのかなって思っちゃう。卑屈になってる訳じゃなくて…。自然の摂理というか…なんというか。


 「割と最近じゃないかなぁ。F組の丹羽大空って知らない?超ヤンキーらしいけど」

 「え"っ。ヤンキーと付き合ってんの?はぁあ…見る目なさすぎ…可愛いのにもったいない」

 「斎藤翔也とも仲が良いみたい。まともではないね」

 「フルネームで呼んでやるなって」

 

 どうしたら諦めてくれるかな。それこそやっちゃう?他の子と同じ立ち位置なら辛くなくなる?

 いやいや。付き合ってもない人と体の関係を持つなんて言語道断。ありえない。ナシ!




 「アコち。デートしようよ」

 

 今日も懲りずにC組へやってきてデートに誘われた。


 「しないよ。デートは恋人同士がするものでしょ?」

 「俺ら恋人同士じゃん?」


 白昼堂々、昼休みの人がまばらな時間帯に嘘をつきに来る。

 人が少ないからマシとは言え、斎藤翔也と会話しているところを見られたら多少なりとも噂は流れてしまうのよ。勘弁して。


 「恋人って何か知ってる?好き同士がお付き合いするってことなのよ」

 「好き同士じゃん?」


 一点の曇りなく断言してしまうから困りもの。嫌いではないけども。好きかと聞かれたら…。


 「ベッドフレンドが何人いるか言ってみなさい?私の好きな人はベッドフレンド0の誠実な人よ」

 「ベッドフレンドって何?新しー」


 ストレートに言う勇気はないの。ここは教室、みんなが反応してしまうでしょう?


 「そもそも、斎藤翔也の本命はアカリちゃんでしょ?ヤンキーさんに取られてしまって悲しいのは分かるけど…」

 「え?夏木?本命じゃねぇよ。前から言ってんじゃん。俺の本命はアコちだって」

 「だって、可愛いって言ってたし、アカリちゃんには手を出さないじゃない…」


 下ネタを話すようで段々と声が小さくなる。

 空いている前の人の席に勝手に座って至近距離で会話しているから、小さい声でもちゃんと聞こえている。


 「あいつは好きとかの感情抜きにしても顔面が可愛い。それだけだから特に興味も湧かない」

 「じゃあ、私に手を出さないのは?アカリちゃんと私の扱いって大差なくない?」


 一刻も早く白黒はっきりさせたくて、いつもだったら胸にしまっておく言葉を投げてしまった。


 「アコにしか好きって言ってない」


 いつも『アコち』と呼ぶのに、こんな時だけ『アコ』って呼ぶんだ。ずるいな…。

 ベッドフレンドがたくさんいるだけで、本気で私のことを好きでいてくれているのは分かっている。だからこんな風に斎藤翔也を試してしまうのは良くない。

 でも…、女遊びをやめてくれないなら、付き合いたくない。


 「…私って性格良くないからさ、ほら、あの一年生のあおちゃんだっけ?あの子がいいんじゃない?なんか雰囲気似てるってよく言われるし」


 斎藤翔也とあおちゃんが校内でイチャイチャしている所をたくさんの人が見ているから、クラスメイトや部活の先輩後輩に言われるの。

 『アコと付き合えないから似ている子で満たしてる』って。気分最悪じゃない?


 「アコちは俺のこと好きじゃないの?」

 「…好きだったら振らないでしょ?」

 「俺がセフレを全員捨てても?」


 そんなこと、できるわけない。

 だから期待しない。


 『アコちー、付き合ってよ。まじで好き、超大好き。テストで100点取ったし、ピアスも減らしたし、バイトも飛ばなかった!あとは何したらいい?』

 『女遊びはやめられないんだね』

 『禁欲生活はきちぃよ。俺今フリーだし』

 『…じゃあ、来年S組に行けたら…考えてあげる』

 『S!?アコち!言うの遅いって!』


 絶対に無理だと思っていたから言ったんだ。それこそ女遊び以外は私の無理難題を聞いてくれたけれど…。

 S組に行こうが100点取ろうが、私には関係のないことだった。

 一番やめてほしい部分をやめてくれないと…いくら好きでも付き合えない。

 こんなことを考えている私はすごく性格が悪くて、自分で自分を嫌いになってしまう。


 「…捨てられないから、今日までズルズルしてるんでしょ?」

 「付き合って浮気したら怒ってよ。絶対しないけど」

 「……考えとく」

 「またぁ!?アコちドS〜」


 白黒はっきりさせたいと言いながら、キッパリ断らないのはやっぱり私の悪いところだ。

 本当に嫌なら、いくらでも断れるはず。

 どれだけ無理な条件を突き付けても、ベッドフレンド以外は私色に染まってくれようとした。もしかしたら、付き合えば変わるのかもしれない。でも、もしかしたら変わらないかもしれない。

 もしも変わらなかったら、私は好きな人と彼氏を同時に失うことになってしまう。


 実際、斎藤翔也は私なんかと付き合わなくても何も困ることなんてないのだろう。モテるし頭が良いのだから。

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