side 夏木 あかり
人様のお家で素肌を寄せ合うなんてバチが当たりそう。初めての彼氏に初めてを捧げるのが今日になるなんて…。
空の優しさに甘えてぎゅっと抱きしめてもらったら、沈んでいた気持ちが少しだけ元気になった。
「空?」
「ん?」
前もこうやって名前を呼んだ。
空の声がすごく優しくて心地良い。
「初めて話した時のこと覚えてる?」
「ん。覚えてるよ」
予想外の生理に気付かず堂々と廊下を歩いていたときのこと。あの時も空はとても優しくて。
「びっくりしたよね。私もびっくりした」
「うん。びっくりして、どうしたらいいか分からなくて、気付いたら壁ドンしてた」
「初めて目が合って、ドキドキしたんだよ」
「俺も違う意味でドキドキして、内心すごい焦ってたよ」
そりゃあ内腿に赤い筋が垂れてたらびっくりするよね。ミニスカ全盛期だったし…。
「実はずっと前から目で追ってたの。気付いてた?」
「全然。急に話しかけられた時は人違いかと思った」
「私、ちゃんと名前呼んでたよね?」
「うん。呼ばれたけど知らない子だったし」
何度も何度も告白して、振られて。
「…変な意味じゃないんだけど、どうして付き合ってくれたの?何も知らない者同士だったのに」
「んー。俺が隣にいれば変な男が寄らなくなるかと思って」
「えぇ?じゃあ好きになってくれたわけじゃなかったの?」
「好きだよ。守りたい」
ほとんど言われたことがなかった言葉をストレートに伝えられて胸がキュッとした。
顔面国宝。優しい。イケメン。大好き。
「泣きながら告白された時、嫌だなって思った」
「ぇ?」
「アカリが、俺の知らないところで泣いてるの嫌だなって。正直、あの頃は自分の事で精一杯でさ。付き合っても嫌な思いさせるって思ってた」
「…うん、」
「噂を聞いて、もう男嫌いになっただろうなって思ったんだけど、告白してくれたから、最後のチャンスだと思って」
「ぇへへ、あの時は本当に最後にするつもりだった。しつこくしても嫌われちゃうし」
「何度も来てくれたから、付き合えた」
「ぇへっ。本当に嬉しい」
「隣にいてくれてありがとう」
痴漢に遭ったこと。気を遣ってそのワードは出さないでくれた。優しくて、温かい。
空の眼差しが大好きだった。




