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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太




 時刻は20時を回り、つまみ食い兼味見を担当した武藤と村尾が本日何個目かのアイスを食べている。

 ざっと15品を少量ずつ作ったが、それでもかなりの量になった。数日は持ちそう。弁当を作る手間も省けた。


 「あんた、あんな大荷物で何持ってきたの?」

 「あ!そうだ!せっかくお呼ばれしたから次のテスト範囲を教わろうと思って」

 「あーね。留年しそうだもんね」

 「さすがに留年はしないって!元S組なんで」


 謎のキメ顔でドヤっているが留年しそうならその自慢は何の意味も持たない。


 「藤ノ木先生、わたくしめに数学を教えていただけませんか?」


 直後に態度を変えてパンパンに膨らんだリュックサックの中身をザバザバと広げ、優に擦り寄っている。


 「藤ノ木じゃなくて優って呼んで。苗字で呼ばれるの嫌いなんだ」

 「えっ!そうなの!優!優!ここらへん全部分かんないから教えて!」


 空が帰るまでに食器洗いを済ませようかと台所へ向かっていたら突如として玄関のドアが開いた。えっ、帰ってきた?早くね?

 ドアの音に反応したのは俺だけではなかった。


 「あ、ごめん帰る。あたしも分かんないとこあるから今度、学校で聞いてもいいかな」


 早口で捲し立てるように身支度を整える武藤。空嫌いは相当なものだと誰の目にも分かる。


 「これありがとう。じゃまた」


 大きな紙袋にたくさん入れた料理を見せて礼を言うが、その様子はあまりにも余裕がない。嫌いというだけでこんなに取り乱すのだろうか。


 「あっ、恭子っ!」

 

 玄関にいたのは斎藤と夏木、そして空の三人だった。

 勢いよく出て行こうとして運悪く、空と正面衝突。武藤は尻もちをついた。


 「触らないでっ!!」


 自分にぶつかって転んだ相手に咄嗟に差し出した手を振り払われ、若干目の色を変えた空はそれでも手を引かなかった。


 「あたしね、あんたのこと嫌いなの!!触れられたくないの!…一人で立てるから。どいてくれる?」

 「恭子…」


 叫び声にも似た悲痛な訴えに空も斎藤も、顔色を変えた。

 言葉通り誰の手も借りずに起き上がり、転んだ拍子にひっくり返ったタッパーの中身をかき集めた。


 「鏡堂、ごめん。ダメにしちゃったや。今度埋め合わせさせて」


 俯き震える声で謝る姿に違和感を覚えずにはいられなかった。

 武藤はどちらかというとサバサバして気が強い。親友の彼氏を嫌いなだけで、あそこまで拒絶するだろうか。


 「あ…空…」


 空は、腕に緩く掴まっていた夏木を解いて家の中へ行ってしまう。さすがにこんな嫌悪感を示されたら、誰でも不快だよな。


 「いいよ、俺やっとくから」


 とんでもない修羅場に立ち会ってしまい、固まっていたがハッと我に返った。武藤は一秒でも早くこの場から立ち去りたいはず。ここは家主の俺が尻拭いを…。


 「…………」


 優以外の全員に見られながら床に散らばったおかずを集めるのは惨めだった。プライドの高そうな武藤には酷だろう。


 とりあえず帰そうと歩み寄ると、横から腕が伸びてきた。


 「ねぇ…。あたしのこと馬鹿にしてんの?」


 語尾に近付くにつれ叫ぶような、怒鳴るような強い口調で、ビニール袋とティッシュを持ってきた空を武藤は責め立てる。


 「…何とか言いなさいよ!!」


 武藤と同じ姿勢にしゃがんだ空は突き飛ばされても反論せずに後片付けを続けた。


 「恭子…、ごめんね、…私が連絡しなかったから……」

 「別に。アカリは何も悪くないよ。あたしが個人的にすごく嫌いなだけだから」


 武藤はあえて語尾を強調し、汚れた手をそのままに家を飛び出した。


 「追いかけなくていーの?」


 明らかに機嫌を損ねた斎藤が夏木に聞く。


 「…多分、私が追いかけたら逆効果。そっとしておいた方が…」

 

 彼氏を悪く言われてか。親友を傷付けてしまったと感じてか、重い口調で首を振った。

 武藤の肩を持つ人間はいないのかと思われたが、ただ一人村尾がその背を追った。



 「空…。ごめんなさい。恭子がいること言ってなくて…」

 「…………」


 空の無言程、恐ろしい瞬間はない。俯いているから表情は見えない。


 「俺やっとくから置いといて」

 「あいつまじで気分悪ぃな」

 

 俺や斎藤の言葉にも返答せずに床をきれいにしている姿が恐ろしくて仕方ない。


 「…わざとじゃないでしょ」

 「ぇ?」

 

 俯いたまま数秒遅れの返事をした空に夏木は小さく聞き返した。


 「わざと会わせようとして黙ってた訳じゃないでしょ」

 「…ごめんね、恭子がいることは知ってたの。でも行く途中で空に会えると思ってなくて、気分上がっちゃって、言うの忘れちゃった」


 夏木は人の顔色を窺ってあれこれ気を回すタイプだから不仲の人間をわざと引き合わせるようなことはしない。

 それを分かって聞いたのだろう。


 「ならアカリが謝る必要なくない?嫌われてるのは知ってたし」

 「でも…」

 「いいんだよ。どっかに悪口書かれるより潔いじゃん。あの様子じゃ、誰にも言えず溜め込んでたっぽいし。別に傷付いてないからもういいよ」

 

 斎藤の話によるとバイト先に社員が数名来たことでお手隙になったため、早上がりしたのだそう。

 道中、夏木と合流したが武藤がいることに触れないのを疑問に思いつつ、夏木の作戦だろうと斎藤も特に何も言わなかったらしい。



 「バイキング楽しみにしてたんだけどー」

 「食べていいよ。あいつら出てこないだろうし」


 不貞腐れる斎藤にぶっきらぼうに答える。

 すっかり空気になった優は地味につまみ食いしているが、作ってからほとんど減っていない料理を見るのは切ない。


 「お熱いなー。人ん家でイチャつくなよな」

 「空の家でもあるからいいよ、なんでも」


 明日も学校だから適当に食べてさっさと寝よう。


 「うんま。なにこれ」

 「棒棒鶏」

 「初めて食べた」

 「お好みでラー油」

 「空、好きかもなー」

 「そうなの?なんで?辛いのが?」

 「知らねーの?唐辛子齧るぞ、あいつ」

 「うわ。舌バカだ」

 「味覚バグってるからな」


 玉ねぎもネギも辛いから好きなんだな。食感とかじゃなくて。


 「逆にこんなうまいもん食っても何も感じねーかも」

 「ありえる」

 

 二人(三人)で時々会話を挟みながら食事を摂り、ウチから学校に行くことで合致したので夏休み期間に貸していた部屋でそれぞれ眠った。


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