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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり




 気付けば辺りはオレンジ色に包まれ、一時間に一度のチャイムが鳴り響く。校内中に届くチャイムより一際盛り上がるのは音楽室と運動場。青春って、運動部でしか味わえないのだと思っていた。

 その時楽しければ、全部青春なんだと知ったのは大人になってからだったな。


 

 もはや定番化しつつある西田くんの無茶振りは優等生二人にも容赦なかった。


 『藤ノ木くんも歌えるの?ギター弾けるの?すごいすごい!じゃあ一曲どうぞ!』


 本人に悪気がないから、断るに断れない空気。対して、求められたら完遂させようとする二人。相性は最悪だった。無茶振りを無茶と捉えてまいと、完璧を求めてしまうあまりピアノの前で揉め始めてしまった。


 「これを歌うためにはハモリが必要。ハモって。下の音。上でもいいけど。できるよね」

 「あのな。俺は天才だけど、お前みたいに一度聞いたら覚えられるロボットじゃねぇの」

 「じゃあ早く練習して」

 「しかもなんで俺がハモリなんだよ!俺はメインじゃなきゃ歌いたくない」

 「あいつに言って」

 「こっちの曲をお前がハモれよ」

 「どこをどうハモれるの。声と曲調合わないし」

 「わがまま言うなよ!」

 「どっからどう見てもお前がわがまま」


 まるで兄弟喧嘩のような優等生のやり取りに周囲は呆気に取られている。学年首席でもこんな風に言い合うことがあるんだ。


 「まぁ、俺は大人だから、今回は俺が!折れてやってもいい」

 「そうして」

 「俺が大人だからだぞ!お前はわがままなお子ちゃまだからな。仕方なくだ」

 「あそ」


 一悶着して満足したのか、けろっとにんまり笑顔になった鏡堂に、それはそれは無関心な返答をした藤ノ木。扱い方をよくわかっているらしい。


 「この音ね、覚えた?」

 「凡人はすぐ覚えられねぇって言ってんだろ。しばくぞ」

 

 「誰が凡人だよ。腹立つ」


 一触即発風な鏡堂の言葉に、忘れられた村尾が小言を呟いた。確かに腹立つ。私たちのことを世の中では凡人というのよ。

 音程を教えるためにサラッとピアノを演奏してしまう藤ノ木や文句を言いながら歌えてしまう鏡堂を凡人とはいわない。


 「歌はともかくさ、演奏もできなきゃいけないんだよね」


 揉めている優等生と、怒りの視線を向けている村尾を放って空が話しかけてきた。幸せ。


 「確かに。空、ギターとか弾けるの?」

 「弾けない」

 「あらら」

 「こりゃー出演辞退かな」

 「「それはない!!」」


 空のいたずらっ子のようなかわいらしい少年顔に、村尾と私はぐっと顔を近付けた。


 「アレと違って無能だからなー」


 『アレ』と指を差された優等生は尚もしょうもない言い合いを続けている。


 「丹羽くんは腕を怪我しているからヴォーカル一本でいいと思うよ!楽器はあの二人と、僕たちに任せて!」

 「あぁ、そうなの。出なきゃいけないじゃん」


 出演したくない空の気を知ってか知らずか。心底残念がる空に、一点の曇りもない微笑みを向ける西田くんは悪魔にも見えた。




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