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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり




 夏休みも終盤に差し掛かり宿題に追われる村尾が鏡堂ハウスに毎日居座るようになった。

 かくいう私もほとんど毎日いる。空と斎藤がバイトでいない間に村尾と恭子と勉強会。

 

 あれから恭子とは普段通り接しているけれど空とは顔を合わせたくないみたい。

 空の良いところをアピールするのは辞めた。話せば話すほど嫌いになるって。


 鏡堂と藤ノ木とも少しずつ冗談を言えるようになって、結構高校生活楽しめている。


 午後からは行ける人だけで学校に行って、部活をしようという話も出ていた。空たちのバイトが仕込みだけだから昼過ぎには終わると聞いたからだ。


 文化祭のこともあるし…、空の歌を聞くためにも行きたい。


 「あんた、これが分かんないでよくS組行けてたよね。謎だわ」


 朝イチからの勉強会、私は飽きてじゃがりこを食べている。

 隣に座る恭子と対面で宿題に取り掛かる村尾が眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


 「一年の時とは気合が違うじゃん?」

 「そんなこと言ってたら留年するよ」

 「留年!?せめてB組に落ちるって言ってよ!寂しいじゃん!」


 「勉強疲れたー」

 「夏木ちゃんはさ、全然勉強してないのに成績いいよね?どうやってるの?超能力?」

 「私は朝より夜に集中的にやる派〜」

 「あ〜一応やってるんだ。俺が見てないところで」

 「んー。空に教えながら」

 「え、ずるい」


 じゃがりこがどんどん減って、次のお菓子を選びながら適当に会話する。


 「昼何食べる?」


 勉強片手に鏡堂は藤ノ木や村尾、私たちを順番に見た。

 何日も居座って鏡堂の作る料理に毎回心躍る。待ちきれなくてお菓子食べちゃうけど別腹でいくらでも食べてしまう。


 「賞味期限近いのなんだっけ?」

 「大量の生パスタ」

 「じゃあそれ」


 村尾が思い出すように左上に目線をやりながらやりとりする。


 恭子が冷蔵庫の中身を見せてもらった時に賞味期限をノートに書き出していたから、ギリギリのものをみんなで食べることが多い。

 それもとんでもない量だから一人では食べきれないものばかり。


 「味は?」

 「カルボナーラ一択」

 「みんなそれでいい?」


 早押しクイズをやっているかのような素ぶりで答えた村尾にみんなで頷く。

 鏡堂が作るものはなんでも一流だからなんでもいいというのが本音。いつも村尾が案を出してくれるから助かる。


 「武藤も食べてく?」

 「うん」

 

 鏡堂は恭子の気持ちを汲み取って、空と鉢合わせないように時間をずらしたりタッパーに詰めたり、何かと気にかけてくれている。一人暮らしだし食費浮くでしょって。


 「カルボナーラやったー!でもまだ十時か…。ポテチ食べちゃおうかな」

 「じゃがりこ食べてたじゃん!太るよ?体に悪いよ?」

 「えー!じゃあ半分こしよ?」

 「カルボナーラ食べられなくなっちゃう」

 

 私の親並みに身体を心配してくれるのは恭子だ。男子達も、最初はお菓子の量にびっくりしてたみたいだけど…今はそんなに気にならないみたい。


 「さっき朝ごはん食べてたよね?」

 「さっきって、三時間も前じゃん」

 

 毎日、毎食、必ずと言っていいほど村尾に突っ込まれてしまうけど三時間経ったらお腹空くじゃん?


 「その食生活でその体型は、世の女子が見たら喧嘩になるね」

 「えー、ポッキー渡したら仲直りできる?」

 「逆効果でしょ」


 村尾と恭子に呆れられてもお腹は空くんだよう。


 「なんか作ろうか?」

 「なんかって、何がある?」

 「んー、クラムチャウダーとか」

 「美味しそう!食べたい!」


 『お菓子食べるならそっちの方が〜』と気を利かせてくれた鏡堂。他にも、誰かが変な時間にお腹を空かせていたら結構なんでも作ってくれる。

 藤ノ木はこの勉強会で生活リズムが狂ってしまったらしく、特に偏食だった。

 

 インスタントのラーメンを食べるにしても絶対に何か野菜を入れてくれたり、アレンジしてできるだけ健康に近付けようとしてくれるんだよね。


 で、絶対に誰にもキッチンに立たせない。


 本人曰く、『潔癖だから、善意でも食器洗いとかやらないでほしい』とのこと。

 家の中に人を入れるのは問題ないのに、キッチンには極力入ってほしくないみたい。


 みんな、キッチンを鏡堂の城と言っている。


 

 「じゃあまた、いない時呼んで」


 鏡堂お手製の絶品カルボナーラをたらふく平らげ、恭子が帰って行った。本当はみんなで学校に行きたかった。でも誰かが嫌な思いしちゃうなら、そうならない方がいいに決まってる。


 「武藤さん、本当に空のこと嫌いになっちゃったのかなー」

 「嫌いになったっていうか、元々良く思ってなかったから…」

 「うーーん。そっかぁ」


 今までここにいた人がいなくなると寂しいよね、と呟く村尾の言葉に頷く。広いリビングがもっと広く感じるようで。

 

 「俺からしたらただの嫉妬に見えるけど」


 しんみりとした空気の中、お皿洗いを終えた鏡堂が珍しく話に割り込んできた。


 「嫉妬?武藤さんも空のことが好きってこと?」

 「それはないと思うけど…。どういうこと?」


 村尾の発言はもちろん、恭子は嫉妬するような女の子っぽさはほとんどない。どちらかというとサバサバしていて、人の恋愛に口を挟む子でもなければ、本気で人を嫌いになる子でもない。

 私よりも大人びていて、いつも冷静に物事を見ている。だからこそ、私が空を好きになったことを心配してくれていたのだ。


 鏡堂は恭子とそんなに親しくないから適当なことを言っているのかもしれない。

 友達そらを邪険にされてムッとしているのかも。

 

 「あんたら高校からの仲じゃないだろ」


 私も、鏡堂と面と向かって話したことは過去数回。目を合わせたこともほんのわずかだ。


 「恭子は中学の時に転校してきたの。ほら、恭子って結構、一人でも平気ってタイプじゃない?だから、わざわざ自分から友達を作ろうともしてなくて、それがなんていうか、私にはカッコよく見えたんだ。群れずに自分の世界を築き上げていて、すごいなって。私にはいつメンと言える人がいなくて、どこにも属さないけどみんなと仲が良いんだと思ってた。裏で、八方美人って言われているなんて知らなかったの。あ、全然、いじめられたとかではないんだけど、なんか窮屈に感じちゃってね。恭子の真似して一人でお弁当食べてみたり、一人でも平気アピールをしてみたの。でも、全然ダメで。そんな時に声をかけてくれたのが恭子だったの」


 話慣れていない相手。目線を逸らして一方的に話してしまう。


 脳裏に浮かぶ懐かしい思い出。中学生なのに大人っぽくて、一人だけ別の世界を見ているみたいな恭子が憧れだった。


 『あんたみたいな可愛い子でもハブられることあるんだね。くだらない』

 『ハブられてるんじゃないよ。武藤さんの振る舞いがカッコいいから、真似してるの。でも私には貫けないや』

 『カッコいい?こんなんただのぼっちでしょ』

 『ううん、転校してきて心細いはずなのに、一人でも凛としてるのカッコいいよ!』

 『あんた変な子だね?』


 「恭子とはそれからずっと一緒にいるよ。だから言わせてもらうけど、恭子は嫉妬で怒ったり、自分の都合で空気を悪くしたりしない」



 恭子のことは私がよく知っているんだから、なにか別の理由があるはず。そう、自信満々に鏡堂を見つめた。


 「逆だとしたら?」


 ん!?逆!?


 「逆って…?」


 なんの逆?逆に逆って何?


 「空を好きで夏木に嫉妬してるんじゃなくて」


 「うん…?」


 「夏木を取った空に嫉妬してるんだとしたら?」


 呆れながらも『逆』を教えてくれた。

 いや、でも。


 「ないないないないないない!!空は彼氏で、恭子は親友!別物だから、取った取らないじゃない!恭子もそんなこと分かってる」

 「ふーん?まぁ興味ないけど」


 本当に興味なさそうに鏡堂はお手洗いへ消えた。興味がないなら核心つくようなことは言わないでほしかったな…。恭子の気持ちを勘ぐるようなことはしたくない。


 え。でも、もし本当にそうだとしたら?私はどちらかを選ばなきゃいけないの?どっちが大事か決めないと、どっちかが離れていっちゃう?そんなのやだよ。どっちも大事だからどっちも一緒にいたい。これってわがまま?八方美人?彼氏と親友、両方いるのはダメなことなの?


 「夏木ちゃん、鏡堂の言うことが全部正しいとは思わないけど…、でも確かに、そう考えるとしっくりくるかも。でもでも、武藤さんは夏木ちゃんの気持ちを知ってるから、一人になることを選んでるんじゃないかな?そんなに考え込まなくて大丈夫だよ。武藤さんは夏木ちゃんのこと大好きだし、大好きな人の大好きな人を否定してしまうのは、本人も苦しいと思う。今はまだ少し、待ってあげてほしいな」


 おちゃらけていて、ふざけたテンションで揶揄ってくる村尾が、こんな時ばかり真剣に話すから、もっと考えてしまう。

 私は二人を大切にしたいよ。

 

 

 

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