side 武藤 恭子
なんか、別に来なくてよかったかも。アカリに会えると思って来たけど、冷静に考えて丹羽と斎藤がいる時点であたしの居場所ないよね。
鏡堂も藤ノ木もすっかり存在消しちゃって。
アカリと会うならここじゃなくても会えたわけだし。帰ろっかな。特に楽しくもないし。
深夜三時を過ぎた頃、ふと我に返る。
丹羽がいたら、付き合ってるんだからイチャつくのは当然だし。なんならあたしが隣行けばって言った。
村尾だってそっち側だし。かといってあたしが鏡堂と仲良く喋るかって言ったら…。
はぁ、来なきゃよかった。徒歩圏内とはいえ夜中に出歩くのはさすがに怖い。でも、アカリ以外の誰とも仲良くない場でこれ以上居座るのは苦痛。
大体、アカリもなんでこんな不良と仲良くできるの?学年一の問題児なんか好きになって。彼氏ができた途端、あたしのポジションが無くなった。
あたしなら一緒にいる間、昼寝もしないしアカリの好きなお菓子作りもできるよ。
いつでも会えるよ。花火行こうって私から誘うこともできるよ。
なんで、丹羽なの?あたしじゃなくて。どうして、あたしを見てくれないの?
こんなに大事にしてるのに。
アカリが楽しいならそれでいいって思ってた。でも、あまりにも不釣り合いじゃない。
優等生のアカリと、学年ビリの不良なんて。
「あたしちょっとトイレ」
「恭子?」
あたし、性格悪いな。
心配して呼んでくれたアカリを無視した。
こんなんだから居場所無くなるんじゃん。自業自得だ。あたし、バカだ。
「後輩からも人気あるらしいじゃん」
「そうなの!?空ってば、人気者!どっか行っちゃわないでね」
「どこにも行かないよ」
音楽かけながら帰れば怖くないよね。
「あたし、昼から予定あるからそろそろ帰るね」
「え?恭子?危ないよ。私も一緒に帰る」
「アカリは可愛いからダメだよ。ボディーガードたちに守ってもらって」
本当は予定なんてない。これ以上ここにいたくないだけ。
斎藤も、丹羽も、あたしはやっぱり好きになれない。
「鏡堂〜お邪魔しました」
「あー」
こんな時でも端っこで勉強するような人とも仲良くはなれない。
「武藤さん!?本当に帰るの!?」
「は?それ以外あんの?」
「あいつ何キレてんの」
「恭子??どうしたの?」
「どうもしないよ。別にキレてもないから」
「送るよ!夏木ちゃん専属ボディーガードとして、この身を粉に…」
「アカリ専属なんだからアカリを守ればいいでしょ!?あたしに構わないで!」
あー、最悪。
「あぁ、あたし、寝不足になるとイライラしちゃうの。じゃあね」
みんなあたしを冷ややかな目で見てる。斎藤も、丹羽も、アカリも。
空気読めなくてごめんなさいね。そっちはそっちでどうぞ楽しくやってください。あたしがいなくても何も変わらないでしょ。
急いで豪邸を飛び出して、絡まるイヤホンを解く。
外は街灯が少なく、暗い。
来る時は全然気にならなかったのに今はなぜか怖いや。
村尾と話しながら来たから遠く感じなかったのかな。一人だとまだまだ道のりが長いように感じる。
*
歩いても歩いても、知ってる道に出ない。なんなら家から遠のいている気さえする。
来た道を戻っていたつもりだったけれど、念のため地図アプリで場所を確認してみよう。
現在地から自宅まで。
表示された所要時間に声が出そうになった。
"40分"って、行く時はそんなに歩いていない。
既に15分は歩いている。まじか。こんな時間に迷子になったみたい。あーもう最悪。最初から道調べとけばよかった。
日の出まではまだ1時間以上ある。
夜とはいえ湿っぽさを感じる温度が気持ち悪い。
モバイルバッテリーを持ってこなかったことを後悔。地図を見ながらだとすぐに切れてしまいそう。
夏の夜風に揺れる草木の音でびっくりしてしまうくらいには暗くて怖い道だ。
今更引き返すわけにもいかない。合わせる顔がない。帰るしかないんだから、歩こう。歩いてればいつか日が昇って怖くなくなるから。
地図に沿って5分くらい歩いた時、スマホが着信を知らせた。
アカリかな。
"村尾"と表示された画面に落胆する。また、茶化すんだろう。バッテリーがもったいないから通話終了をタップして歩いた。
"今どこ?"
"まだ家着いてないよね?"
"道間違えてない?"
"位置情報送って!"
"返事して!"
既読無視していたらまた電話がかかって来た。
やめてよ。バッテリーないんだってば。
『もしもし!?今どこ!?』
やけに息切れした声が聞こえる。
「バッテリー少ないの。電話かけてこないで」
『駄目だよ!送るって言ったじゃん!そこから動かないで!位置情報送って!』
…走ってる?まさか、追いかけてきたの?
荒い息遣いで指示されたから、条件反射的なアレで送ってしまった。迷子だってバレた。
『今行くからね、動かないでね。動いたら迷子になってるのみんなに言うからね』
村尾の言うことを聞く義理はないけれど、バラされたら嫌だから仕方なくその場にしゃがんだ。
それから意外と早くに見つかった。
「武藤さぁん!こんな夜中に飛び出していかないでよ。心配したんだからね。ゼェゼェ、ハァハァ」
「走ってきたの」
「そりゃそうだよ。女の子一人で道間違えてたらって考えたらぁああああ」
暗くてよく見えないけれど多分、ムンクの叫びみたいな顔をしている。
「別にあたしのことなんかほっとけばいいのに」
「なんでそんなこと言うの!?俺だったらほっとかれたら寂しいんだけど!?」
「みんなで楽しく話してればよかったじゃん」
「武藤さん、空嫌い?」
急に核心をつくようなことを聞くから心臓が嫌な音を立てる。
「嫌い」
「そうだよね。多分みんな知ってる」
「じゃあ聞くなよ」
「みんな知ってるけど、それでも一緒にいたいと思ってるよ」
「誰も思ってないよ。あたしがいたら空気悪くなるでしょ」
「少なくとも俺は思ってるよ。夏木ちゃんのこと一番知ってるのは武藤さんだしさ、突っ込んでくれるのも武藤さんだけだよね」
「アカリは、あいつがいたらそれでいいんだよ。親友って思ってたのはあたしだけで、付き合い始めた時に、親友は終わったの。そういうもんじゃん」
「夏木ちゃんはそんなこと思ってないよ」
「あんたにアカリの何が分かんの?何も知らないよね?」
「分かるよ!夏木ちゃん、武藤さんのこと大好きだもん。武藤さんも夏木ちゃんのこと大好きでしょ」
「アカリはいい子だから、みんなのこと平等に好きって言える子なの」
「斎藤のことは嫌いって言ってたよ」
「…それは」
「急に帰っちゃうからすごく心配してたよ。でも夏木ちゃんも女の子だから、嫌だったかもしれないけど俺が来た。本当は夏木ちゃんと話したかったかもだけど、俺でごめんね。時間が時間でさ」
「アカリが来てたらあんたたちぶん殴ってるよ」
「武藤さん怖いってば。武藤さんが夏木ちゃんを心配するように、夏木ちゃんも心配してたんだから。武藤さんより心配性かもしれない」
「それはない!あの子は天然だから、そういう面も含めて全部心配」
「うん、すごく大好きなんだね。空に取られたーって思っちゃうのも分かるよ」
「…別に、そんなこと」
「武藤さんを心配するのと同じように、夏木ちゃんは空のことも心配で、あんな怪我してても深く踏み込めないって悩んでるんだ。俺もよく知らないから、鏡堂くらいしか踏み込めないんだろうけど」
「………」
だから、やめとけって。他所の学校と喧嘩してるんだったら、危ないから離れてほしいって。
思うでしょ。
「俺の勘なんだけどさ」
暗い夜道に二人。立ち止まって話し込んじゃって。嫌になる。
「空は他校の人と喧嘩してるんじゃなくて、家庭に問題があるんじゃないのかなって。そしたらさ、鏡堂の発言にも合点がいくっていうか」
「鏡堂?」
「学校で二人が話してるところ聞いちゃって。一緒に住もうとか、助けたい、とか」
「へぇ」
「あの二人、別に仲良くないじゃん。なのに鏡堂が必死に説得してる姿見たら、違和感っていうか、考えちゃってさ」
「………」
「武藤さんが空をどう思おうがそれは、武藤さんの勝手だよ。でも、まだ何も知らないから、もう少しだけ一緒に観察しない?空がどんな人なのか」
「……」
「超悪い奴だったら夏木ちゃんを無理矢理にでも離れさせなきゃだけど…今のところ悪い人じゃないんだ。夏木ちゃんも恋バナしたいだろうしさ、ちょっとの間でいいから様子見ってことで、スパイやってよ!」
「スパイ?」
「うん!俺も空が悪い奴かどうか探るから武藤さんも、夏木ちゃんと恋バナしつつ、みんなと会話しつつ、探ってよ!夏木ちゃんのこと心配だから!」
「…分かった。あいつの悪いところ見つけたらすぐ別れさせる」
「寝癖がひどいとか、目つきが悪いとかは無しね!!あくまで内面」
「…ふん」
「長くなっちゃってごめんね!帰ろ!」
スパイって言うけど、本当は今まで通りにしてってことなんだろう。
不器用っていうかくどいっていうか。
「あんたってほんとお人好し」
「え?褒めてくれてる…?やだもう怖い!」
「どうせ何言っても怖いですよ」
「嘘だよ!ありがとう!嬉しい!」
「あー鬱陶しいから離れて」




