side 夏木 あかり
「あっ、もしもs」
「え"!!夢!?もしかして!俺!!夢!!?」
「ん"ん"っ!もしもし?村尾?」
「夏木ちゃん!!何これドッキリ!?告白!?やだもう!先に言ってよぉ!」
突然、斎藤翔也から電話がかかってきて…。時間も時間だったから、何か大事な用なのかなって通話ボタンを押したの。
そしたら鏡堂の家に来いって。側から聞こえた空の声は少し、慌ててたっぽいけど…。空に会えるならどこへでも行っちゃう!
私がこの前、斎藤に電話して『いじわる』って言っちゃったからかな。
素直に呼んでくれるなんて、少しはいいところもある。好きじゃないけど。
それで、恭子と村尾も呼ぶからって、私が村尾に電話することに。
深夜のテンションなのか、いつもよりもすっごくものすっごく、うるさい。
「なになに!どうしたの?夏木ちゃん!!俺にしか話せない何かをふと思い出しちゃった?例えば…こくはk」
「なんかね、今みんなで鏡堂のおうちに集まってるみたいなの。お呼ばれしたから、村尾にも声かけてって斎藤が」
「斎藤…?斎藤?サイトウ?斎藤ってS組の?なんで?俺あの人の連絡先知らないよ」
「ん、だから私が電話してるんでしょ。恭子と喋りたかったのに」
「ぁはん…夏木ちゃんだけが、俺の連絡先を知ってる…フフ」
「恭子も知ってるよ」
「あー、そうだった。特別感を味わうために削除してもらおうかな…」
「で、村尾は行く?私は…斎藤が迎えに来てくれるみたいだから行くけど。鏡堂の家知ってる?」
「斎藤が迎えに行くの!?なんで!?そこは俺でしょうよ!」
「村尾は一番ナシでしょ!あんまり強そうじゃないし…」
「子犬みたいで可愛いってこと?夏木ちゃんに飼われるなら最高…」
「すぐに話を逸らさないで。行かないの?」
「うーん、武藤さんはお一人様合流なのかな。確か家近いんだよね。武藤さんも参加するなら武藤さんと一緒に行くよ。武藤さんは俺がしっかりボディーガードするから、いつでも惚れていいよ」
「行くって!ラインきた」
「おっけーーーい!夏木ちゃん専属のボディーガードが行くから待っててって伝えて」
「じゃ!また後で!不審者が近付いて来たらその身を粉にしてでもしっかり守ってよね」
「その粉、夏木ちゃんの部屋に飾」
ポジティブすぎて逆に怖い。勢いで通話終了ボタンを押してしまったけど…村尾だからいっか。
*
「おー、元気かアイドル」
先に眠っていたお母さんにだけ許可をもらって外へ出た。
夏休み中にこんなチャラい人と会うことになるなんて思いもしなかった。
まぁでも誘ってくれたのあっちだし、今は嫌わない。
「ずっと一緒にいたの?」
「いや?さっき鏡堂に呼ばれた」
「鏡堂?あの二人って仲良かったっけ?」
「良くはないだろ。知らね」
いつも女の子とくっついて歩く人だから、無意識に一歩下がってしまう。そこは、私の場所じゃないから。
「コンビニ寄るけどなんかいる?」
「あ、そっか。おうち行くんだもんね。手土産買わなきゃ」
「そんなんいらねぇだろ」
何か良さげなものはないかと、コンビニの中を歩き回る。
斎藤が持っているカゴがふと目に入り、思わず大きな声を出してしまった。
「店員さん!!この人、高校生なので絶対売っちゃダメです!高校生です!」
「おいバカ!そんなでけぇ声で叫んだら通報されんだろうが!補導される前に行くぞ!」
商品を入れたカゴを置き去りにして慌ててコンビニを出る。
勢いよく腕を引っ張られ、ズンズンと進んでいく。
「お酒はダメでしょ!?」
「はぁっ。優等生は帰れよ」
確かに、お酒はダメと言いながらこんな夜中に出歩いている自分は矛盾している…。でも、発育に影響したり色々、ダメだから。
「それに、鏡堂のおうちの人も厳しいかもしれないじゃん!あんなお坊ちゃんなんだから…」
「あいつもう親いねーの。今日は朝まで騒ぐって決めてんだから黙ってろ」
「えっ、親いないって、うそ…」
そんな辛いことがあったんだ…。そりゃ…お酒を飲んで気晴らししてみたくもなるのかもしれない…。でも、だからって。
「そんなことしたら親御さん悲しむよ!お酒はダメ!ジュースにしよう!お菓子もいっぱい買って元気づけてあげよう」
「はぁ?俺が一番疲れてんだから俺を元気づけろよ」
「斎藤って本当にデリカシーない!ダメだよそんなんじゃ!」
「何言ってんだよ。顔は可愛いのにもったいねぇ」
人の心を持たない斎藤のお金でたくさんのお菓子やジュースを買い込み、いざお邪魔すると……。
庶民には考えられない豪邸に腰を抜かしました。
「空ごめん、あいつのせいで酒買えなかった」
「アカリは厳しそうだもんね〜」
腰を抜かしている私を置いて、そそくさと家の奥へ入っていった斎藤の声が聞こえる。
…向こうに、空が、、、。
「あ?何してんの」
「あ、鏡堂…」
一生懸命立ちあがろうとする私を見て眉を寄せた鏡堂に、どう声をかけたらいいか…。
「転んだの?開いてるから入ってー」
私を見下ろして外に呼びかけた。
スッと差し出してくれた手を掴んで、よいしょと立ち上がろうとしたら後ろのドアが開いた。
「ぎょっ!!」
え?さかなクン?
「鏡堂!!おま!夏木ちゃんに何してんだよう!」
「立たせてる」
「立たせてる!?何を!?」
「は?」
「アカリ、何腰抜かしてんの」
「あぁ〜ん恭子ー!会いたかった…」
「あたしもー。てかこんな時間に外歩くとか初めて。斎藤になんもされなかった?」
「斎藤!!あの人、コンビニでお酒買おうとするのよ!未成年なのに!」
「あー、毎晩飲んでそう」
「高校生は絶対そんなのダメじゃん?だから私が止めた」
「アカリ偉い!」
「んふふふー!」
「グハッ…推しが尊い…」
「騒がしいな。置いてくぞ」
もじもじゆっくり大きな家の中を歩いていくと、とんでもない広さのリビングへと繋がっていた。
「鏡堂ー、腹減った。なんかメシ」
また!斎藤ってば鏡堂の気持ちも考えないで偉そうに!
目の前にいるなんかボロボロの包帯ぐるぐる空くんを放って斎藤のところへ行く。
「あんたね!ちょっとは人の心を……ん?」
包帯ぐるぐる巻きのボロボロ空くん?
「えっ!?空!?何これ?」
「んーちょっとね」
「ちょっとじゃないよね?え、斎藤にやられた?」
「えぇっ?笑」
「そうなんだ、きっとそうなんでしょ」
「いやいやいやいや、なんで俺なんだよ。どんだけ俺のこと悪い奴だと思ってんの!空!否定しろよ!」
「なんか夏木ちゃん忙しそうだね」
「まぁ、あの子天然だから」
「そこがイイッ。グハッ」
*
「…えっ!?今なんて??」
ひろーいひろーいリビングの大きなテーブルをみんなで囲んでお菓子パーティー。
鏡堂の言葉を聞き間違えたみたい。
「だから、親が引っ越したからいつでもここに集まれるようになったって」
「…引っ越した?」
「ん。都内の住宅街にいい土地が見つかったんだってさー」
「高校生の息子置いて引っ越す親。ウケる」
鏡堂家の風変わりな内情を面白がる斎藤をじっと睨む。
「え?え、え、あのさ」
「まーた"それって法律違反じゃないのー"とか言い出すんだろ」
「え、ちがくて。鏡堂の親はもういないって…」
「おん、いねーじゃん。都内に引っ越したって」
「えっ………ッスー」
「なるほどね。アカリ、どんまい」
「え?夏木ちゃん、また天然?」
「しっ。天然って言うと顔が般若みたいになるのよ」
「あ?なんで睨んでんの?言ったじゃん。親いないから朝まで騒ぐって」
「もう、…本当に嫌い」
「は!?」
「もしかして斎藤も」
「天然かもね〜」
とんでもない勘違いをしてしまっていたことに気付いて、すごく顔が熱い。恥ずかしい。
だって、あんな言い方されたら誰でもそう思うじゃん。
いじわるだ。やっぱり人の心持ってない。嫌い。大嫌い!




