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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太




 居間で気配を無くしていた優に驚く斎藤と、四人で話し合いを始める。


 喧嘩しないように…静かに…。


 「えぇっとー……」


 普段どうやって話してたんだっけ?もしかして俺のコミュ力って喧嘩の勢い任せだった?

 いやいやいや、そんなわけないだろ。この優秀な鏡堂広太様だぞ?空なんかのちんちくりん相手に普通に話せないわけ…ない、よな?



 「はぁ。何のために起こしたの」

 「おっ、喋った」


 優の冷たい視線が痛い。

 人の意見にいちいち惑わされないはずなのにな。なんも出てこねぇや。


 「叩き起こしてごめんね。こんなんでも一応、朝昼晩三食摂らなきゃ気が済まないみたいで」

 「あぁ…」


 優が代わりに話し合いを進めてくれるらしい。はぁ。コミュニケーション能力、どっかに落としてきたみたいだ。


 「聞いてるかもしれないけど、広太は親に置いて行かれてこの家に一人で住んでる。だけど寂しがり屋だから空と一緒に住みたいらしい。今は俺が住んであげてるんだけど、ウチの親、厳しいから夏休みが終わったら帰らないとでね」


 嘘八百は言い過ぎかもしれないがかなり嘘だ。故障か?


 「空が良ければ、人助けだと思って住んでやってよ。空だけじゃなくてもいいと思うんだよね。これからの話は全くノー打ち合わせで言うから広太の意見は知らないけど、ここならお金をかけずにみんなで集まれる。広太だけだったら俺しか来ない家だけど、空がいたらもっと人数増えるでしょ。その方が広太も寂しくないと思うんだよね」


 全部ノー打ち合わせだよ。大人数は好まないが、夏木や斎藤、村尾たちが集まるなら別に、構わない。空がそれでここに住むって言うなら。


 「生活費は広太の両親が負担してくれてるから、気兼ねなくエアコンとか風呂とか自由に使わせてもらってる。家じゃ無駄遣いするなって怒られるからね。広太の家は超お金持ちだからその辺の心配は全然いらない。むしろ節約してたら心配して見にくるかも」

 

 まだ様子を見に来られたことはないが、電気、ガス、水道などの光熱費については確かに、自由に使っていいと言われている。

 本当に見にくるかもしれないし。優は第二の実家のように何度も来ていて、実家ではできない長風呂やエアコン使い放題を満喫していた。

 父さん母さんがそれをしていいと言ったからだ。

 大体いくらくらいかかるものなのかは知らないけれど、ウチにいる時くらいはなんにも我慢しないで全部自由に使って、と最初こそ遠慮していた優に何度も話していた。


 それが空に代わっても同じだろう。

 引っ越す前に父さんは『生活費は任せなさい』と言っていた。

 問題は金じゃないってこと。


 「広太は口が悪くてうるさいから嫌になったら空が占拠すればいいよ。本当に広太のお父さんからそう言われてるんだ。ここは持ち家だから誰が住んでも構わない。広太を追い出した時は、一報くれれば物件は用意するって言っていたし、超優良物件じゃない?俺の家が厳しくなかったらすぐにでも占拠したのに」


 父さん、いつの間に優に話したんだよ。仲良すぎだろ。


 「ここまで聞いて、空はどうしたいと思った?俺のプレゼンは終わり。次は空が話して」


 俺と話す時よりいくらか、抑揚をつけてプレゼンを披露した優が空を見る。

 空の隣に座る斎藤は興味なさそうにスマホを触っている。


 「……俺は」


 「あもしもし夏木ー?今から鏡堂ん家来いよ。迎えにいってやるぞー」



 空が話し始めるのを待っているというのに、斎藤はのんきに電話を始めた。しかも、夏木に。


 「おい、翔也…俺はまだ」

 「いーからいーから」

 『えっ!?空もいるの!?空の声した!!会いたい!行く!今すぐ行く!』

 「んじゃー俺は武藤を呼ぶから、夏木はあのーあいつ呼んで。うるさいヤツ。連絡先知らねんだよ」

 『分かった!!呼ぶ!!』


 斎藤の考えが分からず思考停止する俺と、何でもよさそうな顔をしている優と。

 慌てふためいて困惑しまくっている空。


 「空は留守番な」

 「は!?まじで迎えに行くの?」

 「当たり前だろ〜。隙あらば口説いて俺のにする〜」

 「待っ、まだ何も話してない。しかもこんな時間に危ないだろ」

 「だからお前は留守番で、俺様が迎えに行ってあげるんだろ。鏡堂ー」


 「え、何」


 「朝まで付き合えよ」


 「は、何を」


 「貸しは返せってこと」


 立ちあがろうとする空を座らせて、玄関へ向かう斎藤の後を追う。


 「だからどうやって?」

 「疲れてる中呼び出されてストレス溜まってんの」

 「おう、それはごめん。で、それが?」

 「お前、謝る気ねーだろ」

 「あ、ごめん」

 「ウチも親うるせぇんだわ。朝まで騒がせてもらうよ」

 「それがお返しってことかよ」

 「あぁ。それと、お前ら下手すぎ。空みたいな性格のヤツは説得するんじゃなくて慣れさせるんだよ」

 「ん!?」

 「慣れさせるまでここにいさせて、なーんか帰るのめんどくせーなー、このままここにいてもいーかなーって気にさせんの。あいつん家、複雑なんだろ。まじで下手すぎ。勉強できても人間関係バカじゃ社会出れねーぞー」


 『じゃ』と出て行ったチャラ男に一本取られた、と地団駄を踏む。


 確かに、確かにだ。


 これ以上ない納得だ。


 ん!!



 「優!!お前も今日は!朝まで!だからな!」


 散々デタラメ言いやがって。

 ドシドシ音を鳴らしながら居間へ戻るなり指を差して言い放った。


 「藤ノ木…俺まだ何も…」

 「優」

 「ぇ?」

 「名字で呼ばれるの、嫌いなんだ。優って呼んで」

 「あぁ、ごめん。まだ話し合い終わってないだろ。あいつがいないうちに…」

 「うん。言葉より、体験した方が早いかもね」

 「でも、…」

 「せっかくの夏休みだから、考えるより楽しんだらいいんじゃないかな。勉強も忘れずに」


 空の話を聞けと説いていた張本人が全く話を聞こうとしていない。


 「空、お腹空かない?」

 「は、いや、え…」

 「広太のこと嫌いだとしても料理だけは一流だから実力見てやって。冷蔵庫がパンパンらしてく困ってるみたい」

 「…」


 ずっと困った顔の空が一瞬俺を見た。そうだ、日付が変わる寸前だけど、何か食べさせないと。


 「豆腐食べれる?」

 「あ、うん」

 「広太、アレ作ってアレ。二人分」

 

 アレで伝わると思うなよバカ。


 「ラー油ぶっかけていいんだったっけな」

 「ぶっかけたらスプーンで掬って目に入れてあげるよ」


 心なしか楽しそうな優の声音。

 今朝はガッツリ真剣モードで説教してきて、さっきまではちゃーんと抑揚つけてプレゼンテーションして。

 

 どーせ、無表情で心の中だけで楽しんでんだろ。


 キッチンへ向かう途中に振り返り、二人の様子を伺った。



 「大空って芸名みたい」

 「名乗る度に恥ずかしいんだよ」


 友達同士って感じで笑い合う姿に感動したなんて誰にも言わねえし。

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