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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太




 とりあえず斎藤にだけ空の保護完了報告をした。メールで。簡潔に。

 バイトのこともあるだろうから、そっちで対処してくれ。


 問題の本人は昼過ぎにも関わらず、未だ爆睡。優は居間で勉強中。俺はなんだかソワソワして落ち着かない。

 起きたらまず、どう声をかけるか?

 優に言われたことを気にしているわけでは決してないけれど、関わり方を改善しなければならないのは事実だ。

 そうか、一番は空自身の話を聞くんだ。話せる範囲でいい。

 俺のことが嫌いでやむを得ず家に帰る選択をしようとするなら、俺が出て行くことを伝える。

 迷惑だの気遣いだの言い出したら全く気にしないことも話して、その上でどうするかを真剣に、静かに話す。

 怒らないように、喧嘩にならないように、気を付ける。

 あっちから喧嘩売ってきたらもちろん買う。



 「なぁ」

 「ん」


 時刻はすっかり夕飯時。何度か来客用の部屋を覗きに行ったが全く起きる気配がない。

 不健康すぎるから起こしてもいいかの確認を取る。無許可で行動したらまたガミガミ言われそうだから、仕方なく許可を取るだけ。一人で決断できないとかではない。決してない。


 「寝すぎだよな」

 「怪我人だからね」

 「起こさない方がいい?治りに影響する?」

 「どうかな。朝まで待ってみれば」


 優は、どうしてこう落ち着いていられるのだろうか。気にならないのか?食に無頓着だから空が何食抜いていても心配にならないのか???


 「ほんと。全部顔に出るよね」

 「別にキレてねーし」

 「不服って顔」

 「だぁってさ!いや!これは怒ってるんじゃないからな」

 「別に俺に許可取らなくていいよ。怒る以外は」


 俺ってそんなに顔に出るかな。素直ってこと?長所じゃん。


 「いやーーー。俺じゃ上手く起こせる自信がない。話しかけるだけで喧嘩になりそう」

 

 頭をワシワシとかきむしり、嘆く。


 「じゃあ待てば」


 白と黒しかないのかこいつ。不健康だっつの。


 「あそーだ」


 斎藤に来てもらおう。そうしよう。あいつなら空とも仲良いだろうし、そのまま話し合いに参加してもらって仲介役やってもらおう。


 *



 「てなわけで、起こしてきてくんね」


 斎藤がうちに来たのは23時を回った頃だった。バイトが忙しかったんだそう。疲れてるところ悪いけど、俺じゃできないから。

 玄関で事情を話し、協力してもらう。


 「起きるとは限らねーけど、声だけはかけてやる」


 教室でも話したことのない斎藤が家にいる不思議感覚。優も当然、話したことなどない。

 クラス分けテストの得点は確か、S組内では中の下だった。去年はA組。夏木や武藤とは知り合いってことか。

 あんまりいい噂、聞かないんだよな。女癖とか、雰囲気とか。


 「空のヤツ、一回寝たらまじで起きねーよ」


 チリチリパーマの茶髪に大量のピアス。ヘラヘラして、いつも隣には女子がいる。彼女ではないただの後輩とか。


 「起きてくんなきゃ困るんだけどな」


 独り言のように呟く。

 静かに話そうって頭では分かってんだけど上手く出来なさそうだからさ。仲介役がいる時に起きてほしい。


 「あはっ、首席でも困ることあんの。ウケる」

 「首席じゃねえし。二位だし。空のことでしか困ったことねえし」

 「どっちも変わんねーじゃん」


 チリチリパーマをくねくね触りながらふてくされている様子。


 「とにかく、頼むよ。起こして、そんで絶対家から出ないようにして」

 「は?やること増えてんじゃん」

 「頼むよ」

 「はいはい。起きなくても文句言うなよな」


 全然知らないクラスメイトを家に上げる。優と空以外、初めてだ。


 「この部屋にいる。起きたら、話し合いがしたいってこととご飯食べるか聞いて。俺ここで待ってるから」

 「へいへい」


 意外と物分かりのよいチャラ男だ。よかった。ヘラヘラしてなくて。




 適当な返事をする斎藤を見送り、ドアを閉める。


 『うわっ。すごい怪我』

 

 中で驚いている声が聞こえ、すぐにドアが開いた。怪訝な表情の斎藤が顔を出す。


 「まじで起こすの?寝かしといた方がよくね?」

 「朝からずっと寝てんだよ。そろそろ腹になんか入れないと、治るもんも治らないだろ」

 「えぇー、まじかよ」


 小言を言いながらも中へ入っていった。


 『そらあー?聞こえるー?俺だけど』


 完全にどこかの詐欺師のような言い方。電話してるんじゃないんだから。


 『なー空。夏木とヤった?キスした?早く感想聞かせろー。夏木と付き合うとか、全男のロマンだから早く俺に貸して』


 起こし方の癖強すぎんだろ。ここの壁薄いから全部丸聞こえ。盗み聞きしてるみたいでジッとしていられない。


 『俺が可愛いと思う女っていっつも俺のこと避けんだよなー。アコちもさ、まだ付き合うって言ってくんねーの。メシまでは行けんだけどなー。その先がなー』


 起こすというより語りかけてるだけじゃね。頼む相手間違えたか?


 『一年のあおも可愛いけど付き合うにしては重いし。やっぱ夏木、俺にくんねぇ?なー空ー。起きなきゃ寝取るぞー』


 いや…ちゃんと起こそうとはしてくれてるのか。


 『空。そーらー。ニワクゥン』


 急に裏声で"ニワクゥン"なんて言うから鳥肌が立ってしまった。全然キャラが掴めない。


 『そらー。起きてー。おはよー。夜だぜー。酒飲もうぜー。空ー』




 その後も数分間、声をかけ続けてくれていたがさすがに起きる気配がなさすぎる。

 せっかくのチャンスだが、諦めるか…。


 『おっ。空。おはよ。飲み行こうぜ』


 諦めモードに突入したが、どうやら起きたみたいだ。ドアノブに伸ばしかけた手を引っ込めて、待つ。

 空の声は聞こえないけれど、斎藤の声が独り言から会話に変わった。


 『昨日大変だったんだぞ。バイト飛びやがって。俺が怒られてやったから感謝しろよ』


 『今日もお前の代わりで三時間伸びてやった。感謝して?』


 『お礼は夏木でチャラにしてやるけどどうする?』


 『冗談だって。落ち込むなよ。デコピンすんぞ』


 『鏡堂が空と話したいってよ。嫌なら俺からお断りしとくけど』


 『あと晩飯いるかって』


 『おん、おっけー』



 あまりにも突然、本題を投げかけるものだから何も覚悟を決めていなかった。

 物音がして、部屋から出てくるのだと分かる。


 柄にもなく慌てていると、ニッコリ笑顔を咲かせている斉藤と、その後ろから包帯ぐるぐる巻きの空が出てきた。


 「鏡堂〜。この貸しはでかいぞ〜」


 イタズラに成功したような悪ガキっぽさ。俺がお前にしてやれることなんて何もねーよ。夏木は空のだからな。


 「あぁ助かった。出てきたってことは話し合いしてくれるってことだよな」


 「あん」


 適当すぎる返事に驚きもしないが、こんなんでよくS組に来れたものだ。賢さのかけらもない。


 「斎藤も参加してほしい」

 「まぁじ!?やること増えすぎだろ」

 「頼む」

 「あーはいはい。お返しはきっちりもらうからな」

 


 俺から何が欲しいのか皆目見当もつかないが、できることはしよう。


 

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