side 夏木 あかり
今日の花火大会、一緒に行こうって言えなかったな。
部屋の窓から見える小さな花火に悲しくなる。
浴衣着て、ヨーヨーぶら下げて、手を繋ぐ。
付き合っているのに会えない。声を聞けない。夏休みってもっと楽しいものじゃなかった?
もしかしたら家に来てくれるかもしれない。来ちゃったってはにかみながら笑ってくれるかもしれない。
そう期待して、誰にも連絡しなかったから今こうして一人寂しく、暗い部屋で花火を見ている。
何これ。寂しすぎじゃん?
今からでも恭子を誘えば縁日くらいは楽しめるかもしれない。けど…恭子に会ったら、空を否定されてしまう。
否定せず、私のわがままだけ聞いてもらうなんて都合良すぎるよ…。
もしかしてもしかして、今日のためにたくさんバイトして携帯を買っているかもしれない。そんなことあるわけないのに、一度も震えない画面を何度も確認してしまう。
…もしかして。もしかしたら、…空は私のことなんて、好きじゃないのかな。
置かれた状況を悲観してどんどん気持ちが沈む。花火大会と口に出してさえいれば状況は変わっていたのかな。
目に溜まった今にも落ちてしまいそうな雫を意地でも落とさないぞ、と一人で決意してじっと外を眺める。私は悲しくなんかない。空は空で大変なんだからわがまま言わないの。フラれてないだけいいじゃん!空はまだ私の彼氏でいてくれてる!
大丈夫、大丈夫。
誰もいない部屋で拳を握りしめているとき、ポッケの中のスマホが振動した。
もしかしてもしかしたのかと、期待を胸に膨らませ画面を見る。
映し出された『村尾』の文字に心の底から落胆してしまう。なんで今、あんたなの。
「もしもし」
「な、夏木ちゃん?空とデート中だったらごめんね?今夜は花火大会だし、眩しい光で俺のこと思い出してくれたんじゃないかなって。ほら俺、太陽みたいに明るいおと」
夏休み前と同じテンションで意味不明なことを言うから勢いで終了ボタンを押してしまった。
でもすぐにかかってきた。
「夏木ちゃああん!何も切ることないじゃない!」
「んー、ごめんね?つい…」
「俺はただ、空と夏木ちゃんのラブラブショットを拝みたいと思って」
「あー、ラブラブショット?あはは…どうしよう、まだ撮ってないや」
嘘をついた。一緒にいないのに、一緒にいるみたいに振る舞って。
村尾にまで否定されてしまったら怖い。空なんかやめとけって言われそうで、怖い。
「夏木ちゃん?」
「んー?どうしたの?」
「今、一人?」
「やだなぁ。今日はこの夏一番の花火大会だよ?一人なわけないじゃん。私にはとーってもとってもとてもかっこいい彼氏が…いるんだからさ…」
だめだ。隠せない。声が震えてしまう。
「夏木ちゃん」
「空ね、今トイレ行ってるの。りんご飴ほしいなぁ。買っちゃおうかな」
行きたくてイメージした縁日を思い出す。りんご飴、チョコバナナ、わたあめ。可愛いものに囲まれて、隣にはかっこいい空がいて、楽しい楽しい花火大会。
「夏木ちゃん、我慢しないで?」
「やっぱり?我慢なんかしないで全部全部食べちゃえばいいよね」
「空となんかあった?」
こんな時ばかり、まともに喋んないでよ。
とっくに溢れている涙を必死に拭う。
「武藤さんに話せないようなこと?」
「………」
「夏木ちゃん、泣かないで」
泣いてない。悲しくない。
いつもふざけている村尾の優しい声に、我慢できなかった。
高校生にもなって声を上げて泣いてしまうなんて。フラれたわけじゃないのに。涙が溢れて止まらない。
「ちょっと会えないだけで不安になって重いよね」
「重くなんかないよ!何日も会ってないんでしょ?空は分かってないなぁ。女の子は一日でもほっといたら寂しくなっちゃうのにね!」
「でも、私が誘わなかったの。タイミングなくて言えなかった」
「空から誘わなきゃだよね!ただでさえ愛情表現上手じゃなさそうなのにねぇ。今度会ったら恋愛マスターとしてお手本見せなきゃ」
恋愛マスターが誰のことかは置いといて。
「なんか、村尾と話してたら心軽くなった。ありがとう」
「えっ、それ告白?二股しちゃう?俺が本命ね?あはーん!」
「そんな訳ないでしょ!私の彼氏は空しかありえません!」
「ちょっとだけ俺のスペースちょうだい?ね、ちょっとでいいから!」
「ないない!村尾のことなんてぜーんぜん考えなーい!」




