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君がいたから  作者: HRK
68/152

side 桑島 香織



 「ちゅーした?ヤった?」

 「まだ」


 今日から入ったっていう峰高の先輩とホールリーダーの翔也くんの会話がもろに聞こえて若干気まずい。


 「早くヤっちゃえよ!そのうち、あたしって魅力ないのかしら〜とか言い出すぞ」

 「まぁそのうち」

 「逃げられても知らねえぞ」

 「そうなんだよな〜」


 「あ、で、これはこっちに並べといて!俺在庫確認してくる!」


 オープン前の準備でリーダーは大忙し。夏休み初日にバイトってなんか、虚しい。


 「香織ー!一昨日発注してくれたよな?」

 「え?はい」

 「生樽の数合わないんだけど発注済みFAXどこに置いた?」

 「えっ?いつものファイルに入れたはずですけど」

 「んー、そ!分かった!店長!酒屋に聞いといて!俺買ってくる!」

 「おー、ありがとー」


 おかしいな。いつも通り発注して、ファイルにしまって、、、。んん、、。



 翔也くんは優しくてかっこよくて超仕事ができるリーダー。今みたいに、後輩のミスは進んで尻拭いしてくれて、落ち込んでる人がいたら率先して励ましに行ってくれるような人。

 おまけに勉強できて可愛い彼女さんもいるから人生勝ち組。

 

 お店に置いてある貸出用のオンボロ自転車で酒屋に行くなんてことはしょっちゅうある。前カゴに19リットルの生樽を積んで帰って来れるのは翔也くんだけだからね。いつかカゴが取れてしまうってみんなビビっちゃって。


 「空くん、初出勤早々ごめんけどおつかい頼んでもいい?」

 「あ、はい」


 そんな翔也くんのお友達さんも結構イケメン。

 友達が食べに来ることはよくあるけど働くのって初めてかも。超仲良しなんだろうなー。


 「近くの八百屋でネギを20本くらい…いや、15くらいあればいけるかな。レシートもらってきて〜」

 「はい」


 昨日思ったよりもたくさんのお客さんが来たから、食材が足りないって調理スタッフがぼやいている。


 「あーごめん!ジャガイモとトマトも10個ずつ!」

 「はい」


 *




「いらっしゃいませー!」


 

 「空!レモンサワー3つと生5!ジョッキなんでもいいからとりあえず作って!その後生7!」

 「はい」


 出勤初日でまさかのバカ忙しい日にぶち当たっちゃって可哀想。教えること全然教えられてない。


 「後で取りに来るから置いといて!」


 しかも人が足りてない。昨日混んだから今日は混まないだろうって読みが大外れ。ウチの店長こういうところポンコツなんだよね。


 「香織おはよー!店長おはよー。なんか忙しそうね。ゆっくり一服しようと思って早く来たのに〜」

 「あああ、橋田さんおはよう、待ってた、すごく心の底から待ってたあああ」

 

 店長、泣きそうだし。


 高校三年生の橋田静さん。受験生だけど無理を言ってシフトに入ってもらっているめちゃくちゃ仕事ができる先輩。


 「今日予約はー?」


 制服に着替えながらボードマーカーを手に取った。


 「あー、んーっと、ね、あるんだよ。あー、忘れた!翔也が知ってる!」

 「はぁあ、予約受けたら書いとけって言ってんじゃーん!翔也ー!?翔也どこー?翔也ーー!!」



 ジョッキをぶつける音やお客さんの笑い声にかき消されないように大きな声で翔也くんを呼んでいる。


 「2階にいんのかな。まあいいや。後で書かせよう」


 「あ、橋田さん、ドリンカーに新人くんいるから挨拶よろしく!」

 「新人!?この忙しい時に!?誰かついてあげてんの?あたしドリンクやる?」

 「あ、いや!一応翔也がついてくれてるんだけど…」

 「いないじゃん!!ほったらかして!」


 お店のロゴ入りエプロンを腰に結びながら丹羽さんに軽く挨拶をしてキャンキャン言っている。

 あたしは間に合っていないお通し作りに勤しんでいて、きゅうりが上手に切れない。


 「空ごめん、ありがとう!ビールまだたくさん来るから注いどいて!」

 「ちょっと翔也!」

 「あっ?いたの?全然見えなかった」

 「今日の予約書いといて」

 「あー、忘れてた」

 「あと新人ほったらかすな!あたしがホール行くから」

 「まじ!じゃー、香織もホール頼んでいい?俺作っとくから!」


 「えっあっ、はい!分かりました。すいません、きゅうりぐちゃぐちゃで…」

 「いーよいーよ、どうせ分かんねーから」


 「空ー!」


 交代してすぐにきゅうりを美しく千切りしながら丹羽さんを呼んだ。


 「ドリンク分かんないのあったらでかい声で呼んで!俺これ盛り付けてから行くわ!」

 「分かった」


 翔也くんはホールリーダーとして働いているけど元々はキッチンの人だったらしい。

 キッチンの仕事ももちろんできるけれど、ふざけてホールに出てくるうちにホールメインになって、気付いたらリーダーだったって話していたっけ。

 キッチンのリーダーは他にいるからお店的にはホールリーダーで都合よかったのかも。


 「丹羽さん、ハイボールとコークハイ2杯ずつお願いします」

 「翔也ー」

 「あいよ」

 「ハイボールどれ」

 「あー、シンクの右下にさ、茶色い液体」

 「ヒゲおじ?」

 「そー!それ1.5プッシュで炭酸!ビールサーバーの一番右側手前に倒したら出てくる」

 「おっけー」

 「コークハイは炭酸じゃなくてコーラね!」

 「おっけー」


 


 「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」

 「20人なんだけどいける?」

 「少々お待ちくださいませ、確認いたします」


 20人って冗談でしょ。予約しろよ!!


 「あぁ、翔也くん、20名の団体…」

 「あー、っと、待って。静!!20名、3階?」

 「えぇ、人足りてないのに…いいよ!入れて!」


 「お待たせいたしました。お席ご案内いたしますね」


 すでに80人くらい入ってクソ忙しいのに20名はバカでしょ〜〜〜!!!!


 「翔也!!高橋来てくれるからドリンクもうちょい頑張れる?」

 「よゆー!」


 あたしが余裕じゃないんですが…!!!




 「おっすー!おはよー!」

 「香織おはよー!」


 ああああ!来たあああ!18時組来たー!!


 「何これ、今日やば!」

 「久々3階まで入ってんの見たわー」

 「え!新人!?誰誰!!」

 

 「あ、丹羽です」

 「どこ高!?」

 「峰高です」

 「まぁじ!!翔也の友達!?よろしくー!」

 「よろしく!!下の名前は?」

 「大空です」

 「かっこい!!」

 「翔也どこいんの?」

 「あ、なんか上行きました」

 「俺、八島って言いまーす!キッチンだけどよろしくー」

 「俺は久野でーす、ホールでーす!よろしく!」


 続々と18時入りの人が来て一安心。

 18時半からは大学生の高橋くんも来るみたいだし。よかったよかった。




 「おはー、俺いる?帰っていい?」

 「まじで来てくれてありがとう!本当にありがとう!」

 

 大学三年生で割と忙しい高橋くんが気怠げに出勤。


 「今どんくらい?」

 「160くらいかな」

 「やば。今日何曜日だっけ」

 「木曜」

 「だよね。バカ忙しいじゃん」

 「うん、だから早く働いてください」

 「リーダーの言うことは聞いとかないと〜」


 翔也くんと同じでキッチンとホールどっちもできる貴重な人材。


 ここは年齢差を気にせずほとんどの人がタメ口で会話していて、みんな仲が良い。誰かが誰かの悪口を言っていることがほとんどない。たまに冗談混じりで「あいつ使えねー」とかは言うけど半分本音で半分冗談だから笑いが起きる。

 職場の空気的にはすごくいい場所。ただちょっとみんな気が強くて怒ったら怖いんだろうなって感じ。


 「空!休憩行こ!」

 「新人?どーもー、高橋ですー。よろしくね」

 「丹羽大空です。よろしくお願いします」

 「へぇー、芸名みたい。賄いある?なんか作ろか?」

 「あー自分で作ろうと思ってたけど作ってくれんなら!」

 「しゃーねえな!アレルギーない?」

 「多分大丈夫です」


 ここは店長が甘々で優しいから賄いは全部バイトに任されていて、ベロベロにならなければ何をしてもいいよと言ってくれている。

 そんなんで経営大丈夫なの?って最初は不安だったけれど、全然大丈夫みたい。むしろ痛くも痒くもないって。


 「スイカバー食べたい」

 「後でな」

 

 レモンサワーにスイカバーを突っ込んだ商品が500円で売られているけれど、レモンサワーもスイカバーも原価100円以下だから少なくとも300円の利益があるとかなんとかって説明された。


 コンビニで買うくらいならうちで食べて行きなよって店長が言っちゃうくらいだし。


 「お待たせ!特製スパイシー焦がしニンニク焼き豚丼!温玉乗せ」

 「うっわうまそ。高橋コウジありがとう!空!行こう」

 「フルネームで呼ぶなって!」

 


 休憩も賄いも退勤後の飲酒も全部自由。スタッフ同士仲も良くて最高の職場。

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