表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君がいたから  作者: HRK
65/152

side 鏡堂 広太




 夏休み前最後の放課後。空はまだ答えを出していない。

 あれだけしっかり伝えたから、無かったことにはしないはずなんだけど…。



 「夏木ちゃん、、明日からしばらく会えないけど…俺はいつでも夏木ちゃ」

 「うん、わかったありがとー。私も村尾のことは少しだけ忘れておくから大丈夫だよ」


 「なんっにも大丈夫じゃないんだけど!ていうかさ」

 「話の切り替え早っ!」


 いつもの馬鹿みたいなテンションから急に真剣モード。真面目に話すことできるのか。


 「空って給料未払いだったのかな」


 誰も触れなかった話題。

 ただクビになっただけなら笑い話にできるけれど、空の場合はもっと複雑な大人の事情が絡んでいて、簡単に触れていい雰囲気ではなかったのだ。


 「…そうなんじゃない?携帯買えてないみたいだし」


 本人は斎藤翔也と話があるとかなんとかでここにはいない。


 「校則違反って、お店側に不利なことなくない?どうしてクビになったのかなってずっと考えてるんだけど…」


 …確かに村尾の言う通りだ。


 学校にバレた場合、学校側から解雇を要求することはあるだろうが店側が解雇するとは考えにくい。

 となると給料は支払われるはず。…そうでなくとも働いた対価はどんな状況でも支払われるべきだが。


 「…先生に没収された、とか」


 …そうか。夏木の言葉で理解した。

 あの日、今まで大人しかった空のお家事情が一変したのは恐らく、親にも学校にも無断でバイトをしていたのが何かのきっかけで学校にバレてしまい親へ連絡が行ったから。

 没収したのは先生ではなく親。


 一週間学校に来なかったのは精神的ショックからだろうか。


 まじであいつ誰にも話さないから何にも分からないじゃないか。

 たまには愚痴の一つや二つ、言ってほしい。俺じゃなくてもせめて村尾とか夏木とか。


 「ま、やっちゃいけないことやってたわけだし、自業自得だよね」


 武藤は相変わらず感じ悪い。

 それでも夏木の友達なのかと疑いたくなる。


 

 「空っていい奴なんだけどなー。なんかこう、もう一歩の壁が分厚いっていうか。もう少し心開いてくれないかなー」


 馬鹿っぽく見える村尾のこういう発言が意外と核心をついていてなかなか侮れない。

 それなりに会話はするし、側からみれば俺たちは一つのグループだ。

 無口な人柄として見ることもできる空の関わり方を、あえて心を開いてくれていないと捉えられるのはもしかしたら村尾の人間観察能力の高さゆえなのかも。


 普通の人だったら…。


 「空はいつもあんな感じだよ?村尾だから冷たいんじゃない?」


 …気付かないだろう。


 無口な空も空なんだけど、なんていうか、もっと、って部分を感じてしまう。どちらかというと気が強いタイプだと思うんだよなぁ。


 「冷たいのはいいんだけどさ。もっと笑えるでしょ!って感じ。いっつもつまんなそうにしてさー。人生楽しまなきゃ損じゃない?」


 「えー?そんなの藤ノ木くんも一緒じゃなーい!」


 そうそう、暗いのは空だけじゃないんだ。ここで優にも『もっと笑えるだろ』と言うなら話は違ってくる。優はこれが素だからな。


 「藤ノ木はなんつーか、そのまま寡黙なイメージでいてほしい!けど空は黙ってたら、なんか怖いし、…変な意味じゃないんだけど、いつも泣いてるみたいに見えちゃうんだよね。これって俺が変なのかな」


 変じゃない。人を見る目があって、周りにそう思わせてしまうほど空があらゆることを我慢しているということだ。


 「なんかごめんね!よく知らないのに偉そうなこと言っちゃって!忘れて忘れて!空遅いねー!」


 「帰ったんじゃない?そもそも約束してない訳だし。あいつのことだからとっくに斎藤と帰ってるかも」


 まじで感じ悪いな。そんなに空のことが嫌いか。お前だけ帰れ。


 「あのさ!」


 今日は村尾がよく喋る。


 「夏木ちゃんのことが心配なのは分かる!分かるけどね!空は優しいよ!いい奴だよ!大丈夫!武藤さんも優しいよね。こんなに心配してくれる友達って最高!夏木ちゃん幸せ者だね〜!」


 嫌味にならないように変なテンションで言えるのはこいつの最大の長所だな。


 


 「それがこうなってああしてどうでこうで」

 「ははっ、アホらし」

 「俺も思った。馬鹿じゃねーのって、そしたら…」

 


 「…超笑ってる」



 廊下から聞こえて来た男子の会話。盛り上がる声はどんどん近付き、教室後ろ側のドア部分から見えた空は楽しそうに笑っていた。

 夏木と武藤は信じられない、と言いたげな表情で固まっているが、俺は胸が熱くなるような感覚だった。



 「で!こうでこうでこうで、あーでそうなって!」

 「はははっ、やばすぎ」


 

 「遅いよ!俺も行けばよかった!」

 「ごめんごめん、つい話が止まらなくて」


 

 空は笑っている方が何倍も空らしい。我慢してぶすくれている姿は似合わない。


 「夏木ー、今度俺のバイト先来いよ。酒飲めるぞ〜」

 「あ!いけないんだ!リーダー失格!」

 「空もいるぞ〜」

 「え、行く」


 「そんじゃ俺は帰る。可愛いアコちが待ってるからなー」

 「アコ…?この前ちゅっちゅしてたの別の子だったんじゃ…?」

 「あれはセフレ。アコは別。じゃーな、モテない非リアども〜」


 いまいち掴みどころのない斎藤翔也に馬鹿にされたが別にどうでもいい。空が楽しんでいるならなんだって。


 「むっかつく!あいつなに!?俺だって本気出せばセフレの一人や二人!!!」

 「……うわ、村尾がそういうこと言うとまじで引く」

 「え、ごめんね、嘘だよ、俺は夏木ちゃん一筋だから…」

 

 こんな風に言っているけど実際、夏木と武藤にドン引かれてもノーダメっぽい。メンタル強いな。


 「斎藤のところでバイト始めるの?」

 「うん。さっき店長にも話通してくれた」

 「大丈夫?あいつと同じところで…」

 「大丈夫だよ。むしろ知り合いがいた方が働きやすいかも」



 「なー空!何話してたんだよ!超楽しそうだったな!」

 「翔也のバイト先に来る客の話」

 「へえ!!バイトってどう?やっぱり大変!?」

 「最初は覚えることたくさんあるからね。居酒屋はもっと大変っぽい」

 「いーないーな!俺もバイトしたいけどバレたら面倒だし、勉強できなくなるからなー」

 「夏休みだけ働いたら?」

 「そんなことできるの?バイト探すー!そんでみんなと遊ぶー!」


 盛り上がる放課後の教室。明日からは夏休み。高校生にとっての一大イベントだもんな。楽しくなるよなー。


 「私もバイトしよっかなぁ。なんか楽しそう!」

 「アカリはやめときなさい。校則違反」

 「えー!恭子も一緒にやろーよー!」

 「進路に影響したらどうすんの?」

 「バレなきゃ大丈夫だよ」

 「バレてるじゃん」

 「それはたまたまー!」

 

 学級委員みたいな奴だな。夏木に対してだけ。

 しかも遠回しに空を攻撃してる感じがどうにも好かんな。


 「アカリには勉強教えてもらいたいから予定空けといてほしいな」

 「えへっ分かった。いつでも空いてる」


 全員心の中で『チョロい』と思ったことだろう。彼氏に言われたらなんでも聞いてしまうのが恋人ってもんなのかな。


 「夏木ちゃん、、俺にも勉強教えて…」

 「いいけど、私よりテストの点数高いよね…?」

 「気のせいだよ!最近下がって来てるんだよね…このままじゃ来年はB組…!?やばい!!やばいよ!!」

 「村尾はやればできるんだからちゃんとやりなよ」

 「えっそう思う?ほんとにそう思う?頑張っちゃおうかな〜んへへんふふんへへへ」

 「ねぇ気持ち悪い!」


 本当に気持ち悪い笑い方でくねくねするからつい顔が引きつる。

 けどまじで、村尾は元々S組だったんだからやればできるはずなんだよな。学校が楽しくて勉強どころじゃないって言ってたっけ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ