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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太



 夏休みまであと少し。ムシっとした季節が暑苦しい。

 空をどうにかして実家から出そうと考えるけれど、家を借りるにも審査やらなんやらでうまくいきそうにない。


 「あのさ、高校生が家を借りるってなると親名義でしか借りられないの?」


 母の豪勢な手作り料理を楽しむ夕飯時、我慢できずに相談を持ちかけた。会話は食事が終わってからという家のルールを忘れるくらい切羽詰まっているみたいだ。


 「やむを得ない事情があれば親戚か、それ以外でも対応してくれるとは思うよ。ただし事情にも色々あるからね、大家さんによるんじゃないかな」

 

 やむを得ない事情か…。虐待ってやむを得ない事情になる?ならない?もっと貧弱な奴だったら抵抗できないと判断されて国が動いてくれる気もするけど…。あいつ見た目は強そうだからな。


 「友達が困っているのかい?」


 父さんに頼めば名義くらい貸してくれると思うけど、問題はそこに住むのが俺じゃないってこと。はじめの目的通り一緒に住めば引っかからないのか…?


 「…空がさ。…俺、空と住みたい。空は望んでないけど俺が見てられなくてさ」


 「うん、そうか。そういえば母さん、引越しの目処はつきそうかな?」


 「え?引越し?」


 話が終わってしまい、やっぱり現実的じゃなかったか…と落ち込んでいると父さんから衝撃的な発言が。俺、何も聞いてないぞ。


 「こうちゃん、あたしたち、東京の一等地に新しいお家を建てようって話してたの。というか建てちゃったの」


 「え、いつの間に?」


 「こうちゃんは学校のこともあるからここに残ればいいんじゃないかと思ってギリギリまで言わないことにしてたのよ」

 「ちなみにこの家なら、持ち家だから誰が住んでも誰にも何も言われることはないよ。生活費は父さんに任せなさい」


 「えっ」


 「もし空くんが一人がいいと言うなら広太に別の物件を用意すればいいのだろう?問題があるとすれば、空くんの親御さんが許可を出してくれるかどうか。上手いことできるんだろうね?」


 「え、あぁ、うん、なんとかする」


 「私たちの新居は夏休み前には住めるという話だから、この機会に話せてよかったよ。予定ではもう少し後にしようかと話していたからね」


 なんか、拍子抜けだな。こんなやり方ありだったのかよ。


 「さぁさ、料理が冷めてしまうよ」


 

 本来、親って、こういう存在だよな…。俺の親はちょっと甘い部分もあるかもしれないけど、親が子どもを殴るなんて、絶対あっちゃいけない。行き詰まった時に助けてくれるのが親のあるべき姿だろ…。





 *

 


 夕べの家族会議の結果を優に報告したが『空が行くかは分からない。意外と頑固だよ』と忠告されてしまった。


 頑固なのは知ってるけどあいつに拒否権ないからな。


 「なーなーなーなー!空来たって!一週間ぶりに!鏡堂たちも行こうぜ!!」


 わざわざ親切にA組から知らせに来てくれた村尾に感謝。早速伝えに行こう。




 「ねーえ!私も空と話したい!そこどいて!!」


 F組に近付くに連れ、夏木の声が大きくなっていく。空の奴、俺らの他に話す相手いたのか。


 「俺んとこでバイトしねえ?校則違反バレてクビとか絶対ないから」

 

 バイト?クビ?

 聞いたことあるようなないような声に首を傾げつつ教室を覗き込むと、確か同じクラスにいたような男が空に絡んでいた。


 「居酒屋なんだけど超楽。俺の紹介で入ってくれたらお互い一万入る。おいしくない?」

 「え、空、クビになったの?嘘、本当に?」

 「時給だって、高校生にしては優遇されてんだぜ?千円超え。どう?どう?やらない?」


 問いかけを華麗にスルーされていて少しだけ可哀想。


 「俺、時間帯リーダーやってるから他よりシフトの融通利きやすいと思うよ」

 「えっ、あんたがリーダー…?空、絶対やめた方がいいよ」

 「まじでさ、体験だけでも来ない?案外楽しいかもよ」

 「…考える」

 「空!考えなくていいの!この人性格悪いからやめといた方がいいよ!」

 「夏木さ、俺のこと好きなの?」

 「はっ!?なんでそうなるの!?かなり意味不明!」

 「やたら絡んでくるじゃん」

 「違う!空に絡むから引き剥がしてるの」

 「あ、そ。じゃ考えといて」


 用件が済んだ斎藤翔也は颯爽と去っていった。あいつはA組から上がってきた異才だったな。

 話したことはなく、いつも隣に女子がいる印象だから空との会話は少し意外。そもそもクラスが違うのになんでバイトに誘っているのか。知り合いという認識もない。意外や意外。



 「空。おはよう。折り入った話がある。ちょっといい?」

 「えっ。次は鏡堂……。私もお話したいのに」

 「あぁごめん借りるわ」



 


 「俺と一緒に住もう」


 廊下に出て開口一番。優と俺と三人。村尾がぼっちの夏木を慰めているから気にせず真剣に話せる。


 「またその話」

 

 深い溜息に掻き消されてはいけない。


 「俺の親、引っ越すんだ。俺一人残して」

 「へえ」

 「一人は寂しいから、一緒に住んでよ」


 あの家でどれだけ怪我をした?殴られた傷は癒えた?あんな家でも帰りたいって思うのか?


 「……考える」

 「夏休み」

 「………」

 「…始まる前に決めて」

 

 俺がいかに本気で言っているのかを伝えなければならない。拒否するな、我慢するなと視線に込める。


 「……もし仮に一緒に住んだとして、お前に何のメリットがある?」

 

 空も同じように真剣な眼差しで俺を見る。


 「損得勘定で言ってないからメリットと言われても別に、俺が得するわけじゃない。ただ、これ以上見て見ぬ振りをするのが嫌なのと、空は絶対、いい奴だから、一緒に住んだら楽しくなると思ってる」


 「…俺が本当は家族に暴力を振るっていたとしたら?」


 妹が言っていたやつか。あの時はほんの一瞬だけ、そんなことがあるのかと疑ったけれど。


 「ありえない。お前は善悪の区別がつかないような馬鹿じゃない。人の家族をこんな風に言っちゃ悪いが、狂ってるのは母親と妹。空は何も悪くない」


 「………なんで言い切れるんだよ」


 「んー、なんとなく。まぁとにかく、一緒に住むったって手足拘束して外に出さないとか言ってるわけじゃないんだからさ、やるだけやってみない?嫌だったら俺が出て行くし。とりあえず、あの家から出よう」


 「……………」


 「俺と二人きりが嫌だったら優もいるし」

 「勝手に決めるな」

 

 空は絶対に悪くない。いつも歯食いしばって我慢してるの分かってるよ、ばーか。


 「考えといて」

 「…ん」


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