side 夏木 あかり
「空ー!駅まで一緒に帰ろー…えっ」
昨日と同じようにF組へ行くと昨日の空とは全然違っていた。
「…どうしたの?…血、付いてる」
しわくちゃなワイシャツに赤黒く変色した血が付いていて口の端が切れている。…喧嘩?
「他校の人に絡まれた」
…嘘。だって目を逸らした。前にもこんなことあったよね。どうして何も言ってくれないの?言いたくない?これ以上踏み込んだら私、デリカシーないって怒られる?
「…空」
「夏木ー!俺とデートしようぜ〜」
…………。
「…どっか行って。今はまじであんたと話したくない」
「そんなこと言うなよ。なっ、丹羽くん?夏木借りていい?いいよね。じゃ」
「ちょっ、はぁっ?」
突然現れた斎藤翔也に強引に肩を抱かれて空との距離を離されてしまった。
「なー、俺とデートしよ。ホテルとかどう?」
「ちょっと!離して」
「そんな怖い顔すんなよ。ジョーダンじゃん。冗談」
「つまらない冗談なんかどうでもいいの。私は今、空と話してた。どうして邪魔するの?」
こいつのことはすごく好きじゃないからつい言い方がキツくなってしまう。
「…後輩に振られちゃってさー。ホテル行こって言ったら『そんな軽い人無理!』って怒られちゃった。爆笑」
「逸らさないで。空、怪我してたんだよ!?手当てとか、話聞いてあげるとか…」
「そーゆーの、辞めたら?」
「…は?」
「男ってプライド高い生き物だから女がなんか言うとうざがられるよ」
「そんなの、言ってみなきゃ分からない…。大体、斎藤は空の何を知ってるの?何も知らないじゃん。昨日初めて知ったくせに、分かったようなこと言わないで」
「じゃあ夏木はあいつの何を知ってんの?あの怪我は誰にやられたのか、あの血は誰の血か、あいつは本当にお前を好きなのか」
何を考えているか分からない表情で酷いことをつらつらと。
女癖が悪くて不真面目で平気で女子を傷付けるこんなやつ。まじで嫌い。超嫌い。大っ嫌い。
「どうしてそんなこと言うの…?空は…空は誰よりも優しいから…」
「優しいから付き合ってくれてるのかもね。夏木さ、せっかく可愛いんだから性格ブスにはなるなよ。もったいないぞ」
『じゃ』と言って去っていった斎藤に言い返す言葉がなかった。
優しいから付き合ってくれてる。もしかしてもしかしたらそんなこともあるのかもしれない。でも、それとあの怪我は関係ない…。
空はバイト行っちゃっただろうし、恭子に言ってもその通りって言われちゃうかもしれない。
誰にも相談できない。空は優しいから、そんなことしないって、誰かに認めてもらいたい。
*
「アカリ?元気ないじゃん。どしたの」
翌日、空が学校を休んでいると知ったのはお昼休みの時。午前はなんとか取り繕っていたけれど空が学校に来ていないならもういいや。
「空が来てない」
「クラス違うんだからいてもいなくても変わらないじゃないの。どうせ寝坊してめんどくさくなったんでしょ」
ん〜そうじゃない。一瞬でも会える楽しみがなくなっちゃったのと、昨日の怪我のことが心配。
けどこれを恭子に言ったらきっと、「ほらやめときなさい」って言われちゃうから何も言わない。
寂しい。
「夏木ちゃん!部活行くけど夏木ちゃんも行かない?」
キラキラ輝く眩しい笑顔で近付いてくる村尾を蹴散らす気力もない。
「連絡取れないって不便〜」
「あぁ、空のこと?もうすぐ携帯買えるんだよね?一番に登録してもらうって約束したんだー」
なんで村尾が一番なの。私でしょ。
「空ってツンデレだよね〜。俺のこと嫌いとか好きじゃないとか言うけど結構話聞いてくれたりいいとこあるんだよね〜」
話聞いてくれたり…ツンデレ…?
「好きな人ほど冷たくしちゃうタイプなんだろうなぁ」
村尾の、なんの悪意もない言葉が今はすごく辛い。それ、私と正反対。
「帰る」
「えー!来てくれないの…?」
子犬のような瞳で見つめられるのも辛い。悪意がないと分かるから、斎藤の言葉が本当にそうであるかのように思えてしまう。
「わっ!」
教室を出ると廊下の隅でイチャイチャラブラブしているカップルがいた。村尾の大きな声にも反応せず、見せつけるようにキスなんかしちゃって。
本当に嫌い。
「ねぇ、あの人ってS組に昇級した斎藤って人だよね?去年同じクラスだった?どんな人?頼んだら勉強教えてくれると思う?」
「知らない。私あいつのこと大っ嫌いだから名前出さないで。まじで嫌い」
「えぇ…夏木ちゃんこわぁ…」




