side 夏木 あかり
「男って、男同士の秘密事的な、よくあるよね。男の友情というか」
今朝の仲間外れ感を放課後、恭子の家で愚痴る。
「そういうのもあるんだろうけど、あいつはちょっと別なんじゃん?」
「別ー?」
何を言っても『不良だから』とか『怖いから』としか言わなかった恭子が真面目に話を聞いてくれるようになってきた気がする。
「元ガリ勉の丹羽があそこまでグレるなんてさ、よっぽど家庭が荒れてるんじゃん?分かんないけど」
「んー。そうなのかもしれないけどー。村尾が知ってるなら、私にも教えてほしいなって」
村尾には申し訳ないけど、まだ二人はそこまで深い仲じゃないと思うんだよね。鏡堂や藤ノ木とは違ってクラスも中学も関係ないし。
「彼女だったら余計に言わないんじゃない?アカリだからこそ」
「えー?私だからこそ?」
「心配かけたくなかったり、色々さ。まっ、その時が来たら話してくれるっしょ。今はとりあえずそっとしとけば!」
『好き』だけでは知り得ないこともあるんだと知った高校二年生。
『好きだからこそ』知りたかった空のたくさんの事。
私はずっと、空だけが好きなんだよ。
「んーー。恭子がそう言うなら」
本当は腑に落ちないけれど空の気持ちを無視するのはいけないよね。大人しくしていようと思う。
「恭子は好きな子いないの?」
「めっちゃ急に話変わるね」
「え?変わってないじゃん!」
「あ、そう?まぁいないけど」
「ふーん、つまんないの」
コンビニで買ったじゃがりこを二人無言でカリカリ食べ続けるシュールな時間。カチカチと音を鳴らしながら進む時計だけが動いているみたい。
「そういえばさ、アカリってお菓子作り上手よね」
「んー、お菓子作りは好きだけど自分用だよ」
恭子の口からお菓子作りなんて言葉が出ると思わなかった。恭子はどちらかと言うとサバサバしていて、手作りするなら買えば?って言うタイプだったから。
「マドレーヌの作り方教えてくれない?」
「いいけど、そんなに上手にできないよ?」
「いいのいいの」
急遽始まったマドレーヌ作り。恭子の家には何度も来ているけどキッチンを借りるのは初めて。一人暮らしの台所事情はなんとなく良くないイメージが多い。
食べかけのカップラーメンや何日も放置された使用済みの食器たちが頭に浮かぶ。
ワンルームの奥にのれんで隠されていたキッチンを、前を行く恭子に隠れてそーっと覗き込むとそこは私の想像とは全然違っていた。
「あれ?」
拍子抜けして思わず声を上げると恭子は「どんなイメージ抱いてるの」と笑った。
「あたしも一応女だからさ、キッチンくらいは綺麗にしとかないとね」
「女子力だぁ〜!」
私も見習って女の子らしくしていないと!!
*
「テスト前にアンタたちお泊まり会してたけどさ」
「うん。楽しかった!!」
空と自分の家に帰るドキドキ感と、部屋の中で二人きりというこの上ない幸せで正直勉強どころではなかったっていうのが本音なんだけど頑張って平常心を保ったんだよね。
「何もされなかった?」
「いくら不良だからって家に行った瞬間に人が変わるなんて、空はありえないよ」
「あー、そうじゃなくて」
恭子はマドレーヌの素を混ぜる手を止め、若干気まずそうに私を見た。
「え?」
心配と疑いの目を向けられてようやく言いたいことが分かってしまった気がする。
「ちょっとやだ!ないよ!何も!」
「ほんとに?」
「ほんとに!勉強してちゃんと別々の布団で寝たから!大丈夫!」
「ふーん?」
いかにも疑ってます!みたいな視線送られても本当のことだもん!
「もー、空のこと認めてくれたんじゃなかったの?不良って言わなくなったと思ってたのに」
「認めてるとかそうじゃないとかじゃないけど、もしアカリになんかあった時は真っ先に疑うって決めてる」
「ねぇ!なんで!!?」
「この前廊下でF組の人とすれ違ったんだけど」
そう話し始めた恭子の表情は、さっきまでの冗談めかした雰囲気とは違い真剣そのもの。私の顔までこわばってしまう。
「一年の頃、丹羽が学校に来てなかった期間って結構長かったらしいじゃん」
「うん、、そうなの?」
まだ空のことは模索中で詳しいことはあんまり分からないんだけど、、。
「女遊びが激しくて他校の女子を妊娠させたからその関係でゴタついてたらしくて」
「えぇ…。それ本当なの?」
「本当かどうかは分からないけどさ、火のないところに煙は立たないって言うから」
「カンニングのこともあって噂話は信じちゃいけないって分かってるけど、あたしはまだどうしても丹羽を信じきれない」
恭子が空を悪者にしてしまうのはいつも私のことを心配してくれているからだ。気持ちを分かっているから簡単にそんなことないとも言えない。私だって空の全てを知っている訳じゃないし。
だからこそ、盲目的に愛しているねと思われるのは嫌だからしっかり、この目で空の周りに飛び交う噂の真相を確かめたいと思ってる。
疑っているわけではなくて、信じたいから。
「私は大丈夫だよ!私に何かあったら恭子のスペシャルパンチが炸裂するし、恭子が絶対守ってくれるもん!私の本命は恭子だよおおおおお!」
空気を和ませようと大げさに抱きついたら恭子が慌てて声を上げた。
「わぁ!!こぼれる!!」
「あはははっ!床に落ちたら掃除が大変だね」
ちょっと心配性だけど、すっごく優しい恭子にも、いつか素敵な彼氏ができたらいいね。




