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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり



 私があまりにもビービー泣き喚くものだから、空に『帰って』と強く言われてしまった。

 追試を受けてほしい理由を熱弁しても、キスをしても響かないなら一旦距離を置く必要があるのかもしれない。

 向こうは自分のことでいっぱいいっぱいなんだから、彼女である私くらいはそっとしてあげるべきなのかな。

 でも、学校辞めてほしくない。

 鏡堂が無理矢理にでも追試を受けさせてくれていれば報われると思うんだけど…。

 「はぁ」

 思わずためいきが漏れてしまう。


 それにしても私の痴漢事件がF組にまで広がっていることを考えると明日からの学校が憂鬱。あんな風に、自分から仕掛けたって思われていたら尚更。

 帰宅ラッシュの真っ只中である満員電車に乗る勇気はなく、今日だけは遠回りのバスで帰路に着いた。






 翌朝、恭子とたまたま駅で合流して一緒に登校した。

 昨日のことを話せずにいたから別れ話をされたらどうしようって相談がてら愚痴る。


 「空もさ、あんなに怖い顔しなくていいのに」

 「人の彼氏のこと悪く言うのはよくないって分かってるんだけどさ」


 すごくすごく心の底から怒ってるよねって肌で感じる視線を思い返して、合わせる顔がないと落ち込む私に恭子は更に追い討ちをかけようとしている。


 「不良でヤンキーだから辞めとけって言うんでしょー。聞き飽きた」


 これから言われるであろう恭子の口癖と化した辞めとけコールを聞くまいと先に言うが、恭子は煮え切らない表情で私を見つめた。言いたいことが違ったらしい。


 「あいつ、目が合うとすごい睨んでくるじゃん。目付き悪い。怒ってなくても怖いよ、あれは」

 「そんなことないよ。普通の時は普通。でも昨日はまっじで、すっっごく怖くて終わったーって思ったの」


 『あたしには違いが分からん』と頭の横で右手をひらひらさせた恭子も、なんだかんだで空のことを気にかけてくれているみたいで嬉しい。




 教室に入ると何やら騒がしい。こういうHR前の騒ぎの中心にいるのは大体同じ人。


 「おうおう!そんでそんで!!」


 今日も元気だねーと横目に通り過ぎるとやっぱりそこには村尾がいる。また新しい友達の輪を広げてA組同盟広げてるのねー。


 「カンニングはでっちあげ。空の実力」

 「うぉおお!!だよな!!分かってたよ俺は!!」


 …ん?この声…。


 「夏木ちゃん!聞いた?空、カンニングしてないって!」


 騒ぎの中心にいた人物がいつの間にか私の目の前にいる。

 カンニング?空?してない?


 「え?」

 「も〜〜〜う!夏木ちゃんしっかりしてよ!!F組、行くんでしょ!」


 村尾と鏡堂の勢いに乗せられるまま廊下を走っているけれど、段々と頭が追い付いてきたみたい。

 A組の仲良し村尾同盟の中に鏡堂の姿を見つけて、鏡堂の声を聞いて、おかしいな?と考えていたのがやっと理解できた。

 空は昨日、追試を受けたんだね!?村尾はその結果を聞いてたんだね。


 走りながらブワァと込み上げる気持ちをグッと堪え、見つけたら一番に抱き付くんだ!と決めて名前を呼んだ。


 「空!!」


 A組の華やかな空気感を引きずって叫んでしまい、その後すぐに後悔した。

 F組は学年最下層の落ちこぼれと言われているクラス。

 担任と話す空は目線だけをこちらに向け、どんより沈んだ教室の中で一人、浮いていた。


 「なんだこれ」


 抱き付くことなど許されない殺伐とした雰囲気。まるで空のカンニングが事実であってほしかったと願うかのように聞こえる陰口。

 問題児は問題児らしく落ちこぼれていろとボヤく女子生徒。


 私を避けて教室に入った鏡堂は空のこめかみに触れた。


 「関係ない」

 

 思いの外、優しく払いのけられた手は今度、ワイシャツが七分袖くらいに捲られた空の腕を取る。


 「なかったよな、昨日まで」


 鏡堂の声に力がこもるのが分かる。

 不良同士の喧嘩だろうか。よく見るとこめかみや腕、手の甲に浅い切り傷のような痕。陰になって見えなかった口の左側も切れている。

 空と付き合ってから深い話は一切していない。軽く自己紹介をしてちょっとずつ話を広げている最中だから、鏡堂が知っていることを私は知らない。



 「だったら?」

 「………」


 お互い目で話し合っているんじゃないかってくらいすごい目力でバチバチ。

 何かを言おうとして口を閉じた鏡堂に、緊張の糸が途切れたかのように睨み合いが終わった。


 「夏木ちゃん、一旦戻ろっか」


 村尾も私の知らない何かを知ってる。

 普段空気を読まない村尾が分かりやすい程に愛想笑いを向けている。


 …みんなで隠すなんてずるいじゃん。


 「…ずるいよ」

 


 微笑むだけで何も言わない村尾の横顔に呟いてみるけれど、返事はなかった。

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