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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり


 辛いのは私じゃなくて空だ。私ばかり泣いてちゃだめ。気持ち切り替えよう。

 休み時間、トイレの鏡に映ったかわいくない私の頬を叩いて喝を入れる。空の隣を堂々と歩けるようにお気に入りのアイシャドウで目元を少しでもかわいくする。泣いたらすぐに腫れてしまう瞼を隠すようにまつげをぐいぐい上げた。


 HR終了の号令と同時にF組へ走る。うちのクラスはいつもHRが長いからもしかしたら空はもう帰っているかも。そしたら恭子を追いかけて弾丸放課後デートしよう。



 いるかどうかも分からない教室の外で息を整える。話し声が聞こえるから何人かの生徒は残っているみたい。

 走って崩れた前髪を直してドアの陰から覗いてみると、空は机に突っ伏していた。


 よかった。まだいた。


 声をかけようと口を開きかけた時、耳に届いた女の子たちの言葉を聞いて体ごと引っ込んでしまった。



 「カンニングで0点はマジで馬鹿」

 「それ!バレるかもって思わなかったのかね?」


 キャッキャとはしゃぐ女の子たち。本人、目の前にいるんだよ。しかも、カンニングしてないんだよ。どうして根拠もないのに平気で人を傷付けられるの。



 「やっぱ不良は不良だよね。あたし去年消しゴムにカンニングペーパー仕込んだけどそもそも答え間違っててさぁ!」

 「はっはっ、何それ!バカじゃん!やば!お腹痛いんだけど!!」


 「ていうか、先生の誰も擁護してくれないって超嫌われてんね。明村も、関わるのやめて正解だよね。さっさと退学しちゃえばいいのに」

 「あ、ねえ!明村の裏アカ知ってる?丹羽のことボロッカスに書いててメンヘラみたい」

 「え!知らない!見たい!」


 「“社交辞令で学校辞めないでって言ったら本当に残りやがった。邪魔。クラスで浮いてるの気付いて”だって!やば、こっわ!」

 「他にもあるよ。これとかやばくない?」

 「“不幸そうな面してるから構ってあげてただけで友達ヅラされたんだが”って、サイテー!ハハハッ」



 高校生にもなってこんな話題で盛り上がるの?最低なのはどっち?


 「空!帰ろう。パフェ食べたい」


 私はお豆腐メンタルだし怒っても悲しくてもすぐに泣く。でも今は絶対泣いちゃだめだから、力尽くで空の体を起こしてその場から離れたかった。



 「ごめん、気分じゃない」


 起き上がってはくれたけど立つ気はないみたい。付き合う前にずっと見ていた視線を下に落とす癖。全然こっちを見てくれない。


 「また謝った」


 謝ったらキスをして。覚えてるよね。むやみに謝らせないための作戦だった。


 「帰って」


 私の言葉はなにも響かない。…なら、直接響かせればいい。




 陰口を楽しんでいた子はまだいるし、なんならめちゃくちゃこっちを見てる。軽いと思われるのは嫌だけど私のことを見てほしくて、私のわがままで、キスをした。



 「教室でやるなよ」

 「あれ誰だっけ」


 なんのムードもないどころか、口を離してから見えた空の目はすごく怖い。すごく怒ってる。すっごく睨まれてる。


 「あーあれじゃん?A組のさ、痴漢されて超泣いてた人」

 「あー!そうだ!A組の、自称アイドル!」

 「ぶわっはは!どうせ自分から仕掛けたんだろ、今みたいに」

 「被害者面も大概にしろって」


 名前も知らない他クラスの人からの容赦ない悪口に、堪えていた涙が溢れてしまった。

 痴漢されたことが広まっていることに動揺して一瞬、思考停止してしまったけれど頭より先に涙腺が反応した。

 こんなんじゃめんどくさいと思われて空にまで嫌われちゃう。…もう遅いかな。キスしちゃったし。こればっかりは自分で蒔いた種だ。

 でも、泣き虫だから泣いちゃうよ。



 「空」



 子どもみたいにビービー泣く私を見ても立ち上がろうとはしなかった空の名前を、誰かが呼んだ。



 「追試。今から受けて」



 鏡堂だ。泣きじゃくってぶさいくな私を見てぎょっとしていたけれどすぐに通常に戻った。



 「受けないっつってんだろ」

 「お前の意思は聞いてない」


 

 苛立つ様子で答える空に、にっこり笑顔で圧をかける。喧嘩になりそう。


 

 「死ねよ」

 「死なねえよバーカ」

 「うざ」

 「早く来いよ。いつまでもうじうじして楽しいか?」


 鏡堂はどうしてそう、人を煽るのかな。幼馴染だからって傷付くよ。



 「追試を辞退して俺とバンド組むか、追試受けて卒業まで頑張るか、選ばせてやるよ」

 

 どっちを選んでも空にとっては嬉しくない。それが分かっていて聞くなんて、鏡堂の性格を心配してしまう。でもどうしてバンド?


 「空、受けるだけ受けてみよう…?」


 怒っているかもしれないけれど、別れ話は追試の後にでも…。


 「俺が追試を受けようが学校を辞めようがお前らに関係ないだろ。なんでそんなにしつこいんだよ」


 “うぜえ”と呟く声にかぶせて反論する。


 「だって悔しいじゃん!頑張ったことをなかったことにされて、空が誰よりも頑張ってたことを知ってるのは私たちだけで…。空が良くても、私が嫌なの!点数が全てじゃないけど、みんなに空はすごい努力家なんだって教えてあげたいの。空のこと何も知らないで悪く言う人に、それは違うよって、教えてあげたいの。私のわがままかもしれないけど、これを理由にしちゃいけない?泣き虫な彼女に泣かれてめんどくさいから受けますって、だめ?」


 言いたいことが溢れてめちゃくちゃだけど、でも、間違ってない。


 「それと、空が学校辞めたら寂しいから絶対だめ」



 「はぁ」



 そんな盛大な溜息を吐かれたら凹むな…。

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