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君がいたから  作者: HRK
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side 武藤 恭子


 『は?空が?』


 昼休みも終盤に差し掛かり、目に涙を溜めているアカリの腕を引っ張った。直接話したことはほとんどないけれどどんな人なのかはうっすら知っている。

 学年主席の藤ノ木 優の腰巾着的立場でありながら自身が放つ存在感は計り知れない。なんといっても声が大きいからよく目立つ。あくまで優等生だけれど、その口調はイメージとはかけ離れている。

 去年、丹羽にちょっかいを出しすぎて黒板消しを投げられたという話は有名だ。


 「鏡堂くらいしか、頼めそうな人いなくてさ」


 水筒に持参した熱そうなコーヒー片手に“めんどくさい”と言いたげな表情。目は口程に物を言うと言うがこういう時に使うのだろう。それでもあたしの想像とは少しだけ違った。もっとハッキリしていて嫌なものは嫌とバッサリ言うような人だと思っていたから。

 もしかしたらあたしから何か頼まれる、なんて思ってもみなかったことなのかもしれない。


 「担任は?」


 気が乗らないのかもっともらしい提案をしてきた。


 「先生なんて誰も信用ならないよ」


 まるで、あたしが全力で丹羽を庇っているみたい。そうではないことを一番に主張したいけれど時間の無駄遣いは避けたい。


 「優も来て」



 小さなため息とともに立ち上がり、仕方なく手を貸してくれる様子。










 「はぁ、出た。なんで呼ぶかな」



 鏡堂を連れて職員室前へ戻ると露骨に嫌な顔をされた。あたし、やっぱり好きになれないや。アカリの彼氏だからやってあげてるだけであんたには何の感情もないから。


 「なんで追試受けねぇの。めんどくせぇの?いじけてんの?」


 どっちが問題児か一瞬迷う程に鏡堂の言葉遣いが荒い。しかも初っ端から喧嘩腰やめてよ。治安悪いから。


 「鏡堂は黙っていなさい。こんな問題児と関わると君が損をするよ」

 

 学年主任の岡野先生の言葉はいちいち嫌味ったらしい。丹羽のことが嫌いなんだとしても、仮に教師である人が言うべきじゃないでしょ。


 「ふてくされてねえで受ければいいだろ。馬鹿じゃねぇの」


 先生の声は一切聞こえていないかのように無視。メンタルつよ。先生たちの顔もひきつってるし。


 「頑張って報われるなんて夢みたいな話、今までもこれからもないって知れるいい機会になった。もう全部どうでもいいわ」


 てっきり大喧嘩に発展するのかとヒヤヒヤしていたけれど丹羽のテンションがみるみるうちに下がっていくのが分かる。

 数秒の沈黙が流れアカリの鼻をすする音と、遠くの生徒たちが楽しそうに談笑しているのが聞こえた。


 「じゃあ」


 喧嘩を売りに行くような態度を改め静かに口を開いた。



 「諦めて状況が良くなったことは今までで、一度でも、あったのか」




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