side 鏡堂 広太
*
おかしい。
「なにこれ」
「………」
空の彼女と優と俺。廊下に張り出された中間試験の結果を見て目を丸くした。
ウチの学校は各教科の総合得点で順位を付けるから個人の偏差値丸裸状態なんだが。
「うげ!!また藤ノ木と鏡堂がトップかよ。怖〜。あーで、空は?」
途中合流した村尾だけが状況を把握していないようで通常運転だ。
10科目の合計1,000点。F組のチャラ男は600点とクラス内ではぼちぼち。優は当然のように満点。俺は2点落とした。……そんなことよりも問題は空の点数。
「え?」
ようやく理解したらしい。
「え?何これ。どういうこと?」
空の順位は最下位。得点は何故か、『0点』だった。
全教科名前書き忘れ?そんなことあるか?解答が書かれた問題用紙で自己採点した結果では900点前後行くはず。
「おはよ」
「空…?」
背後から聞こえた聞き慣れた声に夏木だけが振り返る。
「カンニングで受験資格無しだって」
一見爽やかに言ってみせる空の強がりに呆れる。カンニング?馬鹿か?F組での最高点は700点台だ。空がカンニングされた側ならまだ分かる。誰の答えを写したらあんな高得点になるんだよ。
「カンニングしたの…?」
後に"してないよね?"と続きそうな夏木の声色。いつもニコニコしているアイドルみたいな女の、初めて見る怒りだった。
「してないって言っても信じてもらえなかったよ。こんなんだから」
たしかに不良だったら先入観や印象で努力が水の泡になってしまうこともあるだろう。
でも、試験なんて実力勝負。結果を無かったことにしていい理由にはならない。生徒の手本にならなければいけない教師がやっていいことじゃない。
「空…。悔しくないの」
空の気持ちを代弁しているように怒りや悲しみで夏木の声が震えている。
「仕方ないんじゃない」
"全然平気です"みたいな顔で壁を作り、これ以上騒ぐなと牽制しているみたい。
普段うるさい村尾でさえ黙ってしまう空気感。泣き出した夏木の顔を覗き込み『なんで泣くのー。ごめんね、せっかく教えてくれたのに無駄にしちゃった』と謝る空。違う。謝るのはお前じゃない。
こんなにはらわたが煮え繰り返る思いは初めてだ。空の親に怒りを感じたことはある。けど、そんな次元じゃない。受験資格無しと判断した教師への怒りはもちろん。
俺は空に怒っている。俺が喧嘩を売ったら反抗してきたくせにこういう時にどうして笑っているのか。
代わりに泣いてくれる女に壁を作るなんて最低だ。文句の一つくらい言えばいいだろ。本人が仕方ないって諦めてしまったら、優しい人たちはそれ以上何も言えない。第三者が喚けば喚くほど、空を傷付けてしまうと分かるから。
…俺は優しくないから。勝手に分厚い壁作られても、そんなものに構ってあげられるような人間じゃない。
放課後、打ち上げをする予定だったそうだが当然気分が乗らないからと各々帰宅し出した頃。
いつも登下校を共にしている優を先に帰し、まだ教室に残っている確証もないのにF組へ向かった。
夏木が帰ったならもういないかも。
なんとなく幼馴染の勘、と都合よく解釈し教室に一人残る空を呼んだ。
名前を呼んでも突っ伏して動かない。これが夏木だったら顔を上げるんだろう。
「なぁ、空」
寝ているわけではない。そう分かるのもきっと幼馴染の勘。
テスト勉強をする仲ってだけでそれ以上もくそもない関係だけど。俺にはなんでも言うだろ。
「空」
「……さい」
怒れ。腹ん中に抱いている黒い感情を、せめて俺にだけでもぶつけてくれ。
「…うるさいって言われたって黙らねえよ。周りがこんな気持ちになってんのに本人が悔しくないわけねえだろ。強がんなよ」
デリカシーがないと言われてもいい。傷口に塩を塗りでもしなきゃ、全部自分の中に押し込んで無かったことにするだろう。そんなのが毎回続いてみろ。人格破綻するぞ。
「…悔しいとか、…どうでもいい」
ぽつりぽつりと紡ぐ言葉。突っ伏しているから表情までは分からないが、まるで本当にどうでもいいことのように言う。なんとも言えない違和感に胸騒ぎがする。
床と椅子が擦れる音。ゆっくり立ち上がった空は、俺を見て笑った。
「頭いいなら楽に死ねる方法教えてよ」
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