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君がいたから  作者: HRK
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side 丹羽 サキ


 『私のお兄ちゃんは、ばい菌です。私のお父さんは、汚らわしいばい菌です。私のお母さんは、女神様です。』


 小学校の授業参観で家族についての作文を書かされた時に読んだ文章。私はいつだって可哀想な子でお母さんはそんな私を守ってくれる唯一の存在。全部本当のことなのにどうしてか、怒られた。


 『家族のことを悪く言ってはダメなのよ』

 『兄弟ならいつかきっと分かり合える時が来る』

 『お父さんが養育費を払ってくれているからあなたとお母さんが生活できているのよ』


 先生の言うことはいつもよく分からなかった。どうして私が悪いことをしているみたいに言うの?ばい菌をばい菌と言うことがいけないの?どうしてお父さんが養育費を払っていると嘘をつくの?私はお母さんに守られているんだよ。叩いても叩いても治らない病気のお兄ちゃんと、お腹が空いて倒れそうな私を置いて違う女の人のところへ行った汚らわしいお父さん。私は悪い子じゃなくて可哀想な子。


 『あいつは変だから関わっちゃダメってお母さんが言ってた。』


 クラスメイトの容赦ない陰口だってお母さんが守ってくれる。


 『可哀相。私の可愛いサキ。他人より可愛いからって妬まれて陰口なんて…。サキの味方はお母さんだけなのね』


 お母さんがいればそれでいい。汚いお父さんも、故障して治らないお兄ちゃんもいらない。お母さんがいてくれるなら…。



 *



 『あんたさえいなければサキが可哀相な子にならずに済んだのに!!疫病神!罪を償え!死ね!』


 お兄ちゃんが帰ってくるとお母さんは全力で守ってくれる。お兄ちゃんは私を叩こうとするんだって。叩いて、苦しめて、楽しむ悪魔なんだって。

 だからお母さんが叩いて反撃して、私がこれ以上可哀相な子にならないように戦ってくれる。弱いものをいじめようとするお兄ちゃんが動かなくなるまで叩いて、叩いて、あの人を呼ぶの。


 お父さんに捨てられた可哀相なお母さんを守ってくれる人。動かなくなったお兄ちゃんをもっと苦しめてくれる人。叩いても〝痛い〟って言わないから気味が悪いってたくさん苦しめてくれる。私をいじめようとするお兄ちゃんがたくさん苦しめられていると気分が高揚する。自然と笑顔になって、心が穏やかになる。だからこれは、私たち〝家族″にとってなくてはならない行事。お祭り。私を笑顔にする魔法。


 『サキ。あなたを不幸な子にしてしまってごめんね。あんなばい菌を生んでしまった私が全部悪いのよね。死んで償うしか考えられないの。ねぇサキ、お母さんと一緒に死のう?サキを殺して、私もすぐに追いかけるから』


 『サキはお母さんと生きたい。死ぬなんて言わないで?』


 『サキは本当に優しくていい子ね。サキだけは私に似てとってもいい子。可哀相なところも似てしまったけれど…。これからも私がサキを守るからね』


 お母さんはいつだって優しい。お母さん以上にいいお母さんなんてこの世にいない。お母さんは私の全て。お母さんがいない世界では生きられない。お母さんもきっとそう。私とおんなじ可哀相な人だから。



 『丹羽さん。志望校決めた?担任から進路希望調査票集めて来いって言われちゃって。丹羽さんだけだよね?出してないの』


 『峰高』


 『は?…丹羽さんって冗談とか言うんだ』


 中学のクラスメイトに馬鹿にされて腹が立った。お母さんと離れるときは必ずカッターを持ち歩いている。私は可愛いから狙われやすいんだって。何かあったらこれで刺しちゃえばいいって。


 『今、どうして笑ったの?』


 右手にカッターを忍ばせて睨んだ。私は可哀相だけど弱い子じゃないから、いじめられたら何倍も苦しい思いをさせる。痛いって言われてもやめない。絶対にやめない。


 『峰高って偏差値いくつか知ってる?70オーバーの超難関高校だよ?それなのに、丹羽さんったら、ハハハッ!』


 このブスは私には無理だと決めつけて笑った。私が怒るのも仕方のないこと。私は可哀相な子だけど馬鹿じゃない。出来ないと思ったことはないしお母さんが何でもしてくれる。あのばい菌が行けた高校に私が行けないわけがない。私は賢い。私の方が天才。だから、この女は、間違っている。


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