side 夏木 あかり
『丹羽大空って分かる?』
『超問題児の?分かるよ』
『…かっこよくない?』
『えぇ、そうかな。雰囲気じゃん?』
親友の恭子との放課後勉強会。最近できた好きな人が頭から離れなくて集中できない。
なんの接点もない超ヤンキーなのに見かける度にキュンとしてしまう。あんまり笑わないし伏し目がちだから目は合わないけれど、なんだかすごく惹かれる。
何の用もないのにF組に行ったり、気付けば探してる。どうにか関われないかなって。
雰囲気が変わったって聞いて、以前の様子を言葉で説明してもらったけれど全然ピンと来ない。とにかく今、すごくかっこいい。ヤンキーはタイプじゃなかったはずなのに。
『ね、今度話しかけてみようかな』
『やめときなよ。怖いよ』
恭子に反対されたって関係ない。これは背中を押してもらうために言ったんじゃなくて、行ってくるね!ってことだから。
まずは話しかけて、声のトーンとか、話し方とか。見た目じゃ分からない部分を探るために近付いた。昼休みの限られた時間内。赤い髪のチャラい人と一緒に歩いていたから離れるまで待って、慎重に。
じっと食い入るように陰から見ていたら初めて見えた彼の笑顔。
恋に落ちると本当に『ズッキュン』ってなるんだと知った。
チャラ男がトイレに消えた今がチャンス。小走りで駆け寄り、声をかけた。
「丹羽くんっ」
伏し目がちで全然合わなかった視線がバチリと合った。わ…めちゃくちゃかっこいい。
「急にごめんね。どうしても話してみたくって」
かっこよすぎてまともに顔見られない。不自然に目を逸らしてしまってもったいないな…。
「あの…」
緊張してうまく言葉が出ない。落ち着け、落ち着け、ってひたすら唱えていたら急に壁ドンされた。
「え、ちょ」
ふんわり香る香水のいい匂い。壁と柱と丹羽くんに挟まれて逃げ場無し。近い近い近い近い。現実で壁ドンする人いたんだ…。漫画の世界だけのイベントだと思ってたよ…。
「あの、丹羽く…」
「スカート、下ろせる?」
「えっ」
ただでさえドッキドキしてるのにそんな、え?スカート下ろす?なんで?今?ここで?どういうこと?
「折ってるでしょ。長くして」
ミニスカは趣味じゃない…ってこと?理解できないまま腰で折りまくったスカートを長くした。…こんなに長くしたら笑われちゃう。人生初の優等生スタイルで困惑しながら、丹羽くんを見上げた。どんな顔してるんだろうって。
「うん、これで大丈夫」
長くなったスカートを見て満足したのか、真顔で離れてしまった。もしかしてスカート短い人とは話したくもないって感じ?自分がヤンキーだからおとなしめの子が好き、とか。……もっと話したかったのに。
「せっかくメイク変えてきたのに。こんなスカートじゃ廊下に出るのも恥ずかしいよ」
「やめとけって言ったじゃん?まじで、アカリがそんなロングにしてるの笑える」
「でも壁ドンされたよ。まだ希望あるかな」
「もーやめときな!今度は脱がされるかもよ」
丹羽くんにだったら脱がされてもいいよっ。メイク直しのついでに用を足そうと個室へ入って初めて、丹羽くんの考えが分かった。
「恭子!!!」
「なぁにぃ!?でっかい声出してぇ。びっくりするじゃん」
予測を大きく外れた予想外の生理。当然なんの準備もしていなかったから太ももまで血が垂れてしまっている。
「待って。どうしよう」
「何!?漏らした!?」
恥ずかしさよりも先に丹羽くんへの『好き』が押し寄せてきた。なにそれ、ずるい。え、嬉しい。そんなことある!?優しすぎない!?
「恭子!!」
「うん、だから何よ」
「丹羽くんに告ってくる!」
「は!?」
*
呆気に取られている恭子を置いて、猛ダッシュで丹羽くんのクラスへ行った。昼休み終わっちゃうから、急がないと。もぉ〜雰囲気とかそんなまどろっこしいのどうだっていいから、何がなんでも告白して、ダメなら明日もう一度!!
「丹羽くんっ!!!」
クラスで談笑している丹羽くんを見つけてまっすぐ距離を詰めた。
ヤンキーだろうが元根暗だろうが、今はどうだっていい!
「…ちょっと、顔貸してもらえるかな!」
どうしてこんな言い方になってしまったのかは自分でも分からないんだけど、おかげで呼び出し成功したから良し。
クルクル戻した短いスカートの裾を触りながらドキドキ高鳴る胸をどうにか落ち着かせる。
なんのムードもない、よりによってトイレの前だけど。
「…さっきは、あ、ありがとう。びっくりしたよね」
「………」
意外と静かな人なのかな。何も返答してくれない。
本当に好き?告白しちゃって大丈夫?まだ何も知らないんじゃない?…寸前になって初めて戸惑っているけど…でも。
やっぱり好き。一目惚れから始める恋愛もありじゃない?
「…私と、付き合ってください」
言ってしまった後で、彼女がいるんじゃないかとか、そもそも嫌われてるんじゃないかとか、色々よぎった。…考えが足りなすぎたけれど、だって、もう、言っちゃったし…。
当たって砕けろだ!
「…ごめん。今は誰かと付き合うとか、考えてない」




