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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太



 あれから何回か勉強会を開催し、空は着実にレベルアップしていった。A組の村尾が分からないと持ってきた宿題を一緒に考えて答えを導き出していたり、F組とは思えないくらい。

 環境次第じゃ俺たちと張り合えてたかも、なんてヒヤッとする理解力だ。


 「二人は進路どうするの?」


 サイゼ勉強会の準メンバーとなりつつある村尾がチキンを齧りながら進路の話を始めた。空は寝ているのか、まだ来ない。


 「MARCHは堅い。目指すは早慶かな」

 

 優の顔色を伺いながら、俺の行く先はお前次第だと念を込めた。将来やりたいことも決まっていないから遊び感覚で進路を決めてしまえる余裕はある。


 「行けるところに行く」


 実の所、高校ここを選んだのは優が背伸びせずに行ける最難関だったからで、特別こだわりがあったわけではない。大学も同じように決めるのだろう。

 優の家は俺とは違って勉強や進路にかなり厳しい。父親は国家公務員、母親は高校教師、二人いる兄はそれぞれ医学部と法学部ときてる。三男だからこそ適当な進路を選択する自由を与えられているが、家の中ではバチバチだと愚痴を漏らしていたことがある。


 「藤ノ木って学年一位なわけじゃん?東大とか行けたりする?」


 ヒーローを見る子どものような瞳で食い気味に聞く村尾だって、実は頭は良いと思う。勉強ができるという意味で。ただ、性格がバカというか。残ろうと思えばS組残留もできたはず。本人の話によると高校デビューとやらで今が楽しくて仕方ないんだとか。それだろ、A組に落ちた理由。


 「さぁ。行こうと思えば行けるんじゃない」


 わざわざ行こうとは思わないけど、と続きそうな投げやりな態度にホッとしている自分がいる。東大行くって言われたら俺でも多少は焦る。俺は確かに賢いし勉強できるし天才だけど、目指しているのは日本一ではなくてこいつを抜かすことだから。


 「言ってみてぇ、そんなことおおお!!!」


 くぅー!と騒ぐこいつは一人浮いていることに気付いていない。頭ん中お花畑で人生楽しそう。

 決して見下しているとか軽蔑しているわけじゃなくて、こういう高校生のノリがあっていいなぁって思うだけ。


 「ごめん、寝坊した」


 村尾のテンションが上がったところで若干の寝癖を抑えながら登場した空。実家で生活しているらしいけど暴力を振るわれなくなったのか、帰るたびに怪我をしていた頃よりだいぶ落ち着いている。


 けどこいつの親、離婚してるよな。再婚でもしたんだろうか。母親からの暴力であんなにボロボロになるとは考えにくい。デリケートな問題なだけあって誰も何も知ることができなかった。


 「あっ、俺、S組からA組に落ちた村尾って言います。噂は常々…」


 急に大人しくなったKDに「あぁ」と短く返事をした眠そうな空。

 ちゃんと話すのは初めてなんだっけ。


 「今日は何時」

 「17」

 「ん」


お互い目を合わせずに会話するのってなんか特別な関係っぽくてずるい。俺なんてまだ顔色伺ってねえと話せないのに。


 「バイト?」

 「ん」


 教科書とノートを広げた空に、村尾が聞く。バイトって、禁止じゃなかった?


 「どこで働いてんの?」

 「その辺」

 「その辺かぁー。これ以上踏み込めない…!」


 テンションバカな村尾は人見知りしないらしく、ガンガン話しかけていた。彼女の存在や見た目の変化について、俺が聞けなかったことを全部。


 「彼女いるんだ!そりゃいるよね!かっこいいもん。高校の人?誰?俺知ってるかな」

 「夏木」

 「夏木…?…え、、」

 「話聞くよ。村尾がしつこいって」

 

 どうやら空の彼女は村尾の片想いの相手だそうだ。俺は知らない。どんな女なのか想像もつかん。


 「しつ…、俺の名前出るの!?やだ!なにそれ、嬉しい。夏木ちゃんの口から俺の名前が…うへへ」


 そういうところだろうな、モテないの。今度偵察行かねぇとなぁ。性格悪そうな女だったら何がなんでも引き剥がしてやろ。


 「写真ないの?俺の夏木ちゃんと俺のイケメン空きゅんがイチャイチャしてる写真」


 普通、見たくないだろ。片想いの相手が恋敵と写るものなんて。


 「あっちが全部持ってる」


 ちぇーつまんねーの。と口を尖らせるお子ちゃまを前に、俺は察してしまった。

 …空、携帯持ってないんじゃないかって。


 「なー、メアド交換しよ?夏木ちゃんとの惚気話聞きたい」

 「無理」


 …持ってないんだと思う。家庭環境複雑すぎて、高校生だけど携帯持たせてもらってないんじゃないかな。


 「ぐっ、、越えられぬ初対面の壁…」


 まぁ、村尾ならほっといてもいいか。


 「それより勉強」

 「そーだそーだ」


 せいぜい俺は優の声に便乗するくらいしかできないけれど、いつかどんな形でもいいから空の力になりたい。

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