side 丹羽 大空
「まぁ適当にくつろげや。狭いけど」
「いや、俺ん家な?」
「ダハハハ!」
タバコと酒の臭いが充満した6畳程の部屋に6人で雑魚寝する。狭いけど机で寝るよりも、ベンチで寝るよりも、深く眠れた。
「アンタまた人数増えてるんじゃないの!?」
「うっせぇな!いちいち人数覚えてんなや」
小声で言い争うのが聞こえぼんやりと目を開けた。時計はおかしなことに「12」を指していて、昼まで寝ていたのか???とプチパニック。言い争っていたのは家主のヤンキーとその母親っぽい人。真剣に人数を数えているのがちょっと面白い。
「どこで拾ってきたんだか知らないけど変な事件だけは起こさないでよね!」
「ったりめぇだろ、アホか!」
「あぁんた親に向かってそんな口の利き方して!!」
これだけ激しく口論してても声のボリュームはかなり抑えめなのがありがたい。まだ眠くて…。
それから何時間も寝てすっきり目覚めたのは外が暗くなってからだった。
「おーん起きた。お前名前は?」
「丹羽大空」
「ガチ?芸名みたい」
「大空かー、何て呼ぶ?」
「あだ名とかねーの?」
「空」
「じゃそれで」
本当は嫌だったけどぶっちゃけなんでもよかったってのが本音。長く関わる予定もない他校のヤンキーからの呼び名なんてどうでもいい。
「じゃーん。俺様お手製のぐちゃぐちゃ卵焼き~」
「それ卵焼きじゃねーから」
「空ちゃん食べて?」
コントのような軽快な切り返しがジワジワ来る。…朝ごはん、的な。夜だけど。
「お前、明日は学校行けよ」
ぐちゃぐちゃ卵焼きを食べ終えて散髪してもらっている時にリーダーっぽい人、須田さんに言われた。
「なんていうか空は、こっちに染まっていい人間じゃない。もっと真っ当に生きるべき」
俺の何を知ってそんなことを言うのか。半日一緒にいるだけの人間が。
「なんか分かる。悪いことやってほしくないなーって感じ」
家主の阿部さんまで。真っ当に生きてきたつもりだけどその結果がこんな落ちこぼれじゃ誰も何も言えないでしょ。それに鏡堂や藤ノ木にようなぼんぼんと違って劣悪な環境で育ってるから性格ひん曲がってるし今更正しく生きるなんて無理だよ。
「俺ら、桜高の2年でこんな甘っちょろい感じだけどさ、この辺ってもっとやばい桜高の先輩がうろついてるから気を付けろよ。目が合っただけで喧嘩ふっかけてくるから」
桜高って確か峰高より少し偏差値が低いだけで難関校だよな…。ってことはもしかしたら今の俺だったらこの人達の方が頭良いんじゃ…。こんな不良なのに。うわ…最悪。俺って何のために生きてるんだ。




